表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星の家族:シャルダンによるΩ点―あるいは親友の子を引き取ったら大事件の連続で、困惑する外科医の愉快な日々ー  作者: 青夜


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

473/3164

蓮花 Ⅵ

 翌朝、俺は6時頃に目を覚ました。

 夕べは普段よりも早く寝たためだ。

 洗面所で顔を洗っていると、蓮花が来た。


 「申し訳ございません。もう少しお休みになっているかと思いました」

 「おはよう蓮花」

 「おはようございます」

 「いつもより早く寝たからな。気にしないでくれ」

 「はい」

 俺は夕べの食堂へ行った。

 蓮花がコーヒーを淹れてくれる。

 俺が何も頼まなくても、常に俺の欲することをしてくれる。


 「すぐにご朝食の準備をいたします」

 「いや、栞が起きてからでいい」

 「少し見て回ってもいいか?」

 「もちろんでございます。ご案内いたします」

 「武器が見たい。昨日の武器庫をもう一度見せてくれ」

 「かしこまりました」

 俺は一度着替えて、蓮花に案内された。

 カードを渡される。


 「こちらのカードで、すべての施設内へ入れます。今は他の研究員と接触しないようにプログラムされております」

 「というと?」

 「石神様のいらっしゃる区画には、誰も侵入できないようになっています。先にそこにいた研究員は、部屋から出ることができなくなります」

 「なるほど」

 俺がウロウロすると、仕事の邪魔になるということだ。


 武器庫へ入った。


 「地下にはレンジもございます。お試しになる場合は、そちらで」

 「分かった」

 栞の家の武器庫も、ここから搬出されたのかもしれない。

 小型拳銃からマシンガン、アサルトライフル、大口径の狙撃ライフルから対物ライフルまで。

 携帯ミサイルまであった。

 見知ったものと、大体想像できるものだった。

 俺が遊びで使って、誰かの手入れの手間をかけさせるのは忍びない。


 「戦車やガンシップなどはあるか?」

 「ガンシ、ああ戦闘ヘリならばございます。戦車はあいにく。必要であればご用意いたします」

 「花岡」はいったいどうなっているのか。

 蓮華はここから武器を持ち出したのだろう。

 ガンシップが出ていたら、被害があったかもしれない。


 「ガンシップの操縦は?」

 「はい、4名ほど訓練を受けています。免許はありませんが」

 「蓮花は?」

 「申し訳ございません。私は車も運転できません」

 「分かった」


 俺は食堂でまたコーヒーをもらった。

 ほどなく、栞が来る。


 「おはよう」

 「おはようございます」

 「おはよう」

 「石神くん、早かったのね」

 「ああ、夕べは早く寝たからな」

 「そう」

 蓮花が朝食を運んできた。


 山芋の摺り下ろしにだし汁を混ぜたもの。

 揚げだし豆腐。

 茄子の煮びたし。

 隠元の和え物。

 納豆。

 漬物。

 味噌汁はシジミだった。



 

 朝食を終え、俺たちは帰ることにした。


 「じゃあな、蓮花。また来る」

 「はい、いつでもお待ちしております」

 「無理するなよ。今度来てやつれてたら、お前を研究から外す」

 「かしこまりました。お心遣い感謝いたします」

 「蓮花、元気でね」

 「栞様も、どうかご自愛ください」


 俺はアヴェンタドールをとばした。


 「石神くんは、蓮花に優しかったね」

 「ああ。どうするつもりでもなかったんだけどな。顔を見たらそういう気になってた」

 「世話になったな」

 「いいの」

 




 昼前に、家に着いた。


 「石神くん、飛ばし過ぎだよ!」

 「アハハハ」

 200キロで事故になっても、俺たちは無事だ。


 玄関を開けると、ロボが待っていた。


 「おう! ただいま」

 ロボが俺に嬉しそうに擦り寄って来る。

 抱きかかえて顔にキスをした。

 俺の顔を舐め返して来る。

 連絡してあったので、子どもたちと一緒に昼食を摂った。

 栞も一緒だ。


 食後に亜紀ちゃんがコーヒーを持って来る。

 どこに行ってももてなしてくれるので、俺は嬉しい。

 ロボは俺の足元で寝ている。


 「ロボはどうしてた?」

 「寝るまでは一緒にいたんですけど、夜にはタカさんのベッドで寝てました」

 亜紀ちゃんが説明してくれた。


 「そうかぁ」

 俺は全員に、蓮花の「家」のことを話した。


 「皇紀、蓮花から連絡があるかもしれない。対応してくれ」

 「はい!」

 「ルーとハーもな」

 「「はい!」」


 栞が帰った。

 俺は亜紀ちゃんと買い物に出た。

 ベンツで伊勢丹へ行く。

 地下の食料品売り場だ。


 「ロボのごはんを買うぞ」

 「はい」

 肉や魚を見て回る。


 「ゴールドの時も、よく来ましたよね」

 「ああ、そうだな」

 「ロボは長くいてくれるといいですね」

 「そりゃそうなんだけど、あいつ30年以上生きてるからなぁ」

 「ネコって寿命はどれくらいなんですか?」

 「俺も詳しくは知らないけど、大事に育てて20年くらいらしいぞ」


 「え! じゃあとっくに」

 「もう特殊個体だよな。その上「α」とオロチだからなぁ」

 「どうなっちゃうんでしょうね」

 「分からん。栞が言うには、大分若いネコになったみたいだしなぁ」

 「大丈夫なんですか?」

 「何が?」

 「分かりませんけど」

 「そうだよなぁ」


 俺が選んで、亜紀ちゃんの持ってるカゴに入れていく。

 二つ抱えて、既に一つは満載だ。


 「あ!」

 「どうしたよ?」

 「元気になったこと、『猫三昧』に知らせなくていいですか?」

 「ああ!」


 忘れていた。


 亜紀ちゃんとお茶でもと思っていたが、買い物を済ませて慌てて帰った。

 ロボの食事は、亜紀ちゃんが透明の大きなPPケースに入れた。


 《ロボの分 食べた奴は鬼殺し》


 亜紀ちゃんがマジックで書いた。


 俺は『猫三昧』の店長に電話した。


 「ロボな。ちょっと時間を取って来てくれないか?」

 『わ、分かりました! すぐでもいいですか?』

 「ああ、じゃあ待ってる」

 家の住所を教えた。

 石神だと伝えた。


 30分後に飛んで来た。

 タマも一緒だ。


 「猫神様! 本当にありがとうございました!」

 二人はもう泣いている。


 「おい、店はいいのか?」

 「はい! すぐに閉めて来ました」

 まあ、あと一時間くらいのことだったから、よしとしよう。

 俺は二人をリヴィングへ上げた。


 「ロボは安らかに逝ったでしょうか?」

 店長が涙を拭きながら言った。


 「あ? ああ。 おい、ロボ!」

 ルーがドアを開けると、ロボが飛んで来た。

 部屋に入れておいた。




 「「エェッーーーーーー!!!」」




 「勝手に殺すなよ。元気だよ」

 俺は大笑いして言った。

 子どもたちもニコニコしている。

 ロボは俺に飛び上がって来た。

 我慢させられていたのだ。

 俺も抱き留めてキスをしてやる。


 「な、なんで!」

 「俺は名医だからな! 何とか元気になったよ」

 「だ、だって、若返ってますってぇ!」

 「名医なんだよ!」


 応接室で紅茶を出し、落ち着かせてから話をした。

 ロボは俺の膝の上で甘えている。


 「ちょっとな。手に入った特殊な薬をロボにやったんだ。そうしたら元気になった」

 「どんな薬なんですか!」

 「まだ世間に発表されてないものだから、何も教えられない。悪いな」

 「い、いいえ! ロボさえ元気になってくれれば」

 店長とタマはまた泣いた。


 「それでさ。元気になったけど、連れ帰るか?」

 「いいえ、猫神様さえよろしければ、どうかこのまま」

 「ああ、ありがとう。俺は石神な」

 「猫神様に、こんなに懐いていますし」


 「お前、石神って表札見て来ただろう!」

 「アハハハ」



 俺はあらためて、猫を育てるのに必要なことや注意点を聞いた。

 口頭でも説明してくれたが、資料を送ると言ってくれた。

 その上で、何かお礼がしたいと言う。


 「ああ、それじゃあ、ロボが喜びそうなオモチャをくれよ」

 「はい! 分かりました」

 夕飯を食べていけと言ったが、ネコのエサやりがあるとのことで、帰って行った。

 何度も礼を言われた。





 その晩。

 俺は亀の子だわしにタコ糸を結び、ロボの前に置いて引いた。

 ロボが目を輝かせ、尻を振って、狩の態勢に入る。


 たわしに飛びついた。


 子どもたちがみんな大笑いした。 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ