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星の家族:シャルダンによるΩ点―あるいは親友の子を引き取ったら大事件の連続で、困惑する外科医の愉快な日々ー  作者: 青夜


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井上さん Ⅲ

 井上さんは飲み過ぎたと言い、部屋へ行かれた。

 俺が部屋まで送っていく。

 今日は楽しかった、と言って下さった。

 リヴィングに戻ると、亜紀ちゃんがロックで飲んでいた。


 「こら! 水割りにしろと言っただろう!」

 「エヘヘヘ」

 「笑って誤魔化すな」

 「今日は飲みたい気分です」

 俺は苦笑しながら、その一杯で終わりだと言った。

 亜紀ちゃんは、自分で焼いたハムを頬張る。

 俺はグラスに水を汲み、チェイサーを飲みながらにしろ言った。

 

 「ねえ、タカさん」

 「あんだよ」

 「なんで「レイ」の話をしてくれなかったんですか?」

 「あ? ああ」

 「だって、いいお話じゃないですか。まあ今まで伺ったお話もみんなそうですけど。でも今まで聞いた中でも、確実にトップスリーですよ!」」

 俺は笑って、自分のグラスにワイルドターキーを注いだ。

 丸い氷の表面を酒が伝い、下の液体と混ざって美しい滲みの拡がりを見せる。


 「井上さんの言葉を聞いて気付かなかったか?」

 「へ?」

 「井上さんは、あんなに俺に謝ってたじゃないか」

 「ええ、確かに」

 「カッコ良過ぎるんだよ。出来過ぎだ。命をかけて仲間を守るなんてな。レイとの友情だって、偶然だ。あんなの、ドラマでも作れば、見ている方が恥ずかしいよ」

 「なるほど」

 俺はグラスを傾け、じっくりとワイルドターキーを味わう。

 舌の上で芳醇な香りが立つ。


 「お前たちに、どういう場合に「花岡」を使っていいと言っている?」

 「それは、命の危険がある場合と、大事な人間を守る場合です!」

 「そうだよな。言い換えれば、俺はお前たちに死ぬんじゃないと言っているんだ」

 「あ!」

 「俺は死んでもいいと思った。大事な仲間を逃がすためにな。だって俺は特攻隊長だ。だから最初に突っ込んで暴れて、その間に仲間を安全な場所へ逃がすのが役目だよ。それを思っただけよな」

 「はい」


 「危ない時はやりません、じゃ俺は特攻隊長じゃない。あの井上さんが先輩方を差し置いて、俺を任命してくれたんだ。その期待に応えるのが俺だよ」

 「はい」

 「レイがいい奴だったのは、偶然だ。もしかしたら俺は殺されてたかもしれない」

 「そうですよね」

 「死ぬかもしれなかった俺を生かしてくれたのは、今度は「レイ」だよ。だから感謝し、友情を感じただけだ」

 「はい」

 亜紀ちゃんが、グラスを煽る。

 俺が頭を叩いてチェイサーを飲ませた。


 「でも、タカさんはレイに話しかけたんですよね」

 「ああ」

 「それは生きたいからだったんですか?」

 「いや、まあ。あいつが可哀そうに思えたんだよ」

 「どういうことです?」

 「あんな狭い檻に入れられて。人間に訳も分からず鞭で叩かれて。そりゃ、怒って当たり前よな」


 「……」


 「それを、胸を裂かれて気付いた。レイの怒りは正当だ。だから誰かが受け止めなきゃって思っただけだよ」


 亜紀ちゃんが、突然泣き出した。


 「おい! どうして泣くんだ」

 「だって……タカさんは傷だらけ過ぎですよー!」

 「バカ!」

 「こないだだって、奈津江さんの絵を見た途端に、あんなにワンワン泣いちゃって」

 「やめろって!」


 「なんであんなに泣くんですか! 私、ほんとにあれで傷が全部開いて血が噴き出すんじゃないかって心配でしょうがなかったんです! あんなに泣いて、普段の強いタカさんじゃなくなっちゃったぁー!」


 俺は亜紀ちゃんを抱き締めた。

 亜紀ちゃんは、確かにそんなことを言っていた。


 「悪かったな。自分でも驚いてるんだ。俺はまだまだよな」

 「そんなこと!」

 しばらく抱いていると、徐々に落ち着いてきた。


 「本当はさ、お前たちにいつでも死ねと言うのが正しいとは思うんだ」

 「はい」

 「でもさ、亜紀ちゃんがいつも言うじゃないか」

 「なにを?」

 「「私がタカさんを守りますね」ってさ。皇紀も双子も言う。俺はそれを聞くたびに、こんなにいい奴らを死なせるものかって思うんだよ」

 「タカさーん!」

 また亜紀ちゃんが泣き出す。

 ロボが出てきた。

 井上さんがいる間は、部屋にこもっていた。

 普段は絶対に乗らないテーブルに飛び乗り、亜紀ちゃんの顔を舐めた。


 「ロボ~!」


 「亜紀ちゃん、やり過ぎるなよな」

 「……」

 「俺は勝手にやったことで、井上さんをあんなに苦しめてしまった。今の、お前たちと一緒になって楽しい暮らしを見ていただいて良かったよ。少しは心が軽くなってもらいたいもんな」

 「だから家に呼んだんですね?」

 「ああ。自慢するためじゃないよ。ちゃんとやってますからってな」

 「わざわざ車を見せたのも」


 「まあな」


 「タカさーん!」

 「うるせぇな」

 「優しすぎですぅー!」

 「ぶん殴るぞ」

 「いーですよ!」

 俺はヘッドロックをかけた。


 「イタイイタイイタイ!」

 亜紀ちゃんがようやく笑った。


 「さあ、寝るぞ」

 「一緒に寝てください」

 「ダメだ。ロボと寝る」

 「いいじゃないですか!」


 「こないださ」

 「はい」

 「ロボに言ったんだ」

 「何をです?」

 「俺が女と寝る時は、外してくれって。恥ずかしいからってな」

 「イヤラシー大王ですね!」

 二人で笑った。


 「ロボに誤解されるじゃないか。「あの子はそういう女なんだな」って」

 「アハハハハ!」

 「「もう覚えましたよ」って目で見られたくねぇだろう」

 「え、別にいいですけど」

 亜紀ちゃんの頭をはたいた。


 





 俺はちゃんとロボと寝て、亜紀ちゃんは自分の部屋で寝た。


 「おい、あの子は「娘」だからな。誤解すんなよな」

 ロボが口を大きく開いた。


 「でも、ちょっとやばかったけどな」

 






 ロボが足で俺の腹を蹴った。

 俺は笑って頭を撫でてやった。 

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