挿話: ルー、独白。
「タカさん行っちゃったね」
「うん。あさってまでいないね」
ハーも同じ思いだ。
いつも優しくて楽しいタカさん。
あの日、あたしたちを引き取ってくれた感謝の人。
「ごめんね。一杯頑張ってみたけどダメみたいなの。まだやるけど、みんなバラバラになっちゃうかも」
亜紀ちゃんがあたしたちを抱き締めて泣いてた。
嫌だけど、亜紀ちゃんがこんなに泣いているのならしょうがないのかな。
ハーとも離れちゃうのかな。
「俺に任せろ!」
タカさんがそう言った。
亜紀ちゃんも皇紀ちゃんも、あたしもハーも嬉しくて泣いた。
咲子おばさんも泣いてた。
でっかい家だった!
お城みたいだと思った。
今日からここに住むの?
ハーと二人で興奮した。
ハーの考えてることは大体わかる。
ハーも同じだ。
別々な人間だけど、そうじゃない。
タカさんはハンバーグを作ってくれた。
美味しかった。
他のものも全部美味しかった。
温かかった。
嬉しくなった。
それから毎日、タカさんはあたしたちに美味しいものを食べさせてくれた。
食事は大事だって、タカさんが言ってた。
だから、ハーと二人で一杯食べようって話した。
あたしとハーは、「食事」の大事さを理解した。
遠い先、タカさんのために、「食事」を使う。
一杯食べるぞー!
タカさんが、別荘に行こうと言った。
あたしたちが夏休みにどこにも行ってないだろうって。
なんで、そんなに気に掛けてくれるの?
タカさん、優しすぎだよー。
その別荘で驚いた。
何、あのガラスの屋上!
あんな綺麗な場所があるなんて。
そこにあたしたちがいるなんて!
タカさんがホットミルクを作ってくれていて、みんなで飲んだ。
今までで一番美味しい飲み物だった。
タカさんの思い出を聞いた。
難しいお話もあったけど、素敵なお話だった。
タカさんの難しい話も分かるようになろうってハーと誓った。
タカさんの裸を見た。
すごい傷だらけだった。
泣きそうになった。
ハーも堪えていた。
背中を流しながら、二人でそっと泣いた。
タカさんは、優しい。
だからこんなに傷だらけなんだと分かった。
一つ一つの傷が、あたしとハーに教えてくれた。
普通の人は自分が傷つかないように避けるのに。
タカさんは自分が避けたら、誰かが傷つくと分かってるの。
だから自分が傷ついて、こんなになってしまって。
寝る前に、ハーと一杯話した。
絶対にタカさんを守ろうねって誓い合った。
大事な恩人で、大好きなタカさん。
ハーと二人で、どうやろうかって話した。
「仲間を作ろう!」
ハーが言った。
あたしたちは子どもだけど、いずれ大人になる。
だから、タカさんを守れる仲間を作ろうって。
ハーと二人で仲間を集めた。
信頼できる仲間が少しずつできた。
やがて、学校であたしたちに逆らう人間はいなくなった。
あれ?
まーいーか。
栞さんが凄い技を見せた。
「なにアレ!」
「皇紀ちゃんのロケットが吹っ飛んだよ!」
栞さんと仲良くなり、ちょっとずつ技を教えてもらった。
栞さんは優しくて、ちょっとチョロいところがあった。
タカさんから、ずっと先の勉強をしろって言われてた。
丁度ハーがタカさんから行列や因子分析などの多変量解析を教わり、あたしたちは数学にのめり込んでいった。
あたしたちは、二つの頭で同時に考える。
ハーの理解はあたしに伝わり、あたりの理解はハーに伝わる。
数学はおもしろくて、どんどん進んだ。
タカさんの書庫にはたくさんの数学の本があって、どんどん進んだ。
ありがとう、タカさん!
大好きだよ!
栞さんの技を、数学的に考えてみた。
物理学で考えてみた。
タカさんにも相談した。
できた。
反物質を地球の自転のエネルギーで作り出してるんだ!
ハーと二人で喜んだ。
でもダメ。
それじゃ栞さんの技の真似だ。
あたしたちは新たな発展を求めた。
そんな時、タカさんが拳銃で撃たれたって聞いた!
ハーも半狂乱で暴れる。
でも、タカさんから、大人しく家にいろって連絡が入った。
無事でよかった!
ハーと泣いて喜んだ。
寝る前に、神様にお願いした。
はやく元気になりますように。
祈ってると、タカさんのお部屋で大天使様が微笑んでいた。
〇〇〇さんだった!
でも、タカさんには絶対に話してはいけないと言われた。
〇〇〇さんが来ていることは、いずれちょっとだけ話してもいいそうだ。
早くその日が来ないかなー!
きっとタカさんが大喜びする!
タカさんの怪我が治って、祝賀パーティが開かれた。
あたしとハーは、みんなに見せた。
もう、タカさんを傷つける奴は、あたしたちが相手にするって。
どんどん強くなった。
でも、タカさんがあたしに言った。
「お前たちを、そんなにしてしまって申し訳ない」
あたしは泣いた。
悔しくて泣いた。
そんなんじゃない!
あたしたちは、タカさんのために何でもしたいんだって!
泣きながらタカさんに言った。
タカさんも涙を浮かべて分かったって言ってくれた。
一緒にやろうと言ってくれた。
嬉しかった。
ハーも同時に分かったと思う。
タカさんの大好きで大事な場所。
羽田空港の展望デッキだった。
タカさんのコーヒーを買って戻ると、綺麗な女の人がいた。
顕さんの家でも見た、あの大天使様だ。
〇〇〇さんだ。
タカさんには見えない。
でも、タカさんを優しく見ている人。
〇〇〇さんに聞いてみた。
タカさんに教えていいですかって。
ダメだと言われた。
やっぱりそうだ。
あたしとハーには普通の人には見えないものが見える。
でも、それはあんまし他の人に喋ってはいけない。
前に会った、光る人もそう教えてくれた。
違う世界だから、あんまり関わるとちゃんとこの世界で生きられなくなるからって。
だから、いつも話していいか聞いてみる。
〇〇〇さんは、タカさんの部屋にもときどきいる。
他の場所にも、多分。
タカさんの傍にいるんだろう。
そういう「優しい人」は結構いる。
反対の「コワイ人」もいる。
中には、人間じゃない、もっとおっきな人もいる。
タカさんの別荘で見たのは、そういうおっきいモノだった。
言葉が通じたのは奇跡だと思った。
あんまりおっきいんで、関わらない方がいいってハーと相談した。
でも、タカさんに悪いことしないで欲しいな。
怖かったけど、タカさんが嫌いか聞いてみた。
そうしたら、ずっと前から気に入ってるから大丈夫だって言ってくれた。
タカさんと亜紀ちゃんと皇紀ちゃんと文学ちゃんと奥さんと便利屋さんと響子ちゃんと六花ちゃんと栞さんと鷹さんと柳さんと御堂の家のみんなと緑子さんとロボと、それとー、タカさんを好きなみんなの人!
あたしとハーが絶対に守るからね!
あ!
タカさんが帰ってきた!
ロボが走ってく。
今日は一緒にお風呂に入ろうかな!
ハーと話してみよう!
タカさん!
大好きだよ!




