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星の家族:シャルダンによるΩ点―あるいは親友の子を引き取ったら大事件の連続で、困惑する外科医の愉快な日々ー  作者: 青夜


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『白い巨塔』(田宮二郎版)

 金曜日。毎週金曜日の6時から、全員で映画鑑賞をすることになっている。既に10本以上の作品を鑑賞した。

 子どもたちも毎週楽しみにしてくれる。

 映画を観て、俺がその解説をするという形だ。


 地下の音響ルームに集合した子どもたちは、それぞれに好きな飲み物を手にして待っていた。

 俺が機械をセットすると、亜紀ちゃんが「どうぞ」とよく冷えたジンジャーエールを俺の前に置いてくれた。


 「こないだ、亜紀ちゃんと深夜に話し込んでな。その時に出た話題に則した作品を今日は観てもらう」

 俺が宣言すると、子どもたちは拍手をする。


 「これは山崎豊子という作家の原作の映画化だ。山崎豊子は、社会問題を次々に小説化した人で、非常に有名だな。特にこの『白い巨塔』は映画化され、ドラマ化され、大ヒットを飛ばした。最近もリメイクが放映されたな。まあ、だけど、今日観る映画の方が断然に良いのだぁ!」

 再び拍手。子どもたちも大分ノリが良くなってきた。


 「ルー、ハー、ちょっと難しいかもしれないけど、最後まで観てくれな」

 俺は双子をそれぞれ「ルー」「ハー」と呼ぶようになった。

 皇紀がそう呼んでいたためだ。

 「「はい!」」


 「何と言っても、主役がいい。また脇役もこぞっていい。これほどの名画は、もう作れないだろうなぁ」

 子どもたちは、もう待ち切れない、という顔でいる。

 「それじゃあ、始めるぞ」




 白黒作品だが、子どもたちにそれほどの違和感はないようだった。




 「タカさんが前に言ってた、「財前教授の総回診です!」ってやつだったんですね!」

 皇紀が大興奮で言う。

 「そうだよ、カッチョよかっただろ?」

 「はい、最高でした!」

 ルーとハーも良かったと言う。


 主役を演じた田宮二郎は、本当に神懸り的な名演だった。子どもたちの心の中にも、少なからず影響を残してくれたなら嬉しい。


 「主役の財前は、悪い奴だっただろう?」

 「そうですね。でも、一方でものすごく魅力的に思いました」

 子どもらしからぬ意見を亜紀ちゃんが言う。

 「そうなんだよ。実は悪い人間というのは、途轍もない魅力があるんだ。なぜか分かるか?」

 「うーん」


 みんな考え込んでしまう。


 「じゃあ、ハー。反対につまらない人間って、どういう奴だ?」

 「うーん、あ、おとなしい人!」

 「その通りだ!」

 俺はハーの頭をむしゃむしゃする。

 やめてぇー、と喜ぶ。

 女が「イヤン」と言う時は、その反対で「もっとやれ」という意味だ。


 「つまり、何もしない人間が、つまらない奴、ということなんだ。これでどうかな、皇紀」

 「分かりました。悪人は何か目的があって、そのためにいろいろとやるから魅力があるんですね!」

 「そういうことだな。財前はどうしたって教授になりたかった。そのために、ずい分と汚いこともするわけだけど、それが面白いわけだよ。ああ、財前の義理の父親がいただろ?」

 「産婦人科の医者ですね」

 皇紀はよく覚えている。

 「うん。それで、財前が選挙で行き詰っていると「なんぼや! なんぼ必要なんや!」って言ってただろ? いいよなぁ、ああいう、どストレートな人間は」

 みんなが爆笑する。


 「悪いことだって、分かってるんだよ。でも、何か、どうしても成し遂げたいから、必要なことは全部やる。本当にいい男だよなぁ」




 「それじゃあ、亜紀ちゃん。こないだの「何もしないとダメ」ということで、今回の映画で掴んだかな?」

 「はい。里見教授ですね」

 「正解だ。あの里見というクソヤローは」

 みんながまた爆笑する。


 「言っていることは全部正論だ。絶対的に明確なことがまだ言えないと言って、何もしない。あんなのなぁ、うちの病院にいたら、俺がぶちのめしてる」

 また爆笑。

 「もしも俺が病気になったら、絶対に財前に頼むよ。里見なんて、待ってるうちに死んじゃうからな」

 「あたしもー」

 とルーとハーが言う。


 「いや、お前たちは病気にならないでくれ」

 「「アハハハハ!」」


 「要するに、悪いことでも良いことでも全部やって、財前は教授になった。だからあの「総回診です!」というのが、光り輝いて見えるわけだな」

 ルーとハーが、自分もやりたいと言う。

 「じゃあ、医者になれ。話はそこからだ。何もやらずに、あれが出来るわけじゃねぇんだぞ。一杯勉強して大学病院の医者になれば出来る」

 子どもたちが次々「なる」と、そう言った。

 「でも、タカさんは子どもの頃にやったんですよね?」

 皇紀がつっこむ。


 「おまえ、明日の朝食はナシ」

 「ええぇー、なんで!」

 双子が笑った。




 片づけをし、みんなが部屋に戻ったところで、階段で亜紀ちゃんが待っていた。

 「今日はありがとうございました。本当にこないだのお話がよく分かりました」

 「それはなにより」

 俺は部屋の照明を消し、亜紀ちゃんと階段を上がる。

 一階の廊下で立ち止まり

 「こないだお話を聞いて、『白い巨塔』を読んだんです」

 「そうだったのか」

 「映画の続きがありますよね」

 「うん」

 「最後は財前は里見に感謝して死んでいく。それがどうも引っかかってます」


 「それはな、山崎豊子の「良い」と考える結末なんだよ。でもな、現実は違う。少なくとも、俺の哲学ではないな」

 「なるほど」

 「今日の映画監督は山本薩夫という人だ。有名な監督で、今日の作品のような、社会派と言われるジャンルをよく撮った人なんだな」

 亜紀ちゃんは、またメモを取りに行きたいと言ったが、短い話だからと俺は止めた。

 「他の映画も機会があれば観せるけど、あの監督は「巨悪」を糾弾したいんだよ。だけど不思議なことに、監督が悪く描けば描くほど、非常に魅力的な人物になっていく」

 「アハハハ」


 「人間って、だから面白いんだよなぁ。本人が望んだ、やろうとした通りにならずに、正反対の結果になることもある。まあ、それでいいんだよな」

 「よく分かりました。いつもいろんな映画を教えてくださって、ありがとうございます」

 「どういたしまして。あんまり遅くならないうちに寝ろよな」

 「はーい!」


 亜紀ちゃんは笑顔で自分の部屋に帰っていった。

読んでくださって、ありがとうございます。

もしも面白かったら、どうか評価をおねがいします。

みなさまの温かな応援で、これからもがんばっていきます。

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