六花 涙
俺は響子と風呂に入っていた。
脱衣所には、六花がいる。
もうあいつを何とかするのを、ちょっと諦めかけている。
「部長の下着」
「なんだよ」
「触ってもいいですか?」
一応俺に聞いてくるから、まだいい。
こいつは隠れて何かをやる、ということがない。
その超感覚は別として、ちゃんと相手に確認するのだから、信頼できることは確かだ。
ただ、その「超感覚」が問題だ。
「まさか、響子にエロをしかけてねぇだろうなぁ!」
俺が前に確認すると、一切していないと言う。
「でも、お前の部屋には百合とかショタのものも多かったじゃねぇか」
「はい」
「響子はなんでエロの対象にしねぇんだ?」
「響子は患者です」
「……」
ものすごい正論だが、やはりこいつの感覚は分からねぇ。
「タカトラもすごい傷だよね」
響子は湯船から、俺が洗うのを見て言う。
「すごいだろう?」
「うん。私より多い?」
「そうかもな」
「俺の身体は気持ち悪いか?」
「ぜんぜん」
「そうか」
「うん、タカトラだもん」
「アハハハ」
俺は湯船に足を入れる。
響子は俺の前に回り、俺が浸かると足の上に乗ってくる。
「私の身体も気持ち悪くない?」
「ぜんぜん」
「ほんとに?」
「だって響子だからな」
「エヘヘヘ」
響子が嬉しそうに笑う。
「人間は生きてりゃ、傷だってつくこともあるよ」
「うん」
「傷なんて、どうでもいいんだ。見た目なんてな」
「うん」
「響子の肌は真っ白だけど、黒い人だっているし、ピンクの水玉人だっている」
「うそだぁー!」
「でも、ピンクの水玉人だって、それでいいんだよ」
「うふふ」
「人間は魂よ!」
「魂よ!」
響子が俺に続く。
「魂がきれいなら、それでいいんだよ。それだけが人間の価値よな」
「うん」
「ねぇタカトラ」
「なんだ」
「でも六花はキレイだよねぇ」
「そうだよな」
「あんなキレイな人って見たことが無い」
「俺もそうだよ」
突然浴室のドアが開いた。
俺たちが見ると、そこには裸の六花がいた。
「また、お前は何でいつも入ってくんだよ!」
「いえ、呼ばれた気がしたので」
「呼んでねぇよ!」
六花は一礼して、身体を洗いだす。
「お前! 何やってんだ!」
「いえ、一緒に入って石神先生の背中でも流そうかと」
「もう洗ったよ!」
何か、いつの間にか六花のペースになっている気がする。
「では前の方を」
「ふざけんな!」
響子が声を出して笑った。
「おい」
「はい」
「俺が髪を洗ってやるよ」
六花は俺の方を見る。
「なんだよ」
「いえ、お願いします」
俺は響子を湯船から出し、冷えたらまた入るように言う。
俺が六花の髪を洗っているのを、じっと見ている。
「六花、泣いてるの?」
響子が言った。
「はい、嬉しくて」
髪を洗い流し、俺たちは三人で湯船に浸かった。
六花はずっと黙ったままだった。




