みっちゃんの教え第百八条“バック・ドラフトで禍根を絶やせ”
タイトル変更しました。不定期で書きます。
「ここが異世界……」
白い門をくぐり抜け、やってきた異世界。
視界に飛び込んできた景色は岩、岩、岩、ひたすら岩だらけだった。
遠くの方には壮大な岩山がある。
「…異世界っていうか鉱山地帯だな。」
そういえばあの“憎きUNKNぉうん”にどういう世界だとかまるで聞いてなかったな。
やっぱ魔物とかいるんだろうか? 王様とか勇者とか魔王とか………
「…なんでもいいわ、もう…」
本来であればどういう世界なんだろうとワクワクしながらこれから過ごすこの異世界に思いを巡らせるところだが、今はそんな気分にもなれない。
何故ならネコちゃんがいないから。
「探さねば……」
一刻も早くネコちゃんを見つけ出さねばならない。
出会ってしまった以上、もうネコちゃんおらずしてそれ以前の様には生きていける気がしない。
親の心境ってこんなかんじなんかな……
心配で平常心じゃいられない。
とにかく探さねば…となればまずは―
「おいそこの女。」
「………私?」
「お前以外に誰がいるんだよ?」
見渡す限りが岩だらけの景色の中、見当たるのは俺と女、この二人だけだ。
「なんだ? お前は女じゃなくて男なのか? だったら言い直すわ、そこの女みたいな男。」
ダメだ…心が荒みきっている。
物腰がキツくなっているのが自分でも分かる、八つ当たりに近い。
「……はぁ…何よ?」
思ったより噛みついてこないな。
燃えるような赤い髪で、眼も切れ長で受ける印象は勝ち気に感じたのだが…
何というか、こう…張り合いがない……いや、まぁ俺も張り合いたいとは思わないからいいんだけど。
「お前はこの世界について詳しいのか?」
「…まぁ…それなりに。」
……よし、これでひとまずの安心材料は確保できた。
「そうか…それは良かった…聞きたいことがあるんだ。」
「…なに?」
「大きいネコちゃんについてだ。」
「………」
反応がよろしくないな……もしや“ネコちゃん”というのがどういうものか分かっていないのかもしれない。
同じ地球人ならまだしも、この女は多分そうじゃないだろうしな……
この女はこの世界、異世界の住人だろう。
何故だが説明はつかないが確信できる……なんでだろう? “カン”かな?
とにかく、だとしたら“ネコちゃん”というワード自体よく知らない可能性もある。
ここは具体的に“ネコちゃん”というのがどういった特徴のものを指しているのか伝えてみるべきか……
「こう…ツノがあってだな…尖った耳を持ってて…全身はモフモフとしてて…すごい大きいんだよ。」
「…はぁ…知っているわよ!」
なんだ急に! 語気を強めるなよ! びっくりするだろ! もう!
「し、知っているなら教えろよ! 黙りこくってるからネコちゃんについて分からんのかな? とか思って…だから説明しようとしたんだろうが!」
そう捲したてると女はやれやれといった感じで一つ溜め息を吐いた。
「………ついて来なさい。」
「ネコちゃんの事教えろってっ!」
「だからついて来なさい! ってば!」
えらい剣幕で言うもんだ。
俺としては一刻も早くこの女からネコちゃんについての情報を引き出し、その情報を元にすぐにでも行動に移したいのだが……
ぼやぼやしてる時間も惜しいが……今はこの女の言うとおりにするしかない、か……
ネコちゃんについての情報をくれるのかくれないのか、明確な答えを得られるのか、不安を抱きつつも、一先ずは女の言うとおりに、その女の後をついていくことにした。
◇
しばらく歩く。
女はここまで自ら話し始めることもなく、こちらを振り返ることもしない。
一体どこまでついていけばいいのか…
ネコちゃんのことが気がかりで仕方ない状態の俺としてはすこぶる落ち着かない。
先程から何度も何度も声をかけちゃいるがその度女から帰ってくる答えは「黙ってついてこい」これこの一言だけだ。
わかっちゃいるが、それでも声をかけずにはいられない。
帰ってくる答えはこれまで通りで、変わりはしないのだろうが。
「おい! 黙ってるのも限界だぞ! いい加減ネコちゃんの―」
「―黙りなさい!」
言いかけたところで女が強く言い放つ。
帰ってきた答えはやはり変わらず黙せよとのことだった。
が、その言葉に含まれた怒気はこれまでと違い荒立っていた。
これまではこちらが声をかけても途中で遮ることもなかったし、振り返ることもなかった。
ただ淡々と黙ってついてこいと返答するだけだったが、今回は違う。
こちらの言葉を遮り、振り返ってくる。
女の表情は強くこちらを睨みつけているように見えた。
「な、なんだよ! やんのか! 上等だ! 女だろうが関係ねぇ! フルパワーでやってやんよ!」
「っこのクズがっ! 黙らなくともいいから静かにしろ!」
くっ! 頻繁にすごい剣幕飛ばしてきやがるぜ!
ただ静かにしろというだけあって女はすごい剣幕ではあるものの小声だからそんなに怖さは感じない。
ちょっと面白い。
なんにせよ女自身が小声になるあたり切実に静かにしてほしい理由があるらしい。
一体何なのかと視線で訴えかけてみると女はあそこを見ろとばかりに遠くの方向に顎を向けた。
示された方を見てみるとそこには―
「オラオラオラ〜」
「逃げられると思うなよ〜」
「待てって〜」
「早いな〜…ふふふ…ま、逃さないけどねぇ」
「こ、来にゃいで! この蛮族共め!」
そこには―
「口の悪いガキだな〜」
「まったくだわ〜」
「大人をナメるなよ〜」
「蛮族だなんて酷いな〜悪い仔猫ちゃんにはお仕置きが必要だね〜」
「こ、来にゃいで来にゃいで! うにゃぁああん!」
「「「「待ぁてぇぇ〜」」」」
「うにゃぁああん! 獅子神さまぁああっ!」
天使がいた。
「ちっ…駄犬共め…」
「おい! 女! あの天使ちゃん泣いてるぞ! いじめられてるみたいだ! 助けよう!」
「……天使? 何を言っている?」
「てめぇの目は節穴か! いるだろうあそこに! 幼き可憐な天使ちゃんが!」
そう言って俺は保護対象に指をさした。
犬の様な特徴を持った人間とでも言うべきか…犬人間と言って差し支えない見るからに野蛮でかつムキムキマッチョな暑苦しい男共に追われている保護対象を。
ぴょこぴょこおミミにまんまるお目々、お尻の方にはフサフサ膨らんだ尻尾をはやした小さな天使ちゃんの方を。
「……天使…か、どうかは置いておいて、助けることには同意しよう。」
「よし! 行くぞ!」
「お、おい! 待てっ! 先走るな!」
言うが否や俺は天使ちゃんが逃げる方向に迎えに行くように駆けた。
すぐにこちらに気付くだろうとふんでいたのだがネコちゃんは中々こちらに気付かない。
泣きながら必死に走っている為に視界が悪く、こちらが見えていないのかもしれない……
一方、ネコちゃん達を追いかける犬共はというとこちらに気付いた様子だ。
犬共からすればこちらは闖入者だ。
少しは警戒するかと身構えたものの、しかし犬共の表情に警戒の色は見えずヘラヘラ笑っているだけだった。
「おいおいおい〜いいのか〜? ガキィ?」
「すぐそこにお前らのでぇっ嫌ぇな人間がいるぞ〜」
「俺達から逃げたらそいつに捕まっちまぁんじゃねぇのかなぁ?」
「前には人間、後ろには俺達、ふひひっ…どうするぅ? おチビちゃぁん?」
「うにゃぁあぁん! そ、そうやってまた姑息な手口をっ! こんなとこに人間なんか―」
言いつつも目をゴシゴシと拭い天使がこちらを見つめてきた。
「まんまるお目々で素敵だなぁ!」
瞬間―
「―ッッギャアァァ!! 人間ンンッ!!」
こちらを向いた天使が泣き叫びながらUターンして犬共の方に走り出した。
「お、おいっ! そっちは犬共がっ! 逃げてたんじゃないのかよ!?」
「「「「いらっしゃぁあいっ!!!!」」」」
「ギャアァァァ!! 蛮族ゥウッ!!」
くっ! 何故逃げるんだ! こんなにも表情に親愛を醸し出してるというのに!!
さてはこの女の顔が怖いせ―…あれ? どこいった? あの女…
「うにゃぁぁぁああん! 獅子神さまぁ!!」
「おらっ! 捕まえ―」
「あぁ!! 天使ちゃん! 捕まっちゃ―」
あわや犬畜生に捕まえられんとす、その一歩手前の天使ちゃん。
万事休したかと思われたその瞬間、天使ちゃんの姿が一瞬にして風にさらわれるようにかき消えた。
一体どこにいるのかと視線を漂わせる。
「こっちだ、先走るなと言っただろうが。」
「ふぇ、は、離せぇ人間! に、人間怖いぃ」
「女! 天使ちゃん! くっ! こっちってどっち―」
声をかけられた方を見上げると、そこには気づいた時には姿が見えなくなっていた女が、佇んでいた。
暴れる天使ちゃんを抱えて。
「な、なぁ、なんだ…あれ?」
「…な、んなんだろうな…」
「人間の驚異はその数…だよな?」
「あ、あんな真似ができるなんて…聞いてないよね…」
犬共がその大きな口をあんぐりと開けて驚嘆している。
かくいう俺もびっくりしている。
「お、おま、おまおまおまえ、な、なんだそれどーなってるんだ! そんなう、うらやまな…」
なんとこの女、宙に浮いていたのだ、高さにして5メートル程の位置に。
「……揃いも揃って間抜けな顔ね。」
「離せ人間! いや、離すな! 怖いぃ! は、は、離せな!!」
どうやら天使ちゃんも混乱しているようだ。
なんなら女を除いたここにいる全員混乱仰天している。
え、てかちょっと待って、間抜け顔って俺も含まれてんの?
間をおいて犬共の一匹が吠えた。
「おい! 人間の雌! そのガキをよこしやがれ!」
「断る。」
そう簡潔に返答する女。
対する犬共は苦虫を噛んだような表情で押し黙る
いいぞ! 女! 強者感すごいぞ!
見るからにゴリゴリマッチョな犬共を相手にして上空から睥睨する様は見ていてなんだか気持ち良い。
見るものが見れば勃○案件だろう。
俺は違うが。
「ちぃっ! 痛い目みたくなけりゃさっさとそのガキィ離しやがれ!」
「そうだ!」
「そうだそうだ!」
「とっとと離す方が身の為だぞ!」
「そうにゃそうにゃ! とっとと―」
犬共は全部で四匹の筈なのに聞こえてくる野次が一つ多かった。
該当する者は誰かと言えば…
「…いいのか?」
女が天使ちゃんの方を冷めた目でじろりと見る。
「よ、よくないにゃぁあ! はにゃしちゃダメなのにゃぁあ!!」
何この子、ポンコツ可愛いな、天使かよ。
「まったく…幼いとはいえ…私もいい加減泣けてく―」
刹那、風を切る音が聞こえたかと思えば、次の瞬間には耳に障る、甲高い金属音のような音が鳴り響いた。
「な、なんだ!?」
突然の爆音…とまではいかないが、大きな音に混乱していると、犬共が騒ぎ出す。
「…ちっ! 弾きやがったか…」
「「「ノーコンが!!!」」」
「うるせっ! 狙いは違えてねぇっつの!」
見れば四匹の内、一番後方に位置する犬の手には金属らしきもので形成されたボウガンのようなものが握られていた。
ゴリゴリのマッチョの癖に飛び道具なんか使いやがる…近接しか勝たんであれよ…
聞こえた風切り音はあれを放った音だったようだ。
遅れて怖気が走る…こっわ! 当たってたらとても痛いじゃないか……やばい、また黄色い汗出てる…ってそんなんどーだっていい! 天使ちゃんは無事か!?
「天使ちゃん!!」
急ぎ天使ちゃんもとい天使ちゃんを抱えた女の方の安否確認をはかる。
幸いなことに天使ちゃんもとい天使ちゃんを抱えた女は無事なようで、見れば女の手には真っ赤に燃ゆる両刃の剣が握られていた。
あの剣で矢らしきものを弾いたのだろう。
それにしてもどこから引っ張り出してきたんだろうか? 先程までそんな剣、影も形も見当たらなかったぞ?
「不意打ちか…躾のなっていない駄犬共が…」
呆れるように犬共に向かってそう吐き捨てる女、その表情には確かな憤りが浮かび上がっていた。
一方、天使ちゃんを見ればその表情は盛大に怯え泣き喚い……
「……赤き…爪…」
……ているのかと思ったのだが、そんなことはなく、ただ放心したような表情でそうつぶやくだけだった。
おかしいな? 命の危機なんだ。
もっと盛大に怯え喚いて、なんだったら粗相でもしてるんじゃないかと思ったのに…
あれかな? 一周回って恐怖が天元突破しちゃったんかな?
「引け、駄犬共、今なら不意打ちも見逃してやる。」
女が犬畜生共に対しそう言い放つ。
対する犬畜生共は激昂した。
「あ? 引けだぁ? …ナメてんじゃぁねぇぞ?」
「下等な人間の…それも雌風情が…」
「誉れ高き狼神族の俺たちに向かって見逃してやるだぁ?」
「勘違いするんじゃない…見逃すも見逃さないも、言うなれば俺達側の台詞だ。」
「……馬鹿共が…」
「オラッ! さっさとそのガキィよこしやがれ! 撃ち落とされたくなけりゃな!」
そう怒鳴ると最後方に位置する犬が先程一発撃ったボウガンを今度は撃ちまくる。
恐ろしい程の速度を持って女に放たれた無数の矢はしかし、そのどれもが一つ残らず女の手繰る赤い剣によって弾き落とされる。
どーなってんだあの女…あんなもん、とてもじゃないがまったく反応出来る気がしないぞ。
いや、待てよ…なんてったってここは異世界だ。この世界の人間の身体能力で言えばこれくらいの所業は朝飯前なのかもしれない。
実際女は涼しい顔をして息一つ乱してない。
つまりはそういうこと―
「くそっ!」
「なんだってんだあの雌人間は!」
「インチキでもしてやがんのか?」
「成程でかい口を聞くだけあるな…厄介じゃないか…」
「す、すごいにゃ…」
―でも無いようだ。
俺だけが驚いているならばまだしも、犬人間共まで驚いている。
目の前で矢を弾き落とす女の姿を見ていた天使ちゃんなんかは、頬を赤らめて目をウルウルさせながら女の横っ面を見つめている。
先程まであんなに警戒していた人間だというのにだ。
「ずるい…」
思わず言葉が漏れる。
「ずるいぞ! 女! 天使ちゃん! その目を! その表情を! 俺にもちょうだい! プリーズ!!」
漏れ出したら止まらなかった。
「………」
「ひぅっ!?」
女の冷えた目と天使ちゃんの怯えた目がこちらを射抜く。
仕方ないんだこれは!
俺だって自分のこの言動が気持ち悪がられるだろうことくらい分かってるよ!
でも仕方ないんだ!
エンヴィーな炎が身体中を駆け巡ってこのまんま溜め込んでたら、どうにかなりそうで…だから仕方なかったんだ!
あんまり溜め込むと相手にも自分にもよくないし、気づいたときには気持ち悪く黒焦げた感情に成り果てて、ネタにさえ出来なくなっちゃうて教えられてきたんだよ! だからそういう時はさっさと吐き出しなさいって! そうすれば同時に外の空気も取り込めて盛大に跡形も残さずに爆発して生まれ変わることが出来るからって! ねちっこい人間にはならなくて済むからって! そうみっちゃんに! 教えられてきたから! ねちっこいのは嫌なんだ!
「……なんだあの人間の雄…」
「気持ち悪いな…」
「気色わりぃな…」
「気味がわるいね…」
「うるっせいぞっ! この畜生共が! ぶっ飛ば―っ!」
そうだ! こいつ等をぶちのめせばいいんだ! そうすればあの天使ちゃんのうっとりとした表情もこちらに向いてくれる筈だ。
そうだ! 簡単じゃないか! なんでこんな単純なことにすぐ考え至らなかったんだ!
「あぁん? なんだってぇ? 人間の雄ぅ?」
「ぶっ飛ばすだったか? へへ」
「そんなひょろっちい身体でか?」
「人間にしたってもう少しマシなガタイのやつがいるだろうな、ふふっ……君本当に雄かい?」
「うるっせーな、あぁあぁその通り! ぶっ飛ばしてやるよ、わんわん泣かしてやんよ! あと最後に喋ったお前。」
犬共全員に啖呵を切る。
付け加えて最後にこちらを煽ってきた犬一匹を指差す。
「? 俺か?」
指された犬が間抜けにそう聞き返してくる。
「お前しかいねぇだろ? わざわざ礼儀正しく指さしてやってんだから。
お前のそのご立派にそびえ立った耳はなんだ? ただのお飾りですか? さては出身“夢の国”かなんかですか? やめろよな、お前ら全員見る限り雌ってことねぇよな? 雄だろ? 男四匹夢の国って……きっちぃきっちぃ!」
「っ!? あ、あぁん?」
「なんだぁこの野郎!」
「ぶっ殺されてぇのか!」
「こ、このっ! 下等な人間風情が! もう一度言ってみろ!」
「……………」
「…………?」
視界の端でこちらを見る女の表情が何だか歪んでいて、その女を見る天使ちゃんはポカンとしていた。
なんだ? その表情は? …まぁいいか。
「うるせーよ他三匹は黙っとけ、俺が言いたい事があるのは指さしたそいつだけだ。」
そう言い放つがしかし、他三匹はガヤガヤグズグズうるさい。
いい加減黙らないものかと肩をすくめていると、俺の指さした犬っころが仲間に対して待ったをかけた。
「ナメやがって…」
「こうなりゃとっとと…」
「ああ、ぶっ殺しちまお―」
「お前達、少し黙れ、奴が指し示した相手はこの俺だ、俺に任せてくれ。」
他でもない仲間? からそう嗜められた仲良し三匹は渋々といった感じで押し黙った。
「……人間…この俺に何が言いたい? 良いだろう聞いてやる、言ってみろ、言いたいことがあるんだろう?」
「長い。」
「……ん? なんだ? もう一度言ってみろ。」
「だから長いんだってお前一匹だけ! 喋りが長ぇの! たくっ…ほんとその耳お飾りだな!」
「……?? …ん? お?」
「…はぁぁ…」
全く! 話の通じん奴だ。
これなら元の世界の犬の方がよっぽど意思疎通がはかれそうなものだ。
仕方ない…こうなれば一番分かりやすく、また、伝わりやすい、原始式で伝えるしかないか……
出来るだけ力強くいこう!
俺は深く息を吸い、一音一音ハッキリと言の葉を紡いだ。
「スゥーッ……お前! 一匹だけ! 喋り! 長い! 文字数! 多い! 面倒くさい! の! ………お前その四匹ん中で一番モテねぇだろ、絶対。」
………あり? 返答が無い。
対象の犬っころを見れば俯いていてその表情は確認できない。
確認出来た事といえば犬っころのその両の拳が震えていることぐらいだ。
まぁいい、とりあえず言いたいことは言えたし、そろそろ犬共をぶっ飛ばす段階に移行するとしよう。
「さて、と…犬っころ共、覚悟しろよ! 今からお前らをぶっ飛ばし―」
「ひっでぇぇ!! ひでぇよぉ! お前!」
「いくら人間にしたって…そこまで言うのかよ!」
「見ろよほら! 俯いちゃって可哀想に…いくらなんでも言っちゃいけないことがあるだろうがぁ!」
おや、なんだか仲間の犬っころ共が揃って憤慨している。
「………や、やめろ…お前た―」
「確かにこいつぁ俺らん中じゃ一人だけ所帯もってねぇよ!」
吠える犬A
「…やめ―」
「だけど俺らが喧嘩した時にはいつも真っ先に身体を張って仲裁してくれる! 気のいい奴なんだ!」
鳴く犬B
「やめてく―」
「確かにこいつのことよく知らねえ奴らは話が長ぇのだなんだってうるせぇよ! でもそれは普段から言葉の足りねー俺らのことを補ってくれてるからこそついた癖みてーなもんだっつんだ!」
唸る犬C
「こいつに悪いとこなんてねぇ!」
犬A
「ただ繊細なだけだ!」
犬B
「理解しねぇ女が悪ぃんだ!」
犬C
「や、やめろと―」
「「「こいつはカッコぉいいんだ!」」」
「やめろっつってんだぁああぁぁああ!!!」
慟哭する犬Die
「「「す、すまねぇ…」」」
「……お前らとは絶交だ。」
思わぬ形で友との離別を目の当たりにした。
面白いものがみれたな。
さて、そんなこんなで犬Dieがこちらを恐ろしい形相で睨みつけてくる。
連なって犬ABCもそこそこの形相で睨みつけてくる。
「なんだよ? 俺は思ったことを言っただけだぞ。」
「殺してやる……」
「「「俺達に出来ることなら―」」」
「誰だお前ら? いらん消えろ死ね死ね。」
「「「………」」」
おもしろいなこいつ等。
「後悔しても遅いぞ! 人間! もはや生かして返さぬ…まずは貴様のその腹わたを引き裂く…そしてその内にある臓物を引きずり出し―」
「だから長いんだって! そういうとこだよ? モテないの。」
「殺してやるぅぅっ!!!!!」
そう叫ぶや犬Dieはこちらに向かい一直線に突撃してきた。
「かかってこい非モテ犬っころ野郎!」
待っててね! 天使ちゃん! 今君の潤んだ瞳をゲッチューしに行くよ!