四度目の別荘 XXⅧ
関東風蒲焼30本。
関西風蒲焼30本。
それぞれ白焼きが各10本。
米は32合炊いた。
ウナギはとにかく飯がすすむ。
肝吸いもどっさりある。
後は香の物くらいだ。
肉バカの子どもたちは、どう受けるのか。
まあ、心配はまったくなかった。
子どもたちはドンブリに飯をよそい、ウナギを乗せてタレをジャバジャバかける。
「おい、塩分の摂り過ぎになるから、タレは控えろ」
実際に食べてみて、俺の言葉がちゃんと響いた。
タレは控えめの方が美味い。
次々に喰い散らかしていく。
六花はまた幸せそうな顔で掻き込んでいる。
俺もその笑顔を見られて嬉しくなる。
柳も負けずに食べる。
口に合ったようだ。
俺は響子のために関東風に焼いた白焼きをまず食べさせた。
ワサビと、少しの醤油。
「美味しいね!」
笑顔で俺に言ってくれた。
俺はタレで焼いた身を大きく切って、響子の茶碗に乗せてやる。
食べ方は子どもたちを見ればわかる。
響子が豪快に掻き込む。
脂が多いので、響子は一杯で満足した。
白焼きをつつきながら肝吸いを味わった。
俺はドンブリで蒲焼四本で二杯食べ、後は白焼きで日本酒を飲んだ。
柳が隣に座る。
「あー、今日も一杯食べましたよ」
「そうか、もういいのか?」
「もう無理です。こんなにウナギを食べたのは初めてです」
「まあな。普通は足りないくらいで終わるからな」
「柳は少食ね」
響子が笑って言った。
「えー! 比較の相手が大物過ぎだよ」
俺たちは笑った。
俺は余った食材を出し、子どもたちに自由に焼いて食べろと言った。
響子を連れて風呂に入る。
六花はまだ食べていた。
幸せそうな顔をしている。
響子の身体を洗い、浴槽に腰かけさせる。
俺は自分を手早く洗って、響子と浴槽に入った。
肩を組んで、お互いの顔を寄せる。
「今日は一杯食べたな」
「うん。美味しかった」
まったりしていると、六花が駈け込んで来た。
急いで洗って湯船に入って来る。
「お前、ちょっとウナギ臭いな。なあ、響子?」
「うん。臭いしヌルヌルだよ」
「石神先生はヌルヌルがお好きなんです」
俺は六花の頭にチョップを入れる。
「今日のウナギは本当に美味しかったです!」
「そうか。でもお前は知ってるけど、浜松の店にはまだまだ届かないだろう」
「いいえ! 今日のウナギは私への愛が込められていましたから」
「分かっちゃったか!」
「はい!」
「後で石神先生のウナギを、ガフッ!」
俺は六花のわき腹を突いた。
「子どもたちはまだ食べてるか?」
「はい。でももうそろそろ終わるかと」
「そうか」
俺たちは風呂を上がった。
リヴィングから外を見ると、子どもたちが片づけを終えるところだった。
ワイワイ騒ぎながら上がって来た。
「みなさん、ちょっとウナギ臭いですよ」
六花が言うと、双子に尻を蹴られた。
順番に風呂に入る。
俺はその間に、アイスココアと響子のホットチョコレートを作る。
亜紀ちゃんと柳が最初に上がって来た。
「タカさん、白焼きって美味しいんですね。初めて食べました」
「ああ、ウナギが好きな人間はよく食べるよな。酒のつまみとしてもいいからな」
「でも、タカさんは普段は食べませんよね」
「俺はうな重を堪能したい人間だからな」
「柳、オセロは勝てなかったって?」
団扇であおいでいる柳に声をかけた。
「すいません。全然ダメでした」
「響子は強いだろう?」
「はい」
みんなを待っている間、俺と響子でオセロの勝負をした。
早打ちで、俺が勝った。
「どうして勝てるんですか!」
柳が驚いている。
「戦略だよ。オセロは決まった戦略があるんだ。響子よりも俺の方がそれを知ってるということだな」
「くそー」
響子が悔しがっている。
カワイイ。
「俺くらいしか勝てないなぁ。栞もボコボコにされたな。自身ありげだったけどなぁ」
亜紀ちゃんが思い出して笑った。
「チェスでもまだ響子には負けないな」
「タカトラのチェスってすごいのよ! 見たことが無い手でいつのまにか負けちゃうの」
響子は長い入院生活の中で、チェスやリバーシを遣り込んでいた。
疲れないゲームが、響子の楽しみになっていた。
俺はゼロ和ゲームの話をしてやる。
「厳密に言うとチェスや将棋でも完全なゼロ和ゲームではないんだけどな。でも大体は勝敗がついて終わる。昔はIBMのコンピューターがチェスの世界チャンピオンに負けたりした。だけど今ではアルゴリズムが改良されて、人工知能に勝てなくなった。要は「戦略」がある、ということだ」
響子も興味深そうに聞いていた。
六花は、まああまり興味はない。
「ボードゲームなんかはお互いに情報がすべて分かっている。でも戦争は違うよな。お互いに騙し合いだ。だから戦争においては情報戦も非常に重要なものになっている」
「じゃあ、人工知能が発達すると、戦争も勝敗が決まってしまうのでしょうか」
柳が聞いてきた。
「まあ、人間が完全に従えば、だな」
「どういうことですか?」
「合理的な戦略で、例えば一個小隊が敵本隊の誘導のために全滅しろと命じられる。それに従えるか?」
「なるほど」
「従えば勝つ。でもなかなかそうはならないよ。それは人工知能とロボットの兵装ができてからだな」
「石神さんがおっしゃってた無人戦闘機などですか」
「ああ。それに地上部隊の機械化も進んでいるようだ。もしかしたら、近い将来実現するかもな」
皇紀と双子も上がって来た。
「じゃあ、話はここまでだ。屋上へ行くぞ」
「「「「「「はい!」」」」」」
俺たちは幻想空間へ上がった。




