第二回石神くんスキスキ乙女会議
「第二回「石神くんスキスキ乙女会議」を始めます」
「ねぇ、一江さん、やっぱりまずいんじゃないかなぁ。それと、前回と会の名称が違うような気が……」
栞は一江に言う。
ここは三井住友ビルの高層階にある個室居酒屋。
すきやきが絶品で、アラカルトも豊富で美味しいことで有名。
「大丈夫です。今日はちゃんと「お食事」なんです。さあ、じゃんじゃん食べて、じゃんじゃん飲みましょう!」
「だから飲んだらいけないんだって……」
「こないだ部長に呼び出され、私たちの計画の一部がバレました」
「え、計画って私全然知らないんだけど!」
「もう栞のことも部長には伝わっています。残念です」
「エェーッ!」
石神に呼び出された一江は、坪内緑子への接近を問いただされ、ほぼ抵抗することなく洗いざらい告白した。
ロックハート一族の石神に対する囲い込みに対抗するため、石神が結婚することを考えていたこと。
そして花岡栞には、その計画に加担するように持ちかけていること。
「じゃあ、あのサバトの宴会は、そういうことだったのか」
「いまさらながらに、申し訳ありませんでした」
「はぁー」
その後二時間の説教を受け、ロックハート一族とは決着がついたから、もう計画はやめろと言われた。
しかし、一江には別な思惑があった。
「響子ちゃんとのことは、一段落しましたけど、私たちには残された大問題があります」
「え、そうなの」
栞のテンションは爆下がりであった。
前回の泥酔事件は、いまだに脳裏から離れない。
あの後、どんなに恥ずかしい思いで出勤したことか。
詳細は伏せられても、泥酔し足腰が立たない状況で石神くんに迎えに来てもらったことは、みんな知っている。
警察沙汰になったことは、もちろん誰も知らない。
今日は一江に強引に連れてこられたが、やはり二人で会うのはどうにも気が退ける。
「栞、ちょっとテンション低いわよ!」
すきやき鍋が届き、野菜を入れ始めた一江が栞にはっぱをかける。
「そんなこと言っても……」
「それじゃー、そろそろ本日の議題を」
「わーい、しゃんしゃん」
棒読みで言う栞。
「今日は、坪内緑子さんについてです!」
「!」
思わぬ名前に、栞はハッとなった。
「先日、緑子さんは、また部長の家にお泊りしています」
「そうなの?」
自分が身を乗り出していることに、栞は気付かない。
「それでぇ、私が部長の若い頃の知り合いに聞いて回ったところ」
「うんうん」
「部長と緑子さんは、男女の関係だったそうです」
「ええぇっーなんでぇ」
栞は思わず叫ぶ。
「あ、やっぱショックだった? でも安心して、今はまったく違うはずだから。私の掴んだ情報でも、別に付き合っていたとかじゃないから」
「それって、ますます悪いじゃない!」
「そうなりますよね。でもそうじゃないんですよ、これは」
「どういうことなのよ!」
いつの間にか、二人は話に熱中し、日本酒を飲み始めた。
「ああ、お鍋に日本酒! もう最高ねぇ!」
「うん、美味しいよね。で、話の続きは!」
既に二人は熱燗からコップ酒に移行していた。
「そうね、そうね。話の続きよね。あのさ、栞。要するに部長って男は、女性と付き合うことには抵抗はあっても、一夜のファイトなら受けて立つってことなのよ!」
「え、あ、そういうことになるの?」
「そうよ! 恐らく緑子さんから積極的に誘われて、ほだされてやっちゃったのです」
「やっちゃったって、陽子……」
栞は自分が酔い始めている自覚がない。黄色信号が灯った。
「それで今日の議題ですが、私は決戦兵器の使用を求めます」
「え、決戦兵器ってなーに?」
「坪内緑子。年齢41歳。有名なあの劇団○○所属の中堅女優。ということは一流の舞台俳優ということです。容姿端麗、スタイルよし。決戦兵器なし」
「だから決戦兵器って何よ?」
「それはここにある、二つのメガトン・ミサイルだぁー!」
一江は栞の巨大な胸を両手で掴んだ。
「なにするのよー!」
抗う栞は、酔った身体で一江の手を払う。
その時、一江は骨が痺れる程の衝撃を感じ、驚いた。
精一杯の笑顔を浮かべて我慢した。
一江はここから栞を説得し、いかに石神にハニートラップを仕掛けるかの相談に移ろうとしていた。
一江には、その絵図がすでに描かれている。
「あのねぇ、これに触っていいのは、いしがみくーんだけなの! 一江はメッ!」
「あれ?」
いつ栞はこんなに酔ったのか。
(まずい、まずい、まずい、まずい…………)
身長170センチの決戦兵器を備えた栞を、身長の低い痩せた自分が運ぶのは不可能だ。
誰かを呼ぶにしても、知り合いって病院関係しかない。
必ず部長にバレる!
「ねぇ栞、ちょっと酔いを冷まそ。今日は知らないうちに飲みすぎちゃったよね。さあ、水を飲んで」
「うん、わかったぁ。のむー」
栞は従順にコップの水を飲み干した。
一江は栞が酔うと幼児退行することを前回学んでいた。そこから強烈にデレてくる。まだ今は退行期間だ。まだ間に合うはずだ。
「じゃあ、よーこも飲んだほうがいいよー」
栞は水を一江に飲ませようとする。
「ブフォッ!」
「栞、これ水じゃなくてお酒……」
次の瞬間、一江は栞に羽交い絞めにされていた。
「ほーら、おみずをいっぱいのんでねー」
無理矢理コップを口に入れられる。
「あー、なんでこぼしちゃうのかなー。ああそうだぁ、こうすれば」
前に回ってきた栞は、コップの酒を口に含み、一江に口移しで流し込む。
なぜか鼻をつままれ、時折腹に拳をめり込まし、一江は栞のなすがまま、酒を体内へ入れた。
(なにこれ、なにこれ、なにこれ、なにこれ……)
恐ろしい殺人鬼に囚われたかのような恐怖を抱いた。
このままでは、自分は殺されてしまう!
一江は栞の攻撃を受け入れながら、最後の力を振り絞ってスマートフォンを手にし、必死に通話ボタンを押した。
「あ、一江か。こんな時間にどうかしたか?」
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