双子、その追跡。
月曜日。
タカさんが出掛けた。
アヴェンタドールだ。
先週は鷹さんと別荘に行ったから、お疲れのはずだ。
ヒッヒッヒ。
それなのに、夜になって出掛けるのはおかしい。
新しい女か?
ハーと話し合って、後を追うことにした。
新しい女を拝んでやろう!
タカさんのアヴェンタドールには、GPSを仕込んである。
もちろん内緒だ。
タカさんに万一のことがあったら、ハーと一緒にすぐに駆けつけるように。
場合によってはオーバーキルになるけど、亜紀ちゃんも連れてく。
町が半壊するかも、だけど。
「あ、便利屋さん! お願いがあるの!」
「へいへい」
私が電話している最中に、ハーがGPSの受信機を起動する。
皇紀ちゃんに作ってもらった。
暗視望遠スコープと高感度集音マイクも。
離れてないと、タカさんは鋭いから見つかる。
便利屋さんがBMW i8で来た。
あたしたちが買ったものだ。
こういう時のために。
新便利屋亭に置いてある。
その家も私たちで購入した。
タカさんは知らない。
「ちょっと散歩してくるねー!」
「待って! こんな暗くなってどこ行くの!」
亜紀ちゃんに止められた。
「ちょっとだけだからー」
「待ちなさいって!」
無視して飛び出した。
「ルー、おかしいよ。タカさん東名を走ってるよ?」
「え?」
都内の女じゃなかった。
タカさんのオチンチンは長いなー。
どこの女だろ?
私たちは後部座席に乗り、便利屋さんに運転してもらう。
「あ、中央道だよ!」
「えー、じゃあ別荘の方じゃん」
「秘密の女としっぽりかな?」
「暴れん坊だね!」
「「イッヒッヒッヒ!」」
カメラもバッチリあるよ、タカさん!
「お嬢さん方、本当にいいんですかい?」
「だいじょーぶ! タカさんのためだから」
「黙って運転して!」
「へいへい」
「「へい」は100回!」
「へいへいへいへい……」
便利屋さんはちゃんと付き合ってくれるから好き。
♪ まーずーしさに~ まけた~ ♪
ヒマなので、三人で歌った。
「ルー、やっぱ別荘だよ!」
受信機を見ていたハーが言った。
アヴェンタドールは、別荘の位置で止まっている。
「便利屋さん、ここで待っててね!」
「ちょっと山に登って来るから」
「へ?」
「「へ?」は1000回!」
便利屋さんがちゃんとやってる。
私とハーは荷物をリュックに詰めて、別荘の向かいの山に登った。
真っ暗だが、私たちには関係ない。
あ、ハーが木に突っ込んでへし折った。
関係ない。
山頂まで、二分で登った。
急いで暗視望遠スコープ、高感度集音マイク、そしてカメラを設置した。
「見つけた!」
暗視望遠スコープでハーがタカさんを捉えた。
「道を歩いてるよ」
そのままハーは追っていく。
しばらく、タカさんは真っ暗な道を歩いた。
「別荘に灯をつけなかったよね?」
「おかしいなー。女が待ってると思ったのに」
「「青姦!」」
「タカさん、外も好きなんだよねー」
「六花ちゃんとねー」
私たちは何でも知ってるもん。
「あ、止まった。えーとー、ああ! あの倒木の広場だぁ!」
「あそこかぁ」
ハーはスコープにカメラを取り付ける。
私は集音マイクを向けた。
タカさんの声が聞こえた。
「あれ、一人でなんか言ってるよ?」
「女は?」
「いない……」
おかしい。
《かしこみーかしこみー……》
「なんだ、これ?」
「手を合わせてるよ」
ハーが見たものを言う。
マイクの向きはバッチリだが、ハァハァ、アーンという声じゃない。
新しいプレイか?
手を叩く音が聞こえる。
《あの、どういう方かは存じませんが》
「タカさんが喋り始めた!」
「しっ!」
二人でヘッドホンを分けて聴く。
《うちの双子があなた様を見たと聞きまして。一度ご挨拶をと》
「「!!」」
「ルー、アレが出てきたよ!」
「ハー! ど、どうしよう!」
山よりも大きい、巨大な真っ黒い塊がタカさんの方へ向かっている。
「すぐに行かなきゃ!」
「ちょ、ちょっと待って!」
《俺のことはどうなさっても結構です。でも、どうかうちの子どもたちは、そのままにしておいてください》
「「!!」」
《今日は、それをお願いに参りました。どうぞ俺のことは思うままに》
「なんで!」
「ルー! 行くよ!」
私たちは機材を放り出して向かおうとした。
アレが笑っていた。
顔がどこだか分からない。
でも、可笑しそうに笑ってるのは分かる。
私もハーも、動けなくなった。
大きな力で押さえつけられた。
アレは、タカさんの背中に細いものを突き刺した。
タカさんは何も感じていないようで、膝をついて両手を前についたままだった。
アレが、笑いながら離れた。
見えなくなって、私とハーも動けるようになった。
「ハー! 急いで戻るよ!」
「うん!」
二人で山を駆け下りた。
ハーが大きい岩に突っ込んだ。
岩が粉砕された。
ハーが、ちょっと鼻血を出した。
関係ない。
「便利屋さん! 急いで帰って!」
「「へ?」」
「「それはもういいからぁ!」」
高速をぶっ飛ばして帰った。
「あんたたち! 一体どこまで行ってたの!」
鬼に殴られた。
私もハーも鼻血を出した。
夕飯が残ってた。
生姜焼きを温めて、ハーと一緒に食べた。
一緒にお風呂に入る。
もう2時だ。
タカさんが入って来た。
「おう! 悪いな。俺も一緒に入れてくれ」
タカさんは素早く身体を洗って一緒に湯船に浸かった。
「なんだお前ら。遅くまで勉強か?」
「え、う、うん」
「お前らにはいろいろ無理させてるよな。ごめんな」
「「そんなことない!」」
「おい、なんだよ」
タカさんは笑って、私たちの頭を撫でてくれる。
「お前らの力が必要だ。悪いけど頼むよな」
「「うん!」」
「なんだよ、今日は随分と気合が入ってるじゃねぇか」
「だって!」
「なんだ?」
「タカさーん!」
二人でタカさんに抱き着いた。
涙が溢れてきた。
「なんだなんだ。どうしたんだよ」
「タカさん! 私たちのために死なないでね!」
「あー? そんなことするわけねぇだろう。お前ら奴隷が俺のために死ぬんだからな!」
「「タカさーん!」」
「おい、甘えたってダメだぞ。お前らをこき使ってやるのは決定だからな」
「「うん!」」
「冗談だって! お前らカワイ過ぎだぞ?」
ハーと二人で頬にチューをした。
「本当にどうしたんだ? おい、今日は一緒に寝るか!」
「「うん!」」
「ロボはどうすんだろうなぁ。女と一緒のときは遠慮してくれって言ってあるんだけどな」
タカさんが笑った。
ロボは、タカさんの枕の上で寝た。
女として認められてないようだった。
タカさん、大好きだよ!




