1.たった一つの大罪と何百もの小さな悪
〜作者の雑談〜
前回幼馴染ものから離れるって言ったな、あれは嘘だ。
どうも、ニ〜コニッコの影響で最近まど○ギを見始めた飴風です。
取り敢えずネタができたところまで書きましたので3ヶ月ほど…
は流石に嘘なので頑張って明日から続き書きます。
それでは本編どうぞ↓↓
突如ゴトンと、車体が跳ねるかのように揺り動かされたせいで俺の意識は強制的に覚醒してしまった。
眠たかったはずの目もそれのせいで冴えてしまった。
「ちっ、はあ…しょうがない。現状の整理でもするか…」
と、誰にも聞こえないような声量で呟いた。
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俺、ザグレ・リセティアーズはヴァンパイアだ。
…ヴァンパイアだ。
ヒト、特に若く美しい処女の血液を喰らいライフサイクルを樹立させてきた『ヒトにとって』罪深き生物。
今じゃヒトに制圧され、ちっこい集落で暮らしている嗤いものになったけれども。
何もかもヒト基準で物事を見なくてはならないこの世界には厭になっている。
…自身の話に戻すが、現在進行形でヒトとヴァンパイアとの間で決めたある掟を俺は自らの意思で破ることにした。
俺は今から、ニンゲンの多く住む『東京』へ、自分がヴァンパイアであることを隠し続けながら、暮らす。
仮に俺がニンゲンだとすれば当然のように許される行為だが、たった一つ特徴が違うだけの奴がするだけで全ジンルイから狙われる大悪人へと降格する、悪魔のようなアクションだ。
余りにも当然だが、こんなものバレたら死刑…いや、人間の視点からしたら『殺処分』のような扱いか…
端的に言うと、人間はヴァンパイアのことを動物園の動物と同じように見做している。
人里から来る防護服を着た人間が血液パックを提供する、
それをヴァンパイアが飲む、
その光景を防護服を着た大量の人間が見学しに来る。
…今振り返って言葉に表すと、人間に全て一つ上を通られているな…
知能が人間より非常に劣っていることはないだろうが、それでも掌の上に転がされているのは悔しい。
ああ、話が反れていたな。なぜ俺が掟を破ったのかを皆も聞きたいだろう。
俺は明日で16歳になるのだが、16歳になるとヴァンパイア界では成人扱いとなってしまう(ようにヒトが設定した)。
つまり、常に人間に監視される対象になってしまう。
…俺はその運命から逃げるために、脱走してきた。
あのままヴァンパイアとして生きる…姉と妹2人と幼馴染の重い愛情に潰され、逃げようとしてもニンゲンに捕まるぐらいなら…今のうちに逃げてリスクを背負ってでも人間界でしかできない楽しいことをたくさんしてくたばりたいんだ。
せっかくこんな魅力的な世界に産み落とされてきたんだし、こんな機会も二度とないかもしれない。
そんな甘い部分だけを囁く誘惑に、俺は我慢しきれなかった。
…で、その人間界でしかできない楽しいことってのは…
アイドルのプロデューサーだ。
俺はこれまで人間を散々貶しているように言ってきたが、人間自体は嫌いではない。
というかむしろ面白さ未知数のものばかり持ってくるから人間来たらワクワクする。
で、その面白さ未知数のものの一つに『スマホ』がある。
スマホってのは連絡網として利用できるだけでなく、娯楽として楽しめるアプリもたくさん入っているから素晴らしい機械なものだ。
ちなみに俺は15の誕生日にスマホをもらった。
そしてその娯楽のアプリで俺が一番ハマったのは、
the ○○○○○@○○○○というアイドルゲームだ。
その元ネタとなるアイドルプロデューサーが人間の世界に存在すると聞いてからは、もはや脱走するプランを作っていたと思う。
最後に脱走してきた手順についてだ。
俺はまだ未成年扱いだからいくつかの障壁がない。
その一つに自由行動の許可がある。
まだ幼いから自由に遊ばせばいいし、すぐに見つかるだろうと考えているかは知らないが、俺はそれを悪用した。
必要最低限のものを詰め込んだバックを昨夜埋め、自由行動の時間に掘り出して逃げた。
親は妹の世話をしていたから誰も気づかなかったのはとても良いことだった。
昼に脱走して日もくれそうなときにこの列車に乗るまで走ったから20キロほどは走ったのだろうか?
でもヴァンパイアとバレないためにマスクを付けていたから思ったよりは行ってないのかもしれない。
…まあ結果オーライか。脱走成功してんだし。
現状整理してたら眠くなってきた…もうちょっと寝るか…
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午後10時ーー
終着駅に降りた俺は東京を目指すためにどうしようか悩んでいるのであった。
「まずい、『長野』ってどこだ…」
確かスマホにはそういうのもわかるという機能があると聞いたことがあるが分からない…
あと無計画過ぎてスマホの充電も少ない。
流石にプロデューサーになりたくて脱走したヴァンパイアが変なところで野垂れ死ぬor捕まるは笑えないぞ…
「はあっ…はぁ…ここまで来れば…」
「っ!?」
「きゃっ!ご、ごめんなさい!」
「い、いや大丈夫だ。逆にこっちこそ気づかなくてすまん」
も、もう俺を捕まえようとしている人間が来たかと思って人生積んだかと思った…
…というか俺の目の前に防護服を着ていない人間がいるのか!?!?
「…というより、こんなところで何をしているんですか?」
「え!?いや…東京を目指していて…というか、それ言うならあなたこそ何をしてるの?」
ま、まずい。初人肌を見て我慢しろとは厳しすぎる…
「え、いや私は別に…ぅうん、あなたが言ったのに私が言わないのは理不尽だね」
待って早く逃げたいのに前置き長くなるぐらい話す質問してしまった終わった俺まだバレたくない!
「私、誰になんと言われようとアイドルになりたいの。
それで親と一悶着あってさ…家出しちゃったの」
…え?マジで?初生人間がアイドルを目指したいっていう奇跡あるの?
「え、本当!?実は俺もアイドルのプロデューサーになりたくて東京に行こうとしてるんだよ!」
「…ふぇっ?」
(え待って何この子めっちゃかわいい)
「えっ、そ、それって本当のこと?」
「本当のことだし、何ならこっちも一悶着あって逃げ出したからさ…似た者同士だね」
「え?え?近くにこんな似た境遇の人がいるなんて知らなかった…」
自分も同じこと思ってたけど、俺ヒトじゃなくてヴァンパイアだよってのは心の中にとどめておく。
「ってあなたは…あ、そういえば名前聞くの忘れてましたね。私は大井深雪って言います、よろしくお願いします」
「あっそうだった、名前聞いてなかったね。僕はz…」
っ間違えてザグレ・リセティアーズって言いかけたけどここじゃ違和感抱かれる…えっと…
「鹿島双葉、って言うよ。よろしくね」
「双葉さん…ですか?」
「え、うんそうだよ?」
へ、変な名前じゃないよね?
いやこれ以上この話題続けたら絶対ボロ出る話題変えないと…
「それで、俺は東京行きの列車に乗りたいんだけどどれか分からなくてね…」
「あ、私もその列車に乗ろうとしてたんです!せっかくなので一緒に乗りましょう!」
「ほんと?ありがとう!恩に着るよ」
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列車内ー
「列車の乗り方教えてくれてありがとう」
「いいですよ何回も言わなくて」
俺はこの子、大井さんのお陰で1つ目の目標『バレずに上京する』を達成した。
ってのはどうてもよくて!大井さん!乗る前は暗くてあまり顔が見えづらかったけどアイドル志望って言ってるだけあるからめっちゃ美貌なんだけど!
髪はキメの整った真紅のセミロングだしその髪と色の同じ瞳は誰にも負けないという情熱が伝わってくる、丸みを帯びているのにも関わらず凛々しい眉は子供らしい無邪気さと大人びた美しさが備わっている!
「ふわぁ…もう日を跨ぎそうなんで眠たいですね…私は先にこっちで眠りますね…」
「分かった、明日から頑張ろうね大井さん」
「深雪でいいですよ…おやすみなさい…」
…ね、寝ちゃった…さっき言った凛々しさとか大人びた美しさとかが消えて子供っぽさが残ってるよ…
あれ、そういえば何歳なんだろ。
とか色々と考えていたとき、リンローンと軽快な通知音が俺のスマホから発された。
「こんな夜中なのに誰だ?」
と、残り充電5%と表示されているスマホを付けたら、
『おたおめ〜!(つ≧▽≦)つ
昨日は丸一日あんたのとこ行けなくてごめんね〜m(_ _;)m
今日は朝になったらそっちに行くから!』
っていう、カナセ・メシニア…俺の幼馴染からのメールだった。
…さっきも言ったと思うが、俺が脱走した主な元因及び元凶だ。
彼女を一言で説明すると『ヤンデレ』。
それ以上でもそれ以下でもない。
「まじか…おそらく今カナセは俺が脱走したことには気づいていないだろうけどバレるのも時間の問題ってことか…」
と思いながら、そのメッセージに『ありがとう』と返信して今日は眠ることにした。
(ん?待て、カナセのメッセージに返信しなかったら俺行方不明扱いされていたかもしれなくないか?)
と思いながら。
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「ザグレくん?ねぇ、起きて」
「…ん…どうしたの…?」
「良かった!やっと起きてくれたよ!」
「…え?だ…れ?」
「ぇ…?何変なこと言ってるの!私だよ私!〜〜〜!」
「き、聞こえなかったごめんもう一回言って…」
「〜〜〜!…っていうかこういう下りをしたくて起こしたんじゃないよ!大事なお話があってさぁ」
「ねェ、何デ私を置いてッテあっチにイッタの?」
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朝6時、アホみたいにリンロンリンロンなる着信音と趣味の悪い悪夢に起こされた。
(ちっ…スマホは薄々こうなるのは勘づいていたから非通知にしておけばよかった…)
と思いつつ、念の為既読せずに確認する。
『新着メールが327件あります。』
え?多すぎない?だって午前零時に返信してそこから6時間しか経ってないじゃん?6時間で327件も来るものなの?
だ、誰がこんなにメールしてるのか知りたくなってきた…
『カナセさんからの未読メールが213件あります。』
えっと…あの…え?
カナセだけ?213?新着メールの3分の2を占めてない?
これ既読つけたら絶対にヤバいやつだよね?
つ、通知で来たカナセの最新メールの内容は…
『ザグレなんで私を置いてどっか行っちゃったの私なんかザグレに嫌なことしたっけ何か不満があったのあるならすぐに謝って直すから1秒でも早く戻ってきて私ザグレのこと大好きだから早く帰って来ないと死んじゃうよだめもう無理何してもいいからザグレを取り返さないといけない誘拐されたのされてるならずっと未読にしてる理由がわかるよ絶対にザグレを誘拐した奴は細胞ごと消してあげるからでもトラウマ植え付けられちゃったらどうしようでも大丈夫だよ私がずっと養ってあげるからそんなトラウマ忘れさせてあげるからあれでももしかしてもうこの世にいなくなってはいないよねそれは絶対嫌嫌嫌ザグレがいなかったら私生きてる意味なんて存在しないもんでも仮に死んじゃってたらその遺体にちゅーして私も同じ方法で死ねばまた来世でも会えるもんねずっとずーっと一緒だからでも絶対ザグレは死んでないよね今朝返信してくれたからさでもそれからもう6時間ぐらい経ってるよ全然返信してくれないからほんとにさみしいよいやだざぐれはぜったいにわたしのもとにかえってくるのそしていままでいなくなっていたせきにんをとってもらうために結婚するのぜったいぜったい結婚だからたくさんちゅーしてもらってたくさんのわたしとざぐれのこどもをうむんだからはやくかえってきてザグレ』
絶対に既読付けない。それだけは心に決めた。
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miyuki side
私、なんで勢いでこんなところまで行っちゃったんだろう…
…そっか、あの人のお陰か…
隣から聞こえてくるたくさんの通知音によってうたた寝のようになってきつつあった私は、突然体を揺さぶられて目が覚めてしまった。
「ぅん…?」
「あ、深雪さん起きましたね。
次が俺達のお目当ての東京ですよ」
「…うぅ〜ん、やっとだあぁ〜!」
もっと寝たいとかいう気持ちもさっきまであったけど双葉さんの『東京』という二文字を聞いた瞬間脳みそが冴えた。
だって東京だよ!日本の首都!
私みたいなド田舎在住高校生の超〜憧れの!
目が醒めない訳ないじゃん!!!!!
「あ、ごめんなさい双葉さん大きな声出して…」
失敬、興奮しすぎた。
少し話変わるけど双葉さんに聞きたかったことがあった。
「あの、朝っ腹からずーっと着信音鳴ってたのって双葉さんのスマホですか?」
「あ、聞こえていたんだ。それは僕のスマホで間違いないよ」
「やっぱり…家族とか友達とかが心配してるのかもしれませんね」
「それなら深雪さんのスマホもたくさんメール来てると思いますけどね」
そう指摘されて、気になったので見てみることにした。
「63件…いくらなんでも心配しすぎじゃないですか…?」
今までに見たことのない通知の量にびっくりする私。
でもその話を聞いた双葉さんは、何故か怪訝な顔をしていた。
「いや…まあ…それぐらいが普通だもんな…」
どうしたんだろ?たくさん通知鳴ってたから200件ぐらい通知来てたのかな?
「どれぐらい通知来てたんですか?」
「え?あ、えーと…114件」
「めっちゃ来てるじゃないですか!なんか通知自慢してた私が恥ずかしいんですけど!」
メールの量で双葉さんに負けたことをちょっと悔しがっていたら、
【まもなく東京に止まります】
というアナウンスが流れてきた。
「よし、行きましょう双葉さん」
「スイッチの切り替え早いですね…」
なんで通知のことで悔しがっていたのかが不思議に思えるぐらい吹っ切れた。
だって私それぐらい東京好きなんだもん!
長野から出発してから7時間、やっとお目当ての東京へ足をつけることができる…!
そうワクワクしながら駅のホームに降りる準備をする私だった。
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zagre side
「東京の〜第一歩!」
と、はしゃいでいる深雪さんは家出をしたとは思えない程ピュアだった。
でも、それ位東京に行きたかったのかと改めて思わせられる光景でもあった。
…いやまあ、俺も
「こんなにビル並んでるの…?そんなにヒト集結してるの…?ヤバすぎない…?」
と、駅から見える都会に超興奮していたけどさ…
「双葉さん双葉さん!大量に行きたいところ増えたんでアイドルに応募する前に観光しましょう!」
地元じゃ絶対に見ることのない景色に魅了され、その質問に俺は思わず首を縦に振っていた。
「大丈夫。金なら(色んなとこでくすねたから)大量にある、どこにでも行こう!」
と、万全の準備であることを伝えた瞬間、
「「ぐぅ〜…」」
と、俺と深雪さんの腹の虫が同時に声を挙げた。
「…///…まずは、グルメからですね///」
「ち、近場のを探そうか///」
な、なんか…すごく恥ずかしい…
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clerk side…
ザグレと深雪の近くにあったジビエ料理店にて…
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いきなりだが、私は直感がいいと言われることがある。
このバイトの場合で例えば、なんとなくこの客鹿肉食べそうだな〜と思うと、本当に鹿肉頼んでたりとか。
…まあ、正直言ってこのバイトでその能力が発揮されることなんてほぼないんだけどさ。
っと、なんのためにもならない超どうでもいい自慢話をしてたら誰か扉の前にいるじゃん。
「お邪魔しまーす」
と、律儀に挨拶をしてきたお客さんが二人来た。
…なにこの男女、スペック最上位すぎ。
まず女性の方、朱くてきれいな髪と目を持ってて鼻も筋の通った百万人が百万人美少女と評価するような女の子なんですけど。
その美少女に見劣りしない男性の方、まともに目を合わせたら惹き込まれてしまいそうなきれいな銀髪と銀の目、血筋通ってるのかと心配するぐらい白い肌、マスク越しからでもわかる究極レベルの筋の通り具合の鼻、そして女子のくせに167cmもある私ですら頭一つ分高いこの身長!!
きっと神様はすべての人間にあったイケメンさをこの人に全部あげたんだしょうな…
『少女漫画から飛び出た』っていう表現はこの人用にあったんだなぁって思うイケメンだぁ…
女性の方、私と代わって(真顔)
「えーーっと…あのー店員さん?」
「はぁっ!た、大変申し訳無ございません!!」
美少女とイケメンに魅了され過ぎててこの人たちに心配かけられた!!マジですまん!!命を以てお詫びする!!
〜〜〜
高スペすぎる空間に私みたいなカースト下位の私がいていいのかどうか不安になるが、とりあえずご注文受け付けまではここにいなくちゃいけない。
う〜ん…にしてもこの二人がジビエは食べない直感が…
「私、ジビエなんで食べたことないな…」
だよね、やっぱこの子が猪肉とか鹿肉とか食べる光景なんて思い浮かばないよ。
「なら深雪さん、兎とか穴熊とかがおすすめだよ」
超イケメンさんがそう仰った。まさかのこの人意外にもジビエよく食ってるのか……あ、あと穴熊マジでおすすめだからどうぞ食べて食べて!
「双葉さんがそう言うなら…」
えっと、深雪さんだっけ?可愛すぎだから有名人かと思ったけど名前知らないな…
で、超イケメンさんは双葉さんと仰るのですね、完璧に覚えました。
結局深雪さんは穴熊と兎、双葉さんは猪と羊を頼んできました。
〜〜〜
私はその後、店内見回りという体で何回かあの高スペカップルをチラ見してきたのだけど…
「久しぶりに羊食べたけど超美味しい!」
「思ったより食感が硬いですね…でも脂がとっても甘い!」
嗚呼なにこのカップル、尊すぎる。
何がやばいかって、マスク外した双葉さんが自分の妄想の顔を超えてくれたことだよ!
こんな神と私とが一緒に食べたら私殺されちゃうよ…
深雪さんがやっぱり妥当であることが身を以て分かりました今日からふたみゆ推していきます!
〜〜〜
何回も見回りしてきたことを不審に思った店長によってレジ担当にされた。畜生。
って思ってたんだけど、やり始めたら例のカップルが来てくれたの。マジふたみゆ神。
「会計は7300円になりまーす」
逆にいいもの見せてもらったから7300円あげたいくらいだけども。
「7千、3百円っと。はいこれ」
え?ちょっと待ってこんなイケメンのポケットマネーをこんな下劣な私が触っていいのマジで?
この百円とか今すぐにでもペロペロ舐めたいんだけど!
「ちょうどお預かりしまーす」
「よし、じゃあ行くか」
「「ご馳走さまでした」」
と、最後まで律儀に挨拶をして帰っていった…
「こっちこそご馳走さまでした」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
zagre side
俺がヴァンパイアなせいで、どうしても血を吸いたいがためにジビエに誘ってしまったが…
「僕は好きだけど深雪さんの口には合ったかな?」
「初めてだったんですけど穴熊がとっても美味しかったです!また行きたいなって思いました!」
良かった…深雪さんが初めてと言ってきたから、自分の勝手な行動でジビエっていう変なもの食べさせられた!とか言われるかもしれないっていう懸念あったけど、美味しいって印象が残ったなら万々歳だ。
ついでに俺の血の欲求も満たされたし。
「じゃあ、取り敢えずアイドル事務所に行ってみようか」
「…はい!」
〜〜〜
俺たちが目的としていた76…じゃなくてL&P&Cプロダクションっていう事務所に向かっている最中、というか向かっていたんだけど、
「そこのお嬢さん是非!うちのアイドル事務所に入らないかい?」
と、深雪さんがアイドルにスカウトされたのだ。
…ただ、このスカウトした人が100%何か企んてるのが見え透けなんだよなぁ…こういうの悪質でしぶといって聞くし。
そして、深雪さんもこれは察したらしく、
「いえ、私はこれから行かなくちゃいけないところに行くので…すみません…」
と断った。
でもそんなんでスカウトした人が折れるわけがなく、
「まあまあすぐ終わるから!ちょっとだけでも見に来てくれないかな?」
と付き纏ってくる。
あと、深雪さんが俺のことをチラ見してくる。
面倒なんだけど…まあ元々俺が速急に対応しとけばよかったかもしれないけども。
「あのーすみません、この子嫌がってるのでやめてもらって構いませんか?」
取り敢えず二人の間に割り込んで拒んでみる。
「あなたには関係ない…って、凄い…あなたもアイドルになってみませんか?」
…へ?俺がアイドル?やれるわけないでしょうが!
「…魅力的ではありますが、今回は拒否させて頂きます」
「いや、是非入ってくれ!」
この人にちゃんと話は聞くという常識教えてあげたいよ。
…待て、一か八かだがこの方法ならうまくいくかもしれないぞ。
「…少し、考えます」
「…え!?双葉さん!?」
「快い返事をありがとう。これは私の名刺だ、行く気になったらここに連絡してくれ」
「…失礼ですが、ここに書いてある事務所を調べても構いませんか?知らずに行くのは無礼極まりないので」
「あ?え、ええ。全く構わないぞ」
「ありがとうございます。深雪さん、俺のスマホは電池ないから使ってもいいかな?」
「全然構わないですけど…何するつもりなんですか?」
と言って、電源をつけたスマホを僕に渡してくれた。
「ありがとう。では、暫しお待ちを…」
「ビンゴ」
「「え?」」
突然の俺の発言に疑問符を出してきた二人。
まあでも、事務所の人は仮面を破られたときのような顔してるけど。
「これ、表はほんとにいいアイドル事務所って掲げてるけど、裏では公では言えないような気持ち悪いことたくさんやってることが分かるけど?」
「は…な…そ、それは違うぞ!同名の別の事務所がやってることだ!」
「ほんとに別の事務所なのか?その気持ち悪いことの一つに今やってるような素人をスカウトして…強引に乱暴してるっていうのもあったけど」
「え…!?本当?」
「本当だがまあ安心しろ、それは摘発されてる」
「…畜生が…」
「更に、未成年者への強制わいせつでも何回も摘発されてんじゃん。マジで酷いな…このことをまた知らさせたら、もう本当に後がないんじゃないかな?」
「……」
図星過ぎてだんまりを決め込んじゃったよこの人。
「まあ良い、認めよう。断るなら義務にすればいい」
「…は?」
と、俺が呆けた声を出した瞬間。
俯いてた事務所の人が、深雪さんに殴りかかってきた。
バチィッ!
「…いやほんとに、何考えてるんだよ」
咄嗟の行動で、なんとかこいつの腕を抑え込んだ。
「本当に本当に、てめぇって奴は…」
「逆恨みはやめてほしいんだけども、早くどっか行ってくれ」
思わず頭に血が上り、こいつを吸血してやりてえと思ったが…バレてしまっては元も子もない。
腹パンで済ませた。
「ごふっ!?」
「ひっ!?」
「………あれ?泡吹いて…」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
mob side
「なあお前、あれちょっと見てみろよ」
と、俺は友達に言われてその方向を向いてみたら、
「これ、表はほんとにいいアイドル事務所って掲げてるけど、裏では公では言えないような気持ち悪いことたくさんやってることが分かるけど?」
と、何やら論破の最中みたいな光景が写っていた。
「俺あんな光景見たことないや」
「俺も。というかさ、アイドル勧誘かなんかだと思うけどあの女子さめっちゃ可愛くない?」
それには俺も気づいていた。見た者を必ず引き込ませるような情熱の赤髪が印象的な美少女が多分スカウトされている光景なんだろう。
「んでも彼氏持ちか〜…なんか彼氏の方もめっちゃイケメンだからな〜俺等みたいなモブにゃ気すらないか…」
こいつが彼氏って言ってるやつは恐らく今論破している銀髪高身長マスクイケメンのことだろう。
「にしても、あの赤髪ちゃん銀髪イケメン野郎に愛されてんね」
「リア充は爆発してほしいけど、あれほど美男美女カップルだったら応援したくなっちゃうよね…」
「なら、あの論破が終わるまで見てみよっか」
〜〜〜
「なんか、あのおじさん構えてない?」
「え?」
友達がそう言った瞬間、おじさんが赤髪美少女に殴りかかった。
「「は!?」」
これからの光景を察して思わず目を背けた俺等だが、鈍い音が全てを物語った。
「…いやほんとに、何考えてるんだよ」
全ては物語ってなかった。銀髪イケメンさんかっこよすぎだろ!
そう思ったのもつかの間、イケメンがおじさんを腹パンで2mぐらい飛ばしていた。
「「………」」
銀髪イケメンさんのパンチ強すぎだろ…
「ひっ!?」
っていう赤髪さんの声であのおじさんがぶっ倒れて動いてないことに気がついた。
…いや傍から見てもやばかったからなあのパンチ。
と思いながら119と電話を掛ける俺。
連絡をしているときにカップルとおじさんの周りにたくさんの人だかりができていたが、そこから聞こえたセリフは安心したものだった。
『大丈夫です彼氏さん!あれは必ず正当防衛が成り立ちますから!』
『赤髪ちゃん大丈夫だった?よかったぁ、あの種類の人たちは本当に害悪だからね…』
『この一連の流れを動画に撮ってたんだ。これを見せたらすぐに正当防衛は成り立つし、事務所もやむを得なくなるはずだから!』
…案外、俺等みたいなやつっているもんなんだなぁ…
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
zagre side
殴りかかってきたあの事件は、周りで見ていた観衆たちのお陰で半日も経たずに正当防衛が成り立った。
あの観衆たちに恋人扱いされてたのは恥ずかったけど…
途中名前とか確認されたとき死ぬほどビビったけど、身分証とか見せてとは言われなかったのは運がすごく良かった。
…まあでも、結局今日はオーディションは受けないようにしようと二人の間で決めて近くのホテルで休むことにした。
「…ふう、逃げてきたは良いもののこれからこの人間界で暮らさなきゃいけないからな…安定した血の摂り方とか身分のちゃんとした証明方法が必須になるはずだからなんとかして解決しないと…」
と、考えていたら俺の部屋のドアからノック音が聞こえた。
「双葉さん、私です」
という深雪さんの声が聞こえたから、すぐにドアを開けた。
「え…?深雪さん、どうしたんですか?」
そう言ったのも、深雪さんが深刻そうな顔をしていたからだ。
「あの、やっぱり私、今アイドルになるんだっていう勇気と責任を取れないような気がしたんです」
「…深雪さん?」
「昨日と今日は、双葉さんのご厚意に甘えすぎて私がとにかく身勝手になっていて、本当に申し訳ございませんでした!なので身勝手なんですが、明日長野に帰りたいと思います…」
「深雪さん、僕は全然大丈夫だから。むしろ一緒に家出をしてくれたから僕は勇気が出たんだと思う。別に引き止めたりしないし、アイドルになりたくないって思ってきてしまっても否定しないよ」
「わ、たしは、まだ目標はアイドルになることです。でもやっぱり高校を逃げ出してまで東京に行くってのは、だめだって思いました。親の反対からも見て見ぬふりするんじゃなくってどうにかして納得させなくてはいけないんだって、さっき振り返って思いました。」
「……ほら、タオル。今にも泣きそうだよ」
「っ、ありがとございます」
と言って、顔をタオルに埋める深雪さん。
その状態のままで俺に話しかけてくる。
「私、言ってなかったんですけど15歳の高校一年生なんです。なので、双葉さんにはありえないぐらいの無礼を働かせていますよね…責任は、絶対に取りますから」
「…そんなことしてもらわなくてもいいのに」
「私が取りたいんです!嫌でもしますから!」
「なんか…深雪さん変に強情だね。ありがとう」
そう礼を伝えると、深雪さんはうずめた顔を上げて僕の顔を見、微笑んだ。
「…うん、悪者と犯罪者は、とっても似てるからさ、対等な関係でずっといたいんだと思う」
その微笑みは、少しだけ黒かった。
「…面白そうだね、悪者と大罪者の同盟関係なんて」
…自分もヒトのこと言えないんだけども。
「でも私、近いうちに絶対双葉さんのもとに帰ります。その日が来るまで私のこと忘れないでくださいね」
「了解…最後にさ、似た者同士なんだからさん付けはもういいんじゃないかなって思うんだけど、早まりすぎ?」
「分かりました。…でもそれは、また会ったときにしていいですか?今はまだ恥ずかしいので。」
「…俺も。また会う日が来るまでに練習しておきたいからね」
「…双葉さんと話したかったことはこれで以上です。ありがとうございました。おやすみなさい」
「おやすみ…」
そうして、深雪さんは俺に涙の跡があるタオルを渡して自分の部屋に行った。
〜〜〜
「…自白ね。対等な関係ではなくなると思うけどな…」
俺はヴァンパイアだからヒトが家出することがどれほどいけないことなのかってのは全く分からない。
ただ俺は、『脱走』という大罪に家出の手助けっていうちょっとした犯罪が上乗せされたことには気がついた。
「まあでも、悪い子って視点からは一緒の間柄か…」
でも、自分を下手くそな嘘で騙すことで深雪さん…いや、深雪と視点を一緒に落とすことにした。
「…さて、話を変えないと」
今夜で明日の課題を解決するプランを立てなくては。
「1つ目、自分の偽物…ザグレ・リセティアーズではなく、鹿島双葉だという証明書を作る」
「2つ目、l&p&cプロダクションのプロデューサーのオーディションを受ける」
一番解決の難しいのは1つ目の偽装だと思うが、これはヴァンパイアっていう特性さえ使えば…
「多分これで、いけるだろう」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
miyuki side
朝、私と双葉さん…双葉は昨日一緒に家出してきたあの駅に行った。
「…一人で家出したってのを明確にするために、お金を全部あげます」
「了解。大切に保管しておくから安心して、あと色んな場所で色んな人に見られたから家出したところはこことは別のとこって言ったらいいと思うよ」
「…あ、そうですね!気づきませんでした!」
と、双葉と和気あいあいと話をしていたら私が乗る予定の列車が来た。
「あっ…列車、来てしまいましたね」
…なんか寂しいな、って思ってしまったのは心の奥にしまっておく。
「うん、そうだね。じゃあまたいつか会おうか」
「…はい、絶対に会いに行きますから」
そう再開の約束を誓い、私は列車に乗った。
見送る双葉の顔を見つめながら私の乗る列車が地元へ向かっていく。
「…双葉、我儘だけど今すぐにでも会いたいな…」
双葉の姿が見えなくなってすぐ、そんな言葉を発してしまった。
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zagre side
深雪の乗る列車が見えなくなってから1分ほど経った。
「…そろそろ、オーディションに行くか」
駅に背を向け、少し寂しく心許ない足取りで前に進む俺。
「一人だと生きることができない。だからヒトが必要になる」
「一人だと仕事にならない。だからアイドルが必要になる」
ヴァンパイアとプロデューサーって、似てる。
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???? side
私は昔から、ザグレのことを愛してた。
でも、ザグレは私のことを好いていたとしても、男女間のそういう『好き』っていう感情がないのには気づいていた。
…理由は分かってる。でもわかりたくない。
そう思っていた時期に、事件は起きた。
その日は、ザグレの誕生日。
「ザ…グレが、脱走?」
深夜12時を過ぎても帰ってこないザグレを心配した両親が発した言葉は、『脱走』の二文字だった。
これを確信する証拠は、さっき幼馴染であるカナセのメッセージに返事をしたことで立証された。
昔からザグレはヒトの文化に興味津々だったことは知ってる。
でも…ニンゲン界に行くのは大罪なんだよ?
まだ未成年なのに賢いザグレがそれを知らないなんてことは絶対に無い。
「嘘だよ…ザグレがそんな大罪を…」
そう自分に言い聞かせても、少し前にザグレが発した言葉が脳の中をぐるぐると回る。
『なんで俺って、ヴァンパイアなんだろ』
その、ヴァンパイアであったことがとても嫌そうな、ヒトになりたかったようなセリフが、この現状の真相を抉り出している。
「私達だけでさ、ザグレを探そう」
目の下に隈ができた私に向かってこの言葉を発したのは、同じく隈のできたカナセ・メシニアだった。
「おにいちゃんは、こっちに戻ってくるの?」
「ミリア、酷いこと言うけど流石にそれはないと思う。ザグレお兄ちゃんはヒトの世界に行きたかったんだし、仮に戻ってきたら…ザグレお兄ちゃんが死んじゃうから」
ザグレのことを兄と呼んでいるこの二人は、リセティアーズ家の末っ子ミリア・リセティアーズと次女エリザ・リセティアーズだ。
そして私は…
「レイさん、手を貸してもらってもいいですか」
「…何を言ってるの、当たり前よ」
「姉として、ザグレは絶対に取り返すから」
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elisa side
大好きなザグレお兄ちゃんを取り返すために、私とお兄ちゃんの幼馴染、ミリアとレイお姉ちゃんで会議を立てることになった。
「ザグレは昔からニンゲンに興味があったから間違いなくニンゲン界へ行った。それだけは確か」
「おにいちゃんはこっちがキライだったのかな…わたしはおにいちゃんと一緒にいられるからスキなのに…」
「でも、どうして逃げ出したのかが分からないよね…」
動機がわからない以上、どのように行けばザグレと手っ取り早くまた会えるのかがわからない。
「あの、さ…」
と、重めに口を開いたのはカナセさんだった。
もしかして、動機でも知っているのだろうか。
「実は…ザグレがさ、アイドルゲームっていうやつやっているのを見たことがあるんだよね。その時のザグレは、私なんかに全く気付かずに没頭してた…だからかもしれない」
「じゃあ、ザグレお兄ちゃんはアイドル?になりたかったの?」
私は聞いたことのない単語に戸惑いながらも、その言葉から察せることを意見として伝えてみた。
「いや、多分ザグレはゲーム通りのことをしたいんだったらプロデューサーになりたいのだと思う」
またもや意味不明の単語が出てきて、真面目な空気なのに真面目になれなくなってきた人が私含め二人できてしまった。
「プロデューサーっていうのは、アイドルを決めたり紹介したりして、そのアイドルを人気にさせる職業のこと」
「…そんなのに、ザグレはなりたいの?」
プロデューサーという言葉の意味を知った私は、思っていたことを口に出そうとした瞬間、レイお姉ちゃんが先に言ってくれた。
「いや、他になりたいものがないって根拠がないから決めつけられないけど、ザグレが逃げ出した理由を私なりに考えた結果がこれしかないから…」
「じゃあ、さ」
カナセさんの意見を聞いて、次に口を開いたのはミリアだった。
「わたし達がアイドルになったら、すぐにおにいちゃんに会えるんじゃないかな?」
その単純明快な答えは、3人も言わずもがな考えていた。
「…最終確認だけど、他に動機は思い浮かばない?」
そのレイお姉ちゃんの言葉に、私達は頷く。
「じゃあ、ザグレを取り返すためにアイドルになる作戦、始めましょうか」
「「「おー!」」」
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大罪を犯したザグレのツケは、意外と(2つの意味で)重いのかもしれない。
ヴァンプロ界用語
『ヴァンパイア』
人間の血を主な栄養分とする、人型生物。
知能は人間と比べると少し劣るが、人間からみて魅力的、つまり美男美女が揃いに揃っているので騙される人が多い。
しかし、ヴァンパイアハンターという名の通りの人間により大量に駆逐され、現在は人っ気のない小さな集落で暮らすことになってしまった。




