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星の家族:シャルダンによるΩ点―あるいは親友の子を引き取ったら大事件の連続で、困惑する外科医の愉快な日々ー  作者: 青夜


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四度目の別荘 XX

 子どもたちが支度をする。


 「よし! 出掛けるぞ!」

 「何をするんですか?」

 柳が聞いて来る。

 

 「おい、亜紀ちゃん、話してないのか?」

 「すいません、うっかり」

 俺が柳に説明した。


 「あのなぁ。俺たちは幾ら何でも喰いすぎだ。だからな、たまには自分たちで食糧を確保しようってな」

 「はい?」

 「だからこれから川に釣りに行くんだよ。御堂とこでやってくれたじゃないか」

 「ああ、あれですか」


 「お前も頑張れよ!」

 「あの、私そんなに食べてませんが」

 「お前、ほんとにノリが悪いよなぁ。そんなんじゃ大学生活は真っ暗だぞ」

 「そうなんですか?」

 「大学生って、酒を飲むときはみんな全裸なんだぞ?」

 「嫌ですよ!」




 ハマーに道具を積んでいく。

 釣竿は全員分ある。

 エサは現地調達だ。


 河原で散って、それぞれのポイントで釣りを始める。

 エサは石をめくり、小さな虫やミミズのようなものを針につけた。

 響子は六花と一緒にいる。

 嬉しそうだ。

 柳は俺の隣にいる。

 エサは俺がつけてやった。


 「そういえばよ、こないだ子どもたちを連れて沼津の寿司屋に行ったんだ」

 「ああ、あの美味しかった!」

 「その前にあの灯台でちゃんと芝居してきたぞ」

 「あれーーー!」


 「孤児だった六花に俺が告白して、みなしごたちが祝福する、というなぁ」

 「何やってんですか!」

 「また、大ウケだったよ」

 俺が大笑いし、柳はちょっと笑った。


 三十分が過ぎ、皇紀が火を起こし始めた。

 俺と亜紀ちゃんが二匹ずつ釣り、あとはボウズのままだ。

 更に三十分粘る。

 誰も釣れない。


 腹が減って来た。


 響子が叫んだ。

 何か釣り上げたらしい。

 六花も喜んでいる。


 潮時か。





 「全員傾聴! オペレーション・ハーを発動する!」

 「「「「ハイ!」」」」

 ハー以外の子どもたちがタモをそれぞれ持ち、俺と柳にも持って来る。


 「何が始まるんですか?」

 柳が俺に言った。


 「いいから、タモを持ってみんなと一緒に来い。合図したら川に入って全部掬え」

 「はい?」

 よく分からないまま、柳がついてくる。

 ハーが川の中ほどに位置した。

 六花が響子を押さえている。


 「柳、まだ川には入るなよ。死ぬぞ」

 「何でぇー!」

 俺が俺を見ているハーに手を挙げて合図した。



 「「轟雷」!」



 ハーが叫んで腕を伸ばした。

 川が50メートルに渡って白く光る。

 空中にも激しい電光が迸った。

 ハーの腕の直線上にしぶきが上がり、一瞬川底が見えた。

 柳が悲鳴を上げた。


 「よし! 全員かかれぇ!」

 俺の号令でみんなが川に入って行く。

 

 「柳! もたもたすんな! 目につく限りタモで掬え!」

 「何なのぉー!」

 上流から次々に気絶した魚が流れてくる。

 みんな必死に掬い上げた。

 40匹も獲れた。

 響子が手を叩いて喜んでいた。


 亜紀ちゃんと皇紀とルーで魚のワタをとっていく。

 皇紀が次々に受け取り、用意していた串に刺し、焚火の傍に置いていく。

 俺は鍋に冷凍しておいたコーンポタージュを入れて温めた。

 皇紀が時々かき回す。

 功労者のビショビショになったハーは、大きな岩に座って笑って見ていた。

 同じ岩に響子と六花も座って眺めている。

 俺は柳にアイスティーのカップを渡した。


 「柳、大漁だな!」

 「なんなんですか、これ」

 「やっぱ、俺らって大食いの運命から逃れられねぇな」

 俺が笑うと、柳も笑った。


 「無茶苦茶ですよ」

 「そうか?」


 「おい! 響子の釣った魚はちゃんと分けろよ」

 「「「はい!」」」


 



 俺たちは焼けた魚を次々に食べた。

 塩を振り、醤油を塗り、めいめいに好きに食べる。

 響子は自分が釣ったヤマメを美味しそうにかじっていた。

 六花も幸せそうな顔をしている。

 柳も串にかじりついている。

 それでもなお、柳は上品だった。


 「石神さん、美味しいです」

 「そうだよな。やっぱり自分たちで狩ったものは美味いな」

 「ちょっとだけ邪道ですけどね」

 「それを言うな」

 魚はすべて、俺たちの胃に入った。

 

 亜紀ちゃんが川で冷やしていたスイカを切った。

 双子の花壇で獲れたものだ。

 今年も絶品だった。

 響子が種を飛ばした。

 俺は柳の顔に飛ばす。

 柳が笑ってやり返して来る。

 みんなで種の吹き合いになった。


 亜紀ちゃんの吹いた種が岩を破壊した。

 すぐに全員にやめさせた。



 ハマーに道具を仕舞って帰ることにした。

 焚火は俺が丁寧に消している。


 「来年はここにもスイカが出来るかもなぁ」

 「また来ましょうね」

 亜紀ちゃんがニコニコして言った。

 積み終わって、全員がハマーに乗る。


 「アチャコでございましゅるー」」

 「「「「ギャハハハハハ!」」」」


 「なんか気持ち悪いですね」

 「そうか?」




 響子が笑っていた。

 いい笑顔だった。

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