独り
子どもたちにも風呂に入るように言い、俺は蕎麦を茹で始めた。
六花はソファで響子と一緒にテレビを観ている。
響子は昼間にいつもより長く寝ているので、今日はまだ起きていられる。
俺は天ぷらを揚げ、薬味を準備する。
子どもたちが全員風呂から上がったところで、丁度出来上がった。
いつものコタツに山盛りの蕎麦と天ぷらを用意した。
子どもたちはいつものように、ワイワイと食べ始める。
蕎麦がたちまち無くなり、テンプラもカスしかねぇ。
俺は子どもたちの食欲のコントロールを少しばかり勉強している。
こいつらは、出せばなんでも一気に喰う。
だから、小出しにしてやると、それである程度満足するのだ。
「食欲中枢がぶっ壊れてるのか」
と思うほど勢いよく食べるのだが、間を置くとある程度は落ち着くのを発見した。
それは、各自の皿に持った場合、それで満足することが多いからだ。
米はそれなりに食べるが、鍋のような異常はない。
何がそうさせるのか、まだ謎だが。
俺が次の蕎麦を出すと、また食べ始める。
だが、ペースは明らかに落ちている。
響子は蕎麦を一杯と、エビ天を半分ほど食べて終わった。
まあ、それくらいがいいだろう。
六花はさぞまた喰うのかと思っていたが、意外に普通に終わった。
ちょっとボウっとしている。
紅白が終わる前に、俺は響子をベッドに寝かせ、子どもたちも紅白の終わりとともに部屋へ戻った。
除夜の鐘が響く。
六花はまだコタツで座っていた。
「おい、どうした」
俺が声をかけると、ハッとなり俺を見る。
「すいません、まったりしてしまって」
「別にいいよ」
俺は笑って言う。
「なんだ、考え事か」
「いえ。でもちょっと子どもの頃を思い出してました」
「……」
「小学生の頃ですが、響子と同じくらいでしょうか」
「うん」
「お風呂で、よく母親に髪を洗ってもらっていました」
「うん」
「先ほど、石神先生が私の髪を洗ってくださり、それを久しぶりに思い出しました」
「ああ」
「お前が寂しそうだったからな」
「え?」
「そう見えたんだよ」
「そうですか」
「そうだよ」
「あのなぁ」
「はい」
「もう、お前は独りじゃないんだぞ」
「……」
「俺がいるし、響子もそうだ。俺の子どもたちもお前のことが大好きだし、病院でも仲間がちゃんといる、そうだろう」
「はい」
「院長も、お前のことをずい分と買ってる」
「え、そうなんですか?」
「おう。あれは類人猿だけどなぁ、人を見る目はちゃんとあるんだよ」
「アハハ」
「それなのに、お前は寂しそうな顔をしやがる」
「……」
「まあ、お前らしいけどな。だからおっかなびっくり、俺について来いよ」
「ありがとうございます」
六花はまた涙を零した。




