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厨二英雄伝説  作者: オレンジべこ
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第1話 「知らない天井」

「…知らない天井だ…」


自然と、そんな言葉が漏れた。

所々薄汚れた白い天井。嗅ぎ慣れたようで、どこか違和感のある消毒液のような香り。体を包み込むシーツの感触。

病院…にしては知りうる何もかもに該当しない謎の一室で寝かされているということを認識するのに、そう時間はかからなかった。


なぜ彼はベッドに横たわっているのか?なぜ彼は知らない部屋で寝ているのか?

少なくとも、彼の記憶の中では巨大な人型兵器が正体不明の巨大生物と激闘を繰り広げている事実は無い。

道を歩いていた所を前方不注意のトラックに轢かれた覚えもないし、電車待ちしている時に後ろから突き飛ばされるような恨みを買った覚えもない。


「…………怠い…」


鉛のように重く、自由の効かない体を動かそうとして、諦めた。尋常ではない疲労感と倦怠感が身体中を奔った。

いつ頃だったか。怪我をして、手術した直後の倦怠感を思い出すくらいには、意識がハッキリとしてきた。とはいえまだ混濁している。

首だけなら何とか動かせそうなので、見える範囲で見渡す。どうやら個室のようだ。

音すら息を潜めそうな、飾り気のない部屋。薄汚れた天井の下に広がる空間は、やはり彼の知る病室と呼ぶには余りにもかけ離れていた。

石造りの壁、年代物の燭台…のようなもの。病室特有の毒々しいまでの清潔感は無い。どちらかと言えば民家を病室に改造したかのようなそんな印象を抱いた。

それでも、彼がこの一室に病室の印象を抱いたのは、微妙に違えど鼻をくすぐる消毒液のような香りだった。

病室ではないにしても、それに近しい部屋なのだろうと、とりあえずは納得することにした。


「っ……!」


ぼんやりとした意識の覚醒にあわせて、先程断念したが体を起こしてみる。やはり相当にだるい。

脱力しきった身体に精一杯鞭打って、何とか上体を起こすことに成功した。普段であれば数秒もかからない単純な動作に、たっぷり5分は要した…ような気さえした。

全力疾走に近しい疲労感に襲われ、深くため息をつく。


「?」


ふと、重労働を労うように頬を清涼な風が優しく撫でた。

窓があることは先程確認していたが、いつ開いていたのだろう?部屋の主の覚醒に合わせ、ひとりでに開いたとでも言うのだろうか?

頬を撫でた清涼な踊り子は、今は部屋に満ちていた消毒液のような香りを霧散させ、カーテンを踊らせていた。

窓が開け放たれたことで、外から鳥の囀りが、喧騒が彼の耳を心地良く叩いてくる。

視線を窓の外に移すと、その先の景色が視界に映し出された。

アスファルトやコンクリートではなく土や石、電柱ではなく樹木。

遠くには連なる稜線は、高層ビルではなく見たまま山の形を型どっていた。

断片的ながら、画面の向こうで見たことがあるような無いような、安易に想像出来る田舎のような風景が、彼の目を焼いた。


「…何処?」


率直な感想だった。

この世にオギャーと産声をあげて、語れる程人生を歩んだ訳では無いが、少なくとも目の前の景色に覚えは無い。

たまに画面の向こうに映し出されては、何となく「良いなー」と、益体もない感想を抱く程度には遠い存在が、目の前に広がっている。

訳が分からない。そもそも俺は昨日何をしていた?

なまじハッキリとしてきた思考に、突然全方位から殴打の嵐が襲いかかる。

考えがまとまらない。茹だるような熱が首筋を焼き始めた頃。唐突に冷水を叩きつけられるような衝撃が鼓膜を貫いた。


「っ…クーロント…様!?」


視界を音のした方向に移す。

耳を叩いた衝撃が、震えるような声の主ではなく、その足元で派手に飛散した金属製のお盆と割れたコップから来たものであることは、すぐに分かった。

だが彼が真に衝撃を受けたのは、寧ろ割れたコップではなく震える声の主の方だった。

女性。メイド服のような出で立ちの、大きな女性だった。なかなかに美人だ。

当然、彼に面識は無い。だが今の彼にとってそれは瑣末なことでしかない。


「クーロント様が、クーロント様が!?」


硬直してワナワナと震えていたと思えば、女性は壊れたラジオのように、同じ単語を繰り返して踵を返した。

邂逅して数秒も経たないうちに、彼女は部屋を後にした。

おそらく人名だろうか?そんな事が脳裏に奔ったが、彼にとってはそれすらも瑣末なことでしかなかった。


「……角だ…」


素朴さ溢れる美貌。それを彩る豊かな髪から覗かせていたのは、牛を思わせる立派なツノ。


「……耳だ…」


明らかに人間のそれとは異なる、動物のそれに近しいフサフサの耳。


「……誰だ…?」


ドアの傍ら、存在感を放つ大きな鏡。

先程、仰向けのまま首だけ向けた先にあったもので、ぼんやりとした意識では意識が向かなかったが、今ならはっきりと自分の姿が見える。

ベッドに居るのは、10代にも届いているかどうか怪しい金髪の少年だった。

他でもない、この一室の主、つまりは彼の姿が、そこには移されていた。

角の生えた女性の来訪で一時的に冷えた思考は、津波のように押し寄せてきた困惑の嵐に耐えきれず、やがて停止した。

彼女は何だ?俺は誰だ?

そんな事をぼんやりと考えながら、答えの出ない疑問を放棄し、彼はとりあえずその身をベッドに委ねた。

窓からの風が部屋の空気を攪拌する中、たわむベッドの鈍い金属音が、部屋に響いた。

文量の勝手が分かりませんがこんな感じで進めていこうと思います。

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