四度目の別荘 XⅧ
「私、覚えてます!」
話が終わり、亜紀ちゃんが言った。
「そうなのか? 山中には絶対に子どもたちには言うなって言ったんだけど。皇紀もよく覚えてないようだったし、ルーもハーも分かってなかったからな」
「いえ、すいません。すき焼きを食べたお話で」
「あ?」
「皇紀が入院してたのは知ってましたが、事故に遭ったとだけで。本当のことは今タカさんから聞いて驚いてます」
「すき焼きなの?」
「はい」
呆れたが、大笑いした。
「皇紀はどうだよ?」
「はい、なんとなく今思い出したというだけで。父と母からは事故で背骨が危なかったとだけ。タカさんに助けてもらったということは聞いてました」
「俺のことも言うなって言ったのになぁ!」
「僕だけが聞いたと思います」
「知らなかった、ゴメンね、皇紀ちゃん」
「ゴメンね」
「まあ、皇紀が妹思いだっていうのは今までずっと一貫してるけどな。こいつは身を挺して家族を守ろうとする男だってことだな。あとルーとハーは悪魔だってな」
みんなで笑った。
「お前らほんとによー。飯食ってると必ずウンコして、みんながそれを見せられてたんだからなぁ。ウンコ悪魔!」
「「アハハハ」」」
みんなにミルクティーを追加で注いだ。
一息つく。
「それにな。ルーとハーはしょっちゅう熱出したり病気したりでなぁ。山中と奥さんは大変だったんだよ。まだ山中も成果がなくて給料も上がらなかったしな」
「二人が二歳、皇紀が六歳、亜紀ちゃんが九歳か。そんなもんだろう」
「でも、私はすき焼きが美味しくて、いつもよりも楽しい日だったと覚えてますよ。タカさんがいたことも」
「そうか」
「今でこそ亜紀ちゃんには嫌われちゃって、オッパイもろくに触らせてもらえないけどな。小さい頃は俺が行くとべったりだったのになぁ」
「今でも大好きですよ! それにしょっちゅうオッパイも触ってるじゃないですかぁ!」
みんなで笑った。
「前にちょっと話したけどな。山中が成果を出して、特別ボーナスをもらったんだよな。自分たちのために使えばいいのに、わざわざ俺を呼んですき焼きをご馳走してくれたのも、もしかしたら皇紀の退院祝いのあれがあったからかもな」
「それも覚えてます!」
「亜紀ちゃんにはすき焼きの思い出ばかりだなぁ」
「アハハハ」
「他にもちゃんとありますよ!」
「どんな思いでだよ?」
「ほら、タカさんがくれたネコ!」
他の子どもたちが、なになに、と聞いてきた。
「小さい頃にね、タカさんが私のためにネコのぬいぐるみをくれたの」
「「「へぇー」」」
「それをね、毎日離さないで、ずっと。寝る時も一緒だったのね」
「「「ふーん」」」
「それだけ」
「「「なんだよ!」」」
みんなで笑った。
「ひどい話だなぁ」
「ひどくないですよ!」
「あー、あの亜紀ちゃんの部屋にある汚いぬいぐるみ?」
ルーが言った。
「汚くないからね!」
散々だった。
「柳にもやったよな」
「はい、大事にしてますよ」
「育ちがいいからなぁ」
亜紀ちゃんが抗議した。
「しょうがないじゃないですか、ちっちゃかったんですから」
「まあ、汚くなっても、山中たちがずっととっといてくれたんだな」
「ああ、そうですよね。あの傘なんかも」
「ずっとそういう男だったよ。全部思い出が詰まってるんだよなぁ」
響子がまた眠そうなので、一度解散にした。
「今日は起きてますから!」
六花がそう言って響子を抱いていった。
亜紀ちゃんと柳が残った。
「仲良しお風呂メンバーか」
「「アハハハ」」
「私、響子ちゃんたちと石神さんがお風呂に行ったんで、一緒にと思ったんです」
「ああ」
「でも、亜紀ちゃんに止められました」
「響子が嫌がるからな」
「はい」
「亜紀ちゃんは響子が嫌がる理由は分かるか?」
「恥ずかしいんだと思ってました」
「そうじゃないんだよ。あの傷が俺との絆だからなんだ」
「どういうことですか?」
「響子はどこにも出られない。だから俺が来てくれることを待つしかないのな。でも俺は他に女がいる。待つだけの響子がどういう気持ちかってことだな」
「「……」」
「だから、あの醜い傷なんだよ。あれが俺たちの最大の絆の証なんだ、響子にとってはな」
「そうだったんですね」
「俺が必ず自分の所へ来てくれる証。響子にとってはものすごく大事なものなんだ。だから最初は六花にも絶対に見せたがらなかった」
「でも今は、どうしてなんですか?」
「六花は、まあなんというか、動物じゃない」
「「えぇーー!」」
俺は笑った。
「見られても平気って言うかな。まあ冗談半分だけど、あいつの無邪気で一途な思いというのは、そういうものなんだよ。だから響子も六花を信頼し、すべてを見せて任せられるのな」
「はぁー」
「他の人間はダメだ。信頼してないと言うと厳しいけど、響子の核を見せるには届いてないってことだよ。響子の特殊な事情もあることだから、分かってやってくれ」
「「はい」」
「折角柳が来てくれて、俺も歓待したいんだけどな。響子を中心に回すことも多いから申し訳ない」
「いえ、そんなことは。響子ちゃんを中心にして下さい!」
「まあ、お前らはホイホイ裸を見せる人間だからなぁ」
「「そんなことありません!」」
「亜紀ちゃん、斎藤誠二が見たがってるぞ?」
「もう、やめてください!」
「柳さん、タカさんこそ、どこでもオチンチンを出しちゃうんですよ!」
「え! どういうこと?」
亜紀ちゃんがユキの店での話をする。
「アハハハハ!」
柳が大笑いした。
「そうだったな。俺たちは似た者同士なんだな」
「「そんなことありません!」」
俺たちは楽しく話し合った。
部屋へ行くと、六花はスヤスヤと寝ていた。




