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星の家族:シャルダンによるΩ点―あるいは親友の子を引き取ったら大事件の連続で、困惑する外科医の愉快な日々ー  作者: 青夜


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ある晩、僕は《美》をひざの上にーーランボー

 居酒屋では、既に救急車の手配に入りかけていた。


 食器を片付けに来た店員は、羽交い絞めにされている女性を発見し、なんとか引き剥がした。

 しかし羽交い絞めにしていた女性はそのまま昏倒し、されていた女性も相当酔っているようで、ろれつが回らない。

 店長が呼ばれ、どうしたものかと考えていたところへ、二人から連絡を受けたと言う大柄の男が到着した。

 背が高いだけでなく、容貌が輝くように美しい。


 男は二人の支払いの他、10万ほどを渡してきた。

 皿が二枚ほど割れた程度だったが、迷惑をおかけしたので、という男の言葉に、店長は礼を言って受け取った。

 その後、二人を脇に抱え、平然と帰っていく力強い姿に、店長や店員たちは何か神々しいものを見た。


 「あ、店長、左の女性がもどしちゃってます!」

 「ああ、ちょっとお助けしてきてくれ」

 「はい!」



 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■




 何とか駐車場まで運んだが、ハマーに入れる手前で俺は悩んでいた。

 確実に汚される。

 まだ半年も経っていない新車に吐かれるのは非常に嫌だ。

 吐瀉物は汚すだけではなく、長い間臭いを残す。

 子どもたちを乗せられなくなるじゃねぇか。


 ふと、俺は目の前にあるコンビニを見つけた。




 「おい、着いたぞ!」

 俺は二人に声をかける。当然返事はねぇ。

 俺は独りずつシートから降ろし、外へ寝転がす。

 亜紀ちゃんが気付いて、家から出て来た。


 「タカさん、これって……」

 異様な光景に亜紀ちゃんが固まった。


 二人は70リットルのゴミ袋をかぶされ、それが首元で粘着テープで縛ってある。

 ついでに暴れないように、両手を脇に、胸と腹に粘着テープをグルグル巻きにしてあった。


 「ゆ、ゆうかい!」

 「違うって!」


 俺は短く状況を説明し、この生ゴミが一江と花岡さんであることを話した。

 「びっくりしました」

 そうだろうなぁ。


 「ちょっと二人を家に入れるからな。他の三人はもう寝てるか?」

 「はい」

 ちょっと安心した。


 案の定、ゴミ袋の中には大量のものが吐かれていた。

 俺は一人ずつ足を持って持ち上げ、亜紀ちゃんに首のテープを剥がしてもらう。

 スカートが捲くられ、パンストと下着が見えてしまうが、どうせ生ゴミだから気にしない。

 一江のは気持ち悪い。

 汚れたゴミ袋は別な袋へ入れ、厳重に口を縛る。

 続いて庭の水場のホースを持ってきて、軽く二人に浴びせ、簡単に汚れをとった。

 「つ、つめたいよー」

 一江がそう言うので、花岡さんよりも多めに水を浴びせた。


 ようやく家の中へ入れられる。

 そのまえに全身を再びゴミ袋へ入れ、びしょ濡れの生ゴミを1階のシャワー室へ運んだ。

 多少広めに作っておいて良かった。

 トレーニング後のための施設だったが、生ゴミ二つを置いても多少の余裕があった。

 最初は亜紀ちゃんに脱がせて貰おうかと思ったが、泥酔し動かない成人女性は手に余った。

 仕方なく俺が脱がせる。

 冷水で、と最初は思ったが、既に12月に入って気温も低い。温水をかけてやる。

 亜紀ちゃんが健気に髪と身体を洗ってくれた。

 すまないな、ほんと。


 一江の貧相な身体は足で転がしながらすぐに終わったが、花岡さんの身体に目が釘付けになる。

 俺は亜紀ちゃんに気付かれないように、お湯をかけ続けた。


 魔乳か。


 貧乳、普通、巨乳。

 何段階かを経て、伝説の魔乳へ至る。

 魔乳とは、ちっぱい好きな男であっても、その魅了で捕らえ、すべての男を蹂躙するという恐ろしいものだ。

 俺はなるべく目を逸らして見ないようにした。


 「花岡さんってスゴイですね」

 「なにがだー」

 

 思わず漏れた亜紀ちゃんの声に、俺はもう一度花岡女史を見てしまった。


 うちには二人に合うサイズの服はない。

 仕方が無いので、そのまま裸で寝てもらう。

 亜紀ちゃんがなんとか二人の身体を拭い終え、俺は担いで客室ベッドに二人を運んだ。


 「なんか荷物みたいですね」


 亜紀ちゃんが両脇に裸の女性を抱える俺を見て笑った。

 こんな修羅場でも笑顔でいる亜紀ちゃんは大好きです。

 客室に転がし、二人で簡単にベッドメイクをして、布団をかけてやる。


 「やっと終わったな。亜紀ちゃん、ほんとうにありがとう」

 「いえ、お役に立てて良かったです」


 俺は部屋の明かりを消し、メモを枕もとのテーブルに置いた。

 「絶対に子どもたちが家を出るまで部屋を出るな」





 翌朝、俺は子どもたちに言った。

 「昨晩、強盗殺人犯を捕まえて、客室にとじこめてある。危険だから絶対に部屋に入るな」


 「えぇー、ほんとにぃ!」

 「だいじょうぶー?」

 「タカさんは、やっぱすげぇや」

 「ウフフフ」

 子どもたちは朝食を食べ終え、学校へ行った。


 俺はコーヒーを飲み終え、気分を整えてから、客室へ向かった。

 俺がノックすると、二人は既に起きていて、土下座で俺を迎える。

 もう一枚、シーツを取り出したようで、二人はそれぞれ身体に巻いていた。


 「「たいへん! 申し訳ありませんでした!」」


 声を揃えて謝る二人を見て、俺は大きなため息をつく。


 「あのなぁ、病院には二人が会食中に急性食中毒と言ってあるからな。その話で合わせろ」

 「はっ、すべては部長の指示通りに!」

 俺は一江の頭を踏み潰す。


 「お前、俺が女の顔にも平然とパンチを入れる男だって知ってるよなぁ?」

 「はい、それはもう見事に、一切の躊躇無く!」

 俺はもう一度一江の頭を踏み潰す。


 「石神くん、私も本当にごめんなさい!」

 俺は花岡さんの頭も踏み潰す。

 軽めに。

 ゴン、という音が聞こえないので、不審に思った一江が隣を見た。

 俺はもう一度一江の頭を踏み潰す。ゴゴン。


 「ちょっと待ってろ」

 俺はそう言い、二人が着る服を探した。

 下着は洗って、既に乾燥してある。

 一江には俺のシャツとパンツの裾を上げればいいだろう。

 問題は花岡さんだ。

 シャツでは、恐らくあの胸は収まらない。

 考えた挙句、俺のセーターを貸した。


 「あ、これ肌触りがいい」

 一江が言った。部屋の外の俺にも聞こえる。

 二人の着ていたものは一応洗ってはいるが、あちこちが破れ、ボタンも飛んでいたので、ゴミ袋に入れて返した。

 袋を見て、一瞬二人はギョッとするが、何も言わない。


 朝食も茶も出さない。

 また吐かれたら、冗談じゃねぇ。


 俺はハマーを暖気している間、大きなあくびをした。

 「石神くん、本当にごめんね。寝不足でしょ?」

 ああ、そうだよ。

 お前らが寝ている間、一応ずっと容態を見ていたからな。


 「まったくですよ」






 でも、とても良いものを見せてもらった。

お読みくださって、ありがとうございました。

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