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星の家族:シャルダンによるΩ点―あるいは親友の子を引き取ったら大事件の連続で、困惑する外科医の愉快な日々ー  作者: 青夜


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大晦日

 「一江先生! もっと小さく切って!」


 「亜紀ちゃん! そろそろ冷蔵庫から黒豆を出してきてください」


 「大森先生! 先に昆布を上げてください」




 怒号が飛んでいる。


 何のことはねぇ。

 一江は自分が総指揮だの言っていたが、始まってしまえば峰岸の独壇場だった。


 流石に料亭の娘で、一通りの料理は高レベルで習得している。


 峰岸は160センチほどの身長で、スリムな体型をしている。

 食べることが趣味らしいが、仕事が激務なので、なかなか太れないと言っていた。


 うちにも一度来たことがあるが、その時は彼女は料理の出番がなかった。

 ケータリングだったからだ。


 

 仕込が一段落し、午後三時を回った。

 一旦休憩となった。



 「亜紀ちゃん、疲れたでしょう」

 一江が声をかける。

 自分が余計なことを言ったという責任感からだろうが、亜紀ちゃんは一緒にやって覚えたいと言った。

 

 「はい、おせち料理って、大変なんですね」


 峰岸が言う。

 「こういうのはね、どこまでも行っちゃうのよ。凝ろうと思えば、本当に大変になるの」

 「なるほど」

 「今回は石神部長の家だから、結構本格的に作ろうとしてるのね。大変だけど、覚えればいろいろな料理にも使えるものだから、頑張ってみるといいよ」

 「はい、頑張ります!」


 

 俺からの指示は、亜紀ちゃんの家で作っていたものを作ること。

 それ以外は、一江たちに任せた。


 事前に俺が亜紀ちゃんに、お母さんが作っていたものを聞いて、それは伝えてある。

 あとは峰岸が中心になってメニューを決めたらしい。

 必要な食材は、俺がすべて用意した。

 それくらいはしなきゃなぁ。


 重箱はうちに無かったので、峰岸が実家から送ってもらってくれた。

 料亭のでかいものが二十。

 俺はそれとは別に、五段の結構いいものを買った。


 


 門松は、愛知の造園でなんとか無理をいって譲ってもらった。

 30日には届けるということで、ギリギリ間に合った

 設置は便利屋に頼む。



 

 普段は俺の意向で、子どもたちはリヴィングの大きなテーブルで勉強をしている。

 四人で集中してやった結果、全員が学年トップクラスの成績をおさめた。

 双子は同列トップ。皇紀は二位。亜紀ちゃんはトップだった。

 本来小学生は順位を発表しないが、俺が担任の先生にかけあって教えてもらった。

 


 いいペースで進んでいたので、30日は作業なし。

 31日に、再び作り、夕方には完成した。



 俺は三人に礼を言い、10万ずつ包んで渡した。

 恐縮していたが、無理に受け取らせる。

 

 元旦に、遊びに来るように言うと

 「いえ、元旦くらいは家族でゆっくりしてください」

 と一江に言われる。

 確かにその通りなのだが

 「元旦を過ぎると、おせちはもうねぇぞ、きっと」


 うちの子たちの食欲を知らねぇからなぁ。

 では、元旦に、ということになった。






 大晦日に、俺は響子の体調を確認の上で家に連れてきた。

 六花も一緒だ。


 アメリカでは祝いをすることはあっても、日本のように特別な認識はない。

 響子もいつも通りでも良かったのだが、折角日本にいるのだから、日本的な行事に触れさせるのもいいだろうと思ったのだ。

 


 響子は少しずつ体力を取り戻していった。

 まだまだ普通の生活はできないが、起きている時間が少し増えた。


 夕飯はベーコン巻きハンバーグとリゾットを作る。

 子どもたちは双子が300グラム、皇紀と亜紀ちゃんは500グラム。

 これはうちでは少なめだ。リゾットも驚くほどには作らない。

 響子は50グラムだ。ベーコンは巻かない。代わりに湯葉を巻いた。

 

 「食べられそうなら、でいいからな」

 響子はうなずく。

 響子はハンバーグを半分食べ、リゾットを小さなカップで完食した。


 六花は500グラムのハンバーグを食べ、リゾットもお代わりする。

 「石神先生、こんな美味しいものは食べたことがありません!」


 「お前、この後蕎麦も茹でるんだから、食べ過ぎるなよ」

 「はい!」


 「亜紀ちゃん、おせち作りはどうだったよ」

 俺は少し疲れの見える亜紀ちゃんに声をかける。

 「思った以上に大変でした。でも、なんとか間に合って、今は嬉しい思いで一杯です」

 「そうか」

 亜紀ちゃんは妹たちから、がんばったね、すごいよね、と声をかけられ、嬉しそうだった。









 街は静かで、ここは温かい。

 俺は久しぶりに、日本の年末を味わっていた。

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