再び、六花と風花 Ⅲ
土曜日の朝。
俺が目覚めると、ロボが見ていた。
起こそうとはしないで待っていたらしい。
俺が起きたのを察して、顔を頬に摺り寄せてくる。
こいつは本当に頭がいい。
出勤するときには、アラームの5分から1分前に俺を起こす。
何を感じてそんなことが出来るのかは分からない。
そして休日、土日はもちろん、旗日でさえも分かっている。
休日には、俺が起きるまで起こそうとはしない。
誰に仕込まれたのか。
ロボの頭を撫でる。
ゴロゴロと喉を鳴らす。
俺がトイレに行き、顔を洗っている間は待っている。
たまに足に擦り寄って甘える。
一緒に階段を降りて、リヴィングに行くと、ロボのエサは用意してある。
恐らく分かっているのだから、先に降りて食べていればよい。
しかし、ロボは俺と一緒に必ず降りる。
「「「「おはようございます!」」」」
「おはよう。今日は六花と風花が来るからな」
「「「「はい!」」」」
「タカさん、ウインナーは?」
「いらない」
双子が俺のウインナーを食べる。
嬉しそうだ。
「いらっしゃるのは、二時くらいですかね?」
亜紀ちゃんが聞いて来る。
「予定ではな。でもあいつのことだから分からんぞ。もっと早いかもしれん」
「じゃあ、お昼も用意しておきましょうか?」
「いいや。早く来たら俺が何か作るよ」
「はい! じゃあお願いします」
亜紀ちゃんはすっかり俺の家のことを任せられるようになった。
元々がそうなのだろうが、一層気遣いが出来るようになった。
「今日は海鮮フレンチとステーキですね!」
亜紀ちゃんが嬉しそうな顔をする。
「ステーキはほとんどお前たち用だけどな。風花には特別な肉を俺が焼く」
「はい!」
「風花はまだ「人間」だからな」
「アハハハハ」
ロボが食べ終わって、俺たちを見ている。
「お前にもいい肉を焼くからな!」
「ニャー」
返事をした。
子どもたちが掃除を始めた。
俺はロボと少しじゃれ合ってから、一緒に庭に出た。
「そういえば、お前にまだ見せてなかったな」
ロボが俺の横をついてくる。
庭に出るのは初めてなので、いろいろ匂いを嗅いでいる。
俺はゴールドの墓に行った。
「これはな。縁があって短い間うちにいた犬なんだ」
俺は説明して、手を合わせる。
「これからもずっと一緒だってことでな。ここに埋めた。まあ、お前の先輩だ。仲良くしてくれ」
ロボはゴールドの石の匂いを嗅ぐ。
何度か、石を舐めた。
俺の顔を見る。
俺が抱き上げると、顔を舐めて来た。
「じゃあ、中に入るか」
ロボは、大人しく抱かれて入った。
外を遊びたがるようなことはなかった。
ただ、俺に抱かれながら、作業小屋の方をずっと見ていた。
「あれ、お出かけですか?」
亜紀ちゃんに声を掛けられた。
「ああ、ちょっと響子の顔を見てくる。今日は六花は行かないだろうからな」
「分かりました!」
俺はドゥカティに乗って、病院へ向かった。
「響子!」
「タカトラー!」
響子はベッドにいた。
「さっき、六花と風花が来てたのよ!」
「なんだ、そうだったか」
「風花がお土産をくれたの」
俺に小さな虎のぬいぐるみを見せた。
顔が可愛らしい。
「いいな、これ!」
「ね! カワイイよ!」
響子は前からあるぬいぐるみと一緒に抱いて見せた。
「名前をつけてやれよ」
「えー、タカトラがつけて」
「じゃあ、コトランでどうだ?」
「あ! カワイイ!」
大きいのは「タカトラ」だ。
俺の分身だ。
六花たちと、セグウェイで遊んだらしい。
昼食までは休憩だ。
俺はしばらく響子とお喋りし、帰った。
「風花にありがとーって言ってね!」
「ああ、必ずな」
家に帰ると、六花から電話が入った。
予定通り、二時頃に来るということだった。
俺は子どもたちと昼食のうどんを食べ、書庫からガルシア・ロルカの詩集を出してゆったりと読んだ。
膝にロボが横たわっている。
時間通りに六花と風花が来た。
家の前にタクシーが停まったので、みんなで出迎える。
トランクから大きなスーツケースが降ろされた。
皇紀がすかさず受け取って降ろし、ハンドルを握った。
「ありがとうございます」
「待ってたよ、ようこそ」
「みなさん、またお世話になります」
「「「「いらっしゃいませ!」」」」
みんなで家に入る。
そのままリヴィングへ案内した。
家族だからだ。
風花は俺たちが買ってやった、白の長袖のワンピースを着ていた。
裾に、小さな淡い花が散りばめられている。
髪がふんわりとウェーブがかかり、清楚な化粧が施されている。
「おい、風花。今日は一段と綺麗だなぁ!」
「え、そんなことは」
「みんな、どうだよ?」
「きれー!」
「すごい美人だよ!」
「お綺麗ですって」
「綺麗ですよ!」
「にゃ!」
ロボは付き合いがいい。
「な? 誰が見たってすごい美人だぞ」
「あ、ありがとうございます」
「六花が化粧したのか?」
「はい。私、こういうの初めてで」
「いいものだろう?」
「はい」
少し、恥ずかしそうにしている。
「帰りに、ちょっと化粧品を買っていこうと思います」
六花も嬉しそうだ。
「風花も働いてるんだからな。化粧が必要な場合もあるだろうしな」
「はい」
亜紀ちゃんと双子が紅茶を煎れる。
みんなで一休みした。
風花に、ロボの儀式を受けさせた。
しかし、他の人間よりもロボは早く風花に懐いた。
好きなタイプらしい。
子どもたちは勉強を再開し、俺たちはコーヒーを淹れてソファに移動した。
「夕べはどうしたんだ?」
「はい、お姉ちゃんと遅くまで喋って」
「こいつにそんなスキルがあったのか!」
風花が笑う。
「一緒に寝ました!」
六花が胸を張って言った。
「あの地獄部屋でか!」
「ウフフフ」
風花が笑う。
「風花も石神先生の全てを知りました」
「やめろよ」
「いつでも姉妹丼が大丈夫です」
俺は六花の頭をひっぱたいた。
「風花はまだ16歳だぁ!」
「私、大丈夫ですよ?」
「あ?」
「「「「エェー!」」」」
「ニャ?」
「ほら!」
俺は六花の頭をひっぱたく。
「風花、お前大丈夫か?」
「はい!」
「別に、俺はそういうのは否定しない人間だけどな。でも幾ら何でもまだ」
「はい。私もよくは知らないんですが、石神さんはお料理が上手いですから」
「へ?」
「きっと美味しいのだと」
六花はニコニコしたままだ。
「おい」
「はい」
「姉妹丼って意味を教えてるのか?」
「親子丼と似たようなものだと」
「まあ、そういうことにしておけ」
「はい!」
「風花」
「はい」
「今日は全然用意がないんだ」
「はあ」
「いつかな。いや、それはないんだけど」
「はい?」
「ま、まあ、今日は別な料理を堪能してくれ」
「はい! お世話になります」
子どもたちは笑いを堪えている。
こいつらに性教育をした覚えはねぇんだが。
俺はヴァイツェンナガノのクッキーを出した。
六花が幸せそうな顔でパクつき、風花にも美味しいから食べろと言う。
美味いものなら、幾らでも出すんだけどなぁ。




