白米、赤飯、ターメリックライス。
「あぁ…やっと会えたね…ネコちゃん…」
いかん、感極まって嬉ションしそうだ。
『そこは涙が流れるべきであろうが。』
胸がいっぱいで今にも漏れ出しそうだ。
『膀胱がいっぱいの間違いね。』
「うるせいぞ! UNKNぉうん!」
『そのイントネーションはなんだ!』
「フシャーーーッッ!!!」
あぁ、ごめんよネコちゃん…UNKNぉうんが余りに耳障りな事ばかりのたまうもので、ついつい君のことをないがしろにしてしまったよ…
『……キモ。』
……あ?
「……言っとくけど、おめーのが癖強いしよっぽどキモいから。」
『いや、貴様の方がキモい、気持ち悪い。』
「シャーーーーッッ!!!」
ごめん、ごめんよネコちゃん、不安だよね? こんなキモいUNKNぉうんなんかほっとくよ!
「キモいUNKNぉうんは黙っとけ。
俺はキモいてめぇより、エモいネコちゃんとお話したい。」
『てめぇ……』
「それでネコちゃん、君は俺に何をしてほしいんだい?」
「フーッ! フーッ!」
……おいUNKNぉうん。
これ意思疎通出来んのか? 話進まねーだろが。
はやくしろや? 出来るだろ?
仕事しろ。
『………』
何故だがだんまりするUNKNぉうん。
しばらく考え込んだような顔をすると、おもむろにこちらを真剣ととれる眼差しで見据えてきた。
『……仕切り直そうか。
君僕の言ったことはおぼえているよね?』
んあ? どの事を言ってるのかを言われないとなんとも言えねーよ
『君とそこの獣、君達が今ここにいる理由だよ、この空間にいて、僕が君達の目の前にいる理由、僕の話したことを思い返してみてよ。』
そう言われてとりあえず頭を巡らしてみる。
「えーと…『この空間は相互守護を相互認識し、お互いの世界をまたぐにあたり必要な手順を踏むための場所だと思ってくれ。』…だったかな?
このことであってる?」
『そうだね、それだよ、それで合っているよ。
そして僕の存在はその為の橋渡し、これも言ったね?』
そうだね、そんなことも言ってたね。
『……だいぶグダついたけどよ…今からオメーとそこの毛むくじゃら、異世界に渡らせてーんだわ。』
あぁ、宜しく頼むよ。
『……理由聞かないの?』
「なんの?」
『なにって……何故異世界に行くのか〜とかそうゆう理由よ』
「ネコちゃんさえいれば何だっていい。
お互いの世界を行き来するんだろ? とりあえずネコちゃんと長くいるためにはネコちゃんの世界に行くのがいいんだろうし、見たことのない世界にも興味しかない。」
文句なんていくらでも出てくるもんだし、一々気にしてたら目の前の出来事にかまってられないしね。
「なるようになるだろ。」
『そうか…君は話が早いね……いや、早くはないか…単純明快なだけか…』
それって失礼なんじゃない? バカにしてる?
『悪い気持ちはこめてないよ、さて…話を進めよう。』
そう言うとUNKNぉうんはこれまでより一層厳かな面差しをしてこちらを見据えてきた。
『私は橋渡しだ。
異なる世界と異なる世界を行き来するにおいて、なくてはならぬ存在である。』
神様的なもんじゃないの?
『どーだろうか…神というものの定義が全能であることが前提ならば、少なくとも私は全能ではないよ。』
そう言うとUNKNぉうんはどこか嘲るようにクックッと笑った。
『とにかく私は君たちにとっての船、いや飛行機かな? ……違うな……』
ハッキリしねぇな…なんだってんだ…
『……! スペースシャトル! スペースシャトルみたいなものだよ!』
「ほぇ〜」
「ニャー」
すげーテンション高いな、温度差すごいぞ? よく分からんし、シャコやらなんやら、例えばかり言われてもピンとこねぇわ。
『……これは失敬…そうであるか…』
「お前さっきからさ、コロコロ喋り方やらなんやら、もっと言うなら感情の起伏までごっちゃごちゃしてるけどさ、手っ取り早い性格の奴のパターンとかないの?」
結局グダついてんじゃねーか。
もういいよ、お前と話すと永遠だよ…
早いとこネコちゃんと俺、一人と一匹だけでイチャイチャさせてくれよ。
「ッッ!? シャーッ! フシャーー!!!」
ほらネコちゃんもイライラしてるよ!
『……あーわーったよ…なんだ、まぁオメェら二人して異世界飛ばすにあたってよ、こっちも色々やんなきゃいけねぇ事があんだわ。
んでその為には、オメェらにおとしこんでおかなきゃならねぇこともあんだわ…』
そんで? 一体何をおとしこむって言うんだ?
『そこらへんの説明が面倒いんだよな…なんつったらいいんかね……』
イライラしてきた。
『はぁ…あれだ、今から行く世界は赤飯だ。
んでオメェら……人間、お前はもともと白米で、そこの獣は赤飯だったわけよ。』
また例えを……こいつ性懲りもなく…イライラ通り越してなんだろう…ムラムラしてきたわ。
『キモいってお前。』
「フーッ! フーッ!」
いい加減にしろって! ほら! ネコちゃんもいい加減どうにかなりそうじゃないか!
『オメェが何よりいい加減にすりゃそこの獣もそこそこ落ち着けるだろーが…』
??? 何いってんだ?
『…っち……まぁ聞けよ。
今から行く異世界こと赤飯ね、そこの獣なんだけど、お前と会う前なら赤飯行っても問題なかったのよ。
ってか元々赤飯に混ざってた、それこそ同じ赤飯だし。
元いたとこに戻るだけだわな。
…あー…自分でも言ってて変になるぜ…』
「………」
『まだ終わってねーかんね? 聞けよ? 拳握りしめてんじゃねーって』
「………」
『うわぁ握りしめすぎて血出てんじゃん…痛そ〜』
続き早くイエ、コ○しますよ?
『おーこえーこえー……ただ、いまはもうそこの獣も赤飯じゃねーし、お前も白米じゃねーのよ。
…えーと…なんだ、あれだわ…ターメリックライスだな、言ってしまえば。』
何故品種が変わるんだ!
『お前とそこの獣が出会った結果だよ、オメェら情報と情報が混ざり合って、元の定義じゃなくなっちゃったんだよ。』
情報やら定義やら小難しいことばっか言ってんじゃねーよ!
なにがどーなったとしても、ターメリックライスはおかしいだろう!! 赤と白が混ざったってんなら普通ピンク色だろうが! なんで黄色くなるんだ!
『そこなんか…』
ネコちゃんと混ざり合っている事実は一向にかまわんですけどね。
「フ…フシャッ!!」
『……ほんとキメェな、オメェ…』
シャラップ黙れ口を閉じろ話を続けろ。
『…???……ん?……ん、んでターメリックライスのオメェらが赤飯にそのまま行くとどうなるか……』
どうなるんだ?
『オメェらの存在はすぐに異物として認識され存在もろとも消し飛ばされる。
オメェらどころか赤飯もろともな。』
なにぃ!? それは困るぞ! でも俺達を異物として認識するのってその赤飯自身でねーの? なんで認識する側の赤飯が自身もろとも消し飛ぶんよ?
『……それは…まぁ…世界ってのは― @::+((&¥))//**!?!!-%(+%%(&6¥¥%&&+-%(-/%¥&#&//%¥ ……あ〜やっぱだめか……』
「ん? なんて? 何言ってるかわかんなかったんだが?」
『……だろうな…』
なんだ? UNKNぉうんの様子を見るに、特にふざけた様子もないんだか、何を言っていたか、まるで分からなかった……
―あれなんか言ってたっけ?
『…とにかくよぉ…オメェらを異世界に行かせる為にはまず、ターメリックライスであるオメェらを少しイジって、赤飯に混ぜても問題ないようにしなきゃなんねぇわけ。
脇に添えれるたくあんぐらいにはしねぇといけねぇの。』
ターメリックライスはおかしい。
赤と白が混ざったならピンクいはずだ!
ターメリックライスが悪いってわけじゃないけどさ! 色的に納得できん!
『オメェも大概面倒くせぇね…とにかくまぁこっちも橋渡しではあるけどよ、右から左へそのままオメェらを流すわけにはいかねぇのよ。』
「じゃーどーすんのよ? 結局どんな工程が必要なのよ?」
「…グルルル」
俺がそう聞くとネコちゃんも同じような意思を伝えたいのかUNKNぉうんの方を向きながら喉を鳴らした。
『お前らの情報をもらいてーの。』
「黒永 雄道、歳は17、身長182。
視力は両眼2.0、握力は右60左57好きな食べ物は唐揚げ。
見たくない食べ物は納豆です!」
「ガゥガルル、ガルルゥ。
ガルルルルゥガルルガウゥ、ガウガウガガゥガルゥガルルルゥ。
ガゥルル、ガルル、ガルにゃん。」
『違う、そういうのじゃない。』
「情報がほしいって言ったじゃないか!」
「ガウルルッ!」
『…………はぁ……なんだかなぁ……とにかくそういうのんじゃねぇのよ…それに今オメェらが言ったもんは情報は情報でもオメェらの認識するオメェらの枠の情報だろ、そんなんじゃ誤差だらけだ。
世界に定着させる為には一ミリの誤差も許されねぇ。』
いよいよ何を言ってるのか分からんぞ!
『……オメェらの情報、つまり魂の一部をよこせ。』
「お前、さては悪魔か…サタンめ! 俺の身も心もネコちゃんのものだぞ! 渡すもんかよ!」
「ガゥ……」
心配するなネコちゃん、アーマ○ドンは避けては通れないかもしれないが、君だけは必ず守ってみせる!!
『悪魔かい…言い得て妙だなぁ……でもこれはオメェらの存在を守る為にも必要なことなんだぜ? 無理矢理情報を取り上げても拒否反応ですぐに霧散しちまうし、なんの意味もねーからな。
オメェらの為にも、異世界…赤飯の為にもこの要求は譲れねぇなぁ…』
っく! なんて奴だ! 言ってること全然分からない! しかし、何とも不安なことを言われているのは確かなはずだ!
ネコちゃんを垣間見るとやはりおなじく、どこか不安げな様子だ。
おヒゲがヨンヨンしているもの。
大丈夫だ! ネコちゃん! 俺が守るからね!
『別に魂の一部を抜き取ったところでオメェらが悪い方向でどうこうなるこたぁない。
それは保証する。
とにかく、それを了承してもらえない限り、いつまでたっても異世界にゃ行かせられねーし、オメェらが意思の疎通をはかることも出来やしねぇ。
オメェらからそれぞれ魂の一部を抜き取って、その情報を赤飯に定着させる。
そうすることによってオメェらはやっと自分の存在を保つことができる様になるんだ。』
さっきからおそらく調子の良いことをいいやがって! そう簡単には騙されんぞ!!
「ガゥルル!!」
『…………オメェとそこの獣が一つにならん限り、意思の疎通なんて一生できんぞ?』
「抜けよ!! さっと抜けよ!! 魂の一部を!! はよっ! はよ抜けっ!! ウダウダウダウダ! いいから抜け! そして一つにさせろ!!!!!」
「ッ!?? フッフ、フシャーー!!?!」
『………俺も大概こだわりすぎたわ……あい心得たよ、それじゃ…獣よ、オメェもいいよな? 是非もねぇはずだ…』
「…………ガ、ガゥゥ……」
「はよっ! はよ一つにせぇ!! はっはっはよぉぉぉっっ!!!」
『…ちっ! やっかましぃなぁ……獣よ、諦めろ、お前に導かれた守り人はどうやら規格外の変態のようだよ。』
ネコちゃんと一つ! ネコちゃんと一つ!
「……ガゥ」
『すぐに済む―』
そう言うとUNKNぉうんは俺とネコちゃんに向かって手をかざす。
さてどんな事態が待ち受けているのか…なんてことはどうでもいい、ネコちゃんと一つになれればそれで―
『―終わった。』
「……へ?」
もう終わりなの? 何が変わったん?
『それではこれより異世界へ飛ばす。』
いや、え? ちょっと待ってちょっと待って! 何が変わったん!?
ネコちゃんと一つになるって話は?
―! てかネコちゃんが見当たらない!
さっきまですぐそこにいたネコちゃんの姿が見当たらない!!
ネコちゃんが居たはずのその場所には、その姿は影も形も無かった。
代わりに視界に入ったのは初見の女だった。
目の覚めるような赤髪長髪の、背丈が高い女がそこにはいた。
こちらをチラチラと警戒するように伺いながらソワソワしている。
「よ、よろし―」
「誰だ! てめぇ! ネコちゃんどこやったんだ! ぶっ飛ばされたくなけりゃ二秒で答えろ!」
『そんな時間もねぇよ、今からオメェら異世界だから。』
「―ってめぇ! UNKNぉうん! ネコちゃんどうした! 言ったよな? 適当なことしたらハチャメチャにするって! ネコちゃんどこやった!」
異世界に飛ばされようとしているのか、今いるこの白い空間が徐々に収縮していく。
UNKNぉうんの姿もレンズ越しで見るようにどんどん奥まっていく。
クソっ! クソっ! UNKNぉうんめ! 俺の! 俺のネコちゃんをどこにやった!
許さん! 絶対に許さん!
『人はやはり愚かだね…己の見たいようにしか物事を見ない。
本当に愚かだ、特に君は相当愚かだ。
……キモいし。』
「てめぇ!」
『いるじゃないか、そこに。』
「ああ!?」
何をほざいてやがるんだ! こいつめ! クソっ!
『君の言う“ネコちゃん”だよ、ほらそこ、君の隣。』
そう言われ隣を見るも、そこには唖然とした表情の赤髪の女の姿があるだけだった。
まずい…どんどんとUNKNぉうんとの距離が遠ざかっていく。
「ふざけたことをぬかすんじゃねぇぞ…こんな女はどーでもいんだよ…さっさとネコちゃんを出せ。」
「っ!?」
『はぁ…状況をみて少し考えればわかるだろうよ…』
「あぁ?」
『その女、赤い髪をしたその娘が“ネコちゃん”だよ。』
何を言ってんだ? どこをどう見ればこの女がネコちゃんなんだ!
イラつく気持ちそのままに女を見る。
自分でも想像出来る。
今の俺はとてつもなく憎たらしい顔を女に向けているだろう。
対する女は、これまた親の仇でも見たかのような形相でこちらを睨みつけていた。
「ひぅっ!」
あまりに恐ろしいその形相は、一瞬、UNKNぉうんに対する怒りが霧散するほど強烈だった。
『やれやれ、君たちのこの先が思いやられるばかりだよ。
…とはいえそろそろ本当にお別れだ。』
「ひ、ひぃ…―あ、まっ待て! こんにゃろ! UNKNぉうん! ネコちゃんを―」
くぅっ! 目の前の女の形相に慄きすぎたばかりにUNKNぉうんのことを疎かにしてしまった。
視界に映る白い空間はどんどん収縮し、UNKNぉうんの姿もいまは遠く、もはや点にしか見えなくなっていた。
その一方で隣を見れば変わらず、恐ろしい顔をした女がそこにはいた。
何をするでもなく、じっとこちらを睨みつけているのだ。
……恐ろしい…うなじのあたりが盛大に汗ばむ。
うぅネコちゃん……うぅぅ……
「うわぁあああああぁぁんっ」
感情が抑えきれず思わず声を上げて泣いてしまう。
視界の端で女がギョッとしたような気がしないでもないが、そんなことに気を回す余裕がない。
悲しい…ただ悲しい、僕のネコちゃん…いずこへ? 君のいない人生なんて、いまさら考えられないよ…う、うぅぅ。
「ひっくっぐひッ! うェぐっ! うぇっぐっ…」
「…はぁ、いい加減泣き止んでおくれよ…そろそろ着くんだから? きっと、ネ、ネコ、ちゃんも先に向こうで待ってるって!」
悲しみの中、視界は涙で覆われていて、何かを見るどころじゃなかったが、女の一言で申し訳程度にあたりを伺うと視界に写ったのは何とも宇宙的な光景だった。
あれだ、ド○えもんで言う机の引き出しの中だな。
グングンと光の線を置き去りにし、やがて白い門のようなものが見えてきた。
「……ぐすっ……待っててねネコちゃん! 必ず君を見つけ出すから!」
「……はは…はぁ…もう着くよ。」
白き門をくぐる。
いざ! 異世界へ!