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星の家族:シャルダンによるΩ点―あるいは親友の子を引き取ったら大事件の連続で、困惑する外科医の愉快な日々ー  作者: 青夜


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四度目の別荘 XXI

 別荘に戻り、みんなでお茶にした。

 俺はコーヒーを飲み、各自が好きな飲み物を作る。


 「柳、楽しかったか?」

 俺が聞くと、柳は笑顔で俺を見た。


 「はい! まあ、石神さんのやることって次元が違いますけど面白いです」

 「そうか、楽しんでもらえたなら何よりだ」

 「今でも川ってちょっと怖いんですけど、今日は楽しかったですよ」

 「そうなのか! 悪かったな、気が回らなかった」

 俺はハッとした。


 「そんな! 大丈夫ですって」

 「まあ、ハーの方が余程怖いからな」

 柳は笑った。

 ハーも笑って見ていた。





 子どもたちが勉強を始めた。

 俺が何か予定を入れても、毎日のノルマはきっちりやる。

 言い訳は許さない。

 俺のワガママに乗って来ないのも許さない。


 「柳、ちょっと響子を寝かせてくれないか。一緒に寝ていいからな」

 「分かりました」

 響子がニコニコして柳を見た。

 一緒に寝るのが楽しみらしい。


 俺は六花と「訓練」に出掛けた。

 双子がニヤニヤしている。


 「アチャコでございましゅるー」

 「「「「ギャハハハハハ!」」」」

 「「……」」

 柳と響子が不思議そうに子供たちを見ていた。


 六花はゴキゲンで俺の腕を絡めている。

 また「道具」を一杯持っている。

 別荘から離れると、ジャージの前を開けた。

 下着をつけていない。

 見てますか、という目で俺を見る。

 もちろん、しっかり見ている。

 下も脱ごうとするので、止めた。


 あの林に入った。


 「六花、そこへ座れ」

 俺は拡げたレジャーシートに六花を座らせた。

 

 「今日は真面目な話があるんだ」

 「はい?」

 「今日はお前が歩けなくなるくらいやるぞー!」

 「はい!」

 俺は本気を出した。

 出し過ぎた。


 「おい、生きてるか」

 「……」

 「死んだのか?」

 「……」

 六花がヘンな顔をしている。

 正気を失っている。

 軟体動物のように、ヘンな姿勢で横になっている。


 「もう、死んでもいいのです」

 「そうか、しばらく死のう」

 目を閉じると、地面に吸い込まれそうな感覚があった。

 少し休んで、気力を振り絞って、自分と六花をウェットティッシュで拭いた。

 そして六花にジャージを着せる。

 俺は散らばっている「訓練道具」をまたウェットティッシュで拭う。

 携帯のアルコールスプレーを振りまき、バッグへ戻した。

 動けないへにゃへにゃの六花を肩に担いで林を出た。

 積み石に手を合わせる。


 「どうか、今度は途中で止めて下さい」

 背中で、六花が僅かに首を振った。







 別荘に戻り、六花を浴室に入れる。

 ジャージを脱がせてシャワーを浴びせると、多少正気を取り戻した。

 俺もシャワーを浴びる。

 俺はキッチンで梅酒を飲んでから六花の部屋へ行き、別なジャージを取り出す。

 また脱衣所へ戻り、へばっている六花を担ぎ、ジャージを着せて、俺の部屋へ行った。

 響子と柳が寝ていた。

 六花を横たえ、俺も横になると、柳が目を覚ました。


 「少しだけ寝る。響子がモゾモゾしたら起こしてくれ」

 「は、はい」

 俺の濡れた髪を、柳が撫でている。


 「セットしてなくても、石神さんはステキですね」

 「お前もきれ……」

 「ちょっと! 言い切ってから寝てくださいよ!」

 俺は落ちていた。





 柳に起こされる。

 一時間ほど寝たか。


 「石神さん!」

 小声で呼び、俺の身体を揺すっている。

 女性の小さな手の感触が気持ちいい。


 「ほら、響子ちゃんがモゾモゾしてますよ! カワイー!」

 俺も起きて見た。

 いつもながらに可愛らしい。


 響子が起きた。

 目をこすっている。

 目の前に六花がいて驚いている。


 「六花は死んだから、そっとしといてやれ」

 「えぇー!」

 小さくいびきをかいているので、響子も安心して笑った。

 響子を抱き上げて、シャワーを一緒に浴びた。

 身体が力を取り戻した。

 梅酒のクエン酸が体内を巡っている。

 

 リヴィングでは、まだ子どもたちが勉強している。

 柳は亜紀ちゃんと話していた。

 何か教えているようだ。


 


 「おい、ところでルーとハーは自由課題は何をしたんだ?」

 7月中に夏休みの課題は全て終えることになっている。

 全員の課題達成は聞いているが、自由課題の内容は聞いていなかったことを思い出した。


 「「ひみつー」」

 二人が笑って言った。

 まあ、こいつらなら何も不安はないのだが。

 一方で大いに不安なこともあるのだが。

 まあいい。


 俺は夕食の準備を始めた。

 今日は俺が和食を作ることになっている。

 柳を喜ばせるためだ。




 刺身の盛り合わせ。

 小鉢を三種類。

 クルマエビとキスとマイタケ等の天ぷら各種。

 銀杏とキノコの炊き込みご飯。

 タケノコの煮物。

 鱧の椀。

 天ぷらと炊き込みご飯は多い。

 結構手間がかかる。

 

 響子は柳と一緒にセグウェイで部屋の中を回って遊んでいる。

 亜紀ちゃんが手伝いに来てくれた。


 天ぷらを最後に揚げ、すべて準備ができた。


 「柳を歓迎して、今日は和食にした。大いに食べてくれ。いただきます!」

「「「「「「いただきます!」」」」」」

 ワイワイと食べ始めた。

 みんな嬉しそうだ。

 柳も美味しいと絶賛してくれる。

 こいつらのこの笑顔のためなら、苦労は厭わない。

 そう思った。

 

 何か忘れている気がした。

 なんだろう?





 「六花は?」

 響子が言った。





 すっかり忘れていた。

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