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星の家族:シャルダンによるΩ点―あるいは親友の子を引き取ったら大事件の連続で、困惑する外科医の愉快な日々ー  作者: 青夜


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再び、六花と風花 Ⅵ

 「どうだ、お腹は一杯か?」

 「はい! いつもより大分食べました。どれも美味しかったです」

 「そうか。風花も自分でちゃんとしたものを作るんだぞ」

 「はい!」

 俺たちはしばらく料理の話をした。


 「美味しいものを食べろということじゃないんだ。「ちゃんとしたもの」ということだな」

 「それは、どういう違いなんでしょうか」

 「人間は雑食だ。だからいろいろなものを喰わなければならん。好きだからって肉ばかり食ってると身体を壊すんだよな」

 「はい」

 「ミネラルが日本人には特に重要なんだけど、ミネラルって大抵美味くないんだよ」

 「そうなんですか」

 「苦い場合がほとんどだからな。サラダなんかも、生野菜って苦いじゃない」

 「ああ」

 「でも、食べなきゃいかん。だからドレッシングとかがあるわけだな」

 「なるほど」


 風花は東京の夜景を見ている。

 大阪とは違う。





 「じゃあ、石神さんはお子さんたちにも」

 「ああ、あいつらは肉食獣だからな」

 風花が笑う。


 「もちろんいろんなものを喰わせているけど、肉が少ないと俺が危ない」

 「アハハハハ!」

 「普通はさ、家計が頭打ちになって、自然にステーキ大会なんかしなくなるよ。でも、うちは出来ちゃうからなぁ」

 「石神さんはお金持ちですからね」

 「まあ、金持ちかどうかは知らんけど、あれだけ喰わせることはできるよな」

 「はい」


 「でも、本当はいいことじゃないんだ。あいつらだって、いずれは自前で生活させなければならん」

 「そうですね」

 「風花なんかはそうなってるけど、そうするといろんなお金の配分を考えるだろ?」

 「私の場合、石神さんとお姉ちゃんに助けてもらってますから」

 「それでも、毎日ステーキは喰えないだろう」

 「そうですねぇ」

 「でもな、あいつらは既に出来ちゃうんだよ」

 「そうなんですか!」

 「特に双子な。もうすぐ国家予算並みの資産になる」

 「え?」

 「皇紀も、これまでの特許なんかで相当だ。今後は更に展開していくだろうしなぁ。亜紀ちゃんはまだそういうのは無いけど、あいつはまた幾らでも稼げそうだしなぁ」

 「石神さんの家ってとんでもないですね」

 「あいつらが異常なんだぁ!」

 二人で笑った。

 亜紀ちゃんが女子プロにスカウトされた話をすると、また風花が爆笑した。






 俺たちは、羽田空港に着き、車を降りた。

 風花がアヴェンタドールのドアを閉める時に、また緊張した。

 第一ターミナルの展望台へ行く。

 途中でいつも通り、コーヒーを買った。

 三つだ。


 「ああ、やっぱり綺麗ですね!」

 「そうだよなぁ」

 すっかり暗くなっており、空港の夜景が素晴らしい。

 俺たちはベンチに座り、コーヒーを飲みながらしばし景色を眺めた。

 二人でカップを持ち、一つを俺の隣に置く。


 「風花が元気そうで本当に嬉しいよ」

 「ありがとうございます。石神さんとお姉ちゃんのお陰です」

 「うん? 六花から塩野社長の話は聞いてないのか?」

 「え?」

 「あいつ! ちゃんと風花に話せって言ったのに」

 「はい?」


 俺は別荘で話した、塩野社長の子どもの頃の体験を風花に話した。

 風花は黙って聞き、やがて涙を流した。


 「最初に風花に会いに行った時、素晴らしい社長さんだと思った。やっぱり、そういう悲しい経験があるんだな」

 「はい」

 風花が涙を拭って答えた。


 「風花が育った孤児院で、その女性も育った。だから塩野社長は風花が入社してくれて、それは喜んだことだろう」

 「はい」

 「それに風花が一生懸命に働いてくれて。俺が前に風花が拾ってくれたことを恩義に感じて、東京へは来ないと言ったと伝えたら、大層喜ばれた。それは、そういうことがあったからだな」

 「分かります」

 「塩野社長は恩義で風花の孤児院を援助し、風花がまた恩義に感じてくれた。人間はいいよなぁ」

 「はい!」


 俺たちは、飛び立っていく旅客機を眺めた。

 幾つもの灯をともし、点滅させながら小さくなっていく。

 旅の無事を祈る。


 「今日は六花のことで、風花に頼みたいことがあったんだ」

 「なんでしょうか?」

 「六花は俺を愛してくれている」

 「はい」

 「もちろん、俺も六花を愛している。だけどな、六花は俺と自分を重ね過ぎている」

 「どういうことですか?」

 「あいつは、俺が死んだら一緒に死ぬつもりだ」

 「……」

 「その時に、お前があいつを止めて欲しい」

 「それは!」


 「六花の気持ちはこの上なく有難い。でもな、人間は「別」な存在なんだ。だから辛くたって、自分の運命を生きなきゃならん」

 「はい、そうは思いますが」

 「俺と共に生き、俺と共に死ぬ。それがあいつの最大の喜びなんだということは分かっている。それでも、だな」


 風花は黙っている。

 俺の話は理解している。

 しかし。


 「お引き受けしたいんですが。でも、やっぱり無理だと思います」

 「そうか」

 「お姉ちゃんは、誰が止めたって喜んで死ぬと思いますよ。石神さんがおっしゃるように、それが最大の幸せですから」

 「お前はそう言うんじゃないかと思っていたよ」

 「そうですね」

 「それでもな。俺は言わなければならんことは言う人間だ。正直に答えてくれてありがとう」

 「いいえ」


 俺たちはまた夜景を眺めた。


 「ところで石神さん、さっきから気になっていたんですが」

 「なんだ?」

 「そのコーヒーは、石神さんが飲むんですか?」

 俺の隣に置いたままのカップを、風花が尋ねた。

 俺は奈津江の話をかいつまんでした。


 「今でも奈津江が傍にいるんじゃないかってな。いつも独りの時は置いているんだ」

 「今日もなんですね?」

 「いや。誰かと一緒の時にはやってなかったんだ。でも、こないだルーをここに連れて来た時に、奈津江を見たらしい」

 「え!」

 「そうは言ってないんだ。あいつらの中で話してはいけないことのようだからな。でも、ここで俺の隣で微笑んでいる奈津江の絵を描いてくれた。だからきっといるんじゃないかってな」

 「石神さん」


 「双子は何か見えるらしいんだよ。滅多に喋らないけどな。ああ、こないだ別荘に行った時にも、とんでもないものを見たらしいんだよ」

 「とんでもないものって?」

 「口を滑らせたのは、山よりもでかいらしい。俺にはさっぱり分からんけどな。だけど、あのやんちゃなあいつらが脅えていたんだ」

 「そんなものが」

 「ちょっと気になってな。秘密で挨拶に行った!」

 「え!」

 俺は笑って、その時のことを話した。


 「夜中になったけどなぁ。俺の言葉が通じるかも分らんけど、一応な。俺たちを襲わないでくれってな」

 「どうだったんですか!」

 「ああ、全然分からん」

 風花が爆笑した。


 「あー、でも良かったですよ。ほんとに出てきたら怖いじゃないですか」

 「そりゃそうだな!」

 また二人で笑った。


 「あいつらは肉の喰いすぎだからしょうがねぇ。でも俺は真面目に生きてるからなぁ!」

 「それは酷いですよ!」

 「だってそうだろう! あいつらをあれだけ喰わせてやってるんだ。もしもの時には俺の盾になって欲しいよ」

 「アハハハハ!」

 「さあ、そろそろ帰るか!」

 「はい!」


 俺は奈津江の冷めたコーヒーを飲み干した。

 

 「あ、飲んじゃうんですね?」

 「そうだ。間接キッスだ! 奈津江とはあんまりキスもしなかったからな!」

 「アハハハハ!」


 





 奈津江も笑って欲しいと思った。

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