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星の家族:シャルダンによるΩ点―あるいは親友の子を引き取ったら大事件の連続で、困惑する外科医の愉快な日々ー  作者: 青夜


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四度目の別荘 XⅦ:皇紀、瑠璃、玻璃

 「今日は皇紀とルーとハーの話をしよう」


 双子が俺を見てニッコリした。

 皇紀は戸惑っている。

 本当にカワイイ奴らだ。


 「最初に亜紀ちゃんが生まれ、三年後に皇紀が生まれ、その三年後にルーとハーが生まれた。まあ、最初の亜紀ちゃんの時はもちろんだけど、皇紀が生まれる時も山中が大騒ぎでな。それで今度は双子が生まれるってことで、一層騒いで奥さんに窘められていた」

 みんなが笑った。


 「どんな騒ぎ方だったんですか?」

 亜紀ちゃんが聞く。


 「毎回俺に泣きついて来るんだよ。奥さんにも、石神に頼んだから大丈夫だぞって何度も言うし。でも俺って産婦人科じゃねぇしなぁ。頼まれたって困るんだよ」




 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■




 いつも研究棟に篭っている山中が、珍しく俺の部署に来た。


 「石神、今度は美亜さんに双子ができたんだよ」

 「ああ、おめでとう! 良かったな!」

 「そうなんだけど、双子だぞ? どうすればいいんだよ」

 「お前何言ってんの?」

 「だって大変じゃないか! 今までだって美亜さんは大変だったのに、今度はその二倍だぞ」

 俺が笑うと怖い顔で睨んできた。


 「大丈夫だよ。奥さんは丈夫だし、病院だってちゃんとしたとこだろ?」

 奥さんはいつも近くの産婦人科医院に通っていた。

 定評もある病院だ。


 「そんなこと言ったって。なあ、石神、お前助けてくれよ」

 「俺は産婦人科は経験してないし。もちろん何でもするけどな」

 「頼むよ。お前が頼りなんだから」

 「分かったよ」


 そんな遣り取りが、出産まで繰り返された。


 奥さんも、これまで以上に注意していた。

 身体が相当重くなったからだ。

 山中も安定期までは風呂について転倒を注意して湯船の出入りで支え、身体も洗った。

 食べ物も気を付けていた。

 4月の出産予定なので、真冬を過ごすことになる。

 風邪をひかないように、奥さんが怒り出すほどに身体を冷やさないように気をかけた。

 奥さんに呼ばれたことがある。


 「石神さん、助けて下さい」

 年末の頃だったと思う。

 そういう電話を受け、俺は山中家に行った。




 奥さんはコタツに入り、山中によってドテラと毛布を掛けられていた。

 暖房も高めに設定されているようで、部屋の中が真夏のように暑かった。


 「おい、石神。お前、風邪とか大丈夫だろうな!」

 部屋へ上がるなり、山中に言われた。

 大げさにくしゃみをしてやると、大声で怒った。


 「冗談だよ」

 俺が笑うと、もう帰れと言う。

 コタツへ座ると、お茶を煎れようとした奥さんを座らせ、山中が煎れに行った。


 「石神さん、大げさなんですよ。私、病人じゃないですから」

 「分かりました」

 俺は苦笑して言った。


 俺はお茶を持って来た山中に、妊婦は動かさないと却って身体によくないと諭した。

 安全をはかるのはいい。

 しかし、過保護にすると胎盤にもよくないし、血流が滞ることもある、と。

 日常の家事はさせろと言った。


 「でもね、奥さん。もしも体調が思わしくなかったら、絶対にやめてくださいね。すぐに山中に連絡してください」

 「分かりました」

 「何かやらなきゃって思ってはダメです。子どもたちのためにも、今は無理は禁物ですからね」

 「はい」

 「山中、奥さんも分かってるんだから、お前も大概にしろよな」

 「ああ、分かったよ。美亜さん、申し訳ない」

 俺と奥さんは笑った。


 「お前、奥さんのこと好き過ぎだろう」

 「え、いや」

 「あ? 嫌いなのか?」

 「そんなことあるわけないだろう!」

 また俺たちが笑った。

 亜紀ちゃんが俺の背中に抱き着き、皇紀が膝に乗って来る。



 「お前、どうしてうちの子たちに懐かれてんだ?」

 「そりゃ、俺が山中家が大好きだからだろうよ」

 「え、それはお前、ばかやろう」

 「なんだよ!」

 「石神さん、カッコイイもん」

 亜紀ちゃんが言った。


 「亜紀ちゃんも超絶カワイイぞ!」

 「エヘヘヘ」

 奥さんが笑って俺たちを見ていた。

 山中は複雑な顔をしていた。




 臨月が近づき、母体と子どもの安全のため、帝王切開をすることが決まった。

 また山中が慌てた。


 「石神!」

 「うるせぇ! 切腹じゃねぇんだから大丈夫だ!」

 「そんなこと言ったって」

 「あー! 鬱陶しいぞ、お前」

 しまいには、俺に執刀しろと言って来た。


 「バカ言うな! 俺は産婦人科医じゃねぇって言っただろう。大体、俺が受けたら、お前の奥さんの全部を見ちゃうんだぞ?」

 その言葉で、山中は正気に戻った。


 「絶対に許さん!」

 「お前なぁ……」

 指を突っ込んでコチョコチョしちゃうぞーと言うと、本気で殴りかかって来た。




 出産予定日に、俺も一緒にいてくれと土下座され頼まれた。

 仕方なく一緒に病院へ行ったが、もちろん何の危険もなく無事出産した。

 奥さんは消耗していたが、山中の顔を見て笑った。

 綺麗な顔だった。

 横の二つの小さなベッドに、子どもたちが眠っている。

 

 俺は二人におめでとうと言い、二つの小さな山中の家族を覗いた。

 小さい。

 2000gちょっとだと聞いた。


 「宝石みたいだな!」


 俺が言うと、二人とも喜んだ。





 二人とも未熟児だったが、その後の成長が凄かった。

 母乳では足りないほどに食欲があり、奥さんも大変だった。

 体重はみるみる平均を超えて行った。

 これまでとは違って、よく遊びに来いと言われた。

 行くと、双子の世話をさせられる。

 また、亜紀ちゃんと皇紀の世話も任された。

 態のいい家政婦だった。


 山中は昼飯を食わなくなった。

 俺が食堂に誘っても、あいまいに仕事がと言い断られた。

 食費を削って家計を楽にしようと思ったのだろう。

 俺も山中家に行っても、負担になると思い、俺は食事の間にお邪魔して帰った。


 「夕飯、食べてってくださいよ」

 たびたび奥さんから言われた。


 「いや、ゆっくり喰いたいんで」

 その気持ちも半分あった。

 何故かルーとハーが、いつも食事中にウンチをして泣いたからだ。




 三歳にもなると、活動範囲が拡がり、一層手が掛かる。

 特に双子は活発で、たびたび家の中を破壊し、汚した。


 ある日、山中が俺の部屋へ駈け込んで来た。


 「石神! 大変だ! 子どもたちが怪我をした!」

 「どういう状態だ!」

 興奮している山中を落ち着かせ、状況を聞いた。

 双子が階段から落ちるのを皇紀が庇い、背中を打って意識が無いのだと。

 俺は救急センターヘ連絡し、うちの病院へ搬送するよう指示した。

 脊髄をやっているかもしれない。


 搬送中の救急隊員にも連絡し、俺は受け入れの準備を整えた。

 身体を固定して、絶対に動かすなと指示した。

 オロオロしている山中に落ち着けと言った。


 「俺に任せろ!」

 「石神! 頼む!」


 双子に怪我は無かった。

 皇紀がすべて受け入れた。

 皇紀が搬送され、細心の注意で運び、すぐにCT検査をする。

 予想通り、中ほどの脊髄の骨が割れ、神経を圧迫していた。


 奥さんも病院へ駆けつけて来た。

 山中も交えて状況を説明し、緊急手術をすると言った。


 「いつ骨片が脊髄の神経を傷つけるか分かりません。すぐに取り除きます」

 「石神……」


 「大丈夫だよ。任せろ!」




 3時間のオペで、皇紀は無事危機を脱した。

 俺は二人を帰し、子どもたちを安心させるように言った。

 俺が一晩、容態を看た。

 皇紀の退院後、俺は山中家に招かれた。


 「本当はいいところでご馳走したいんだけど」

 「そんな必要はないよ。別に仕事でやっただけだしな」

 「そんなわけにはいかん! お前の最初の判断が無ければ、皇紀は半身不随だったかもしれない」

 「もしそうでも、お前たちは皇紀を大事に育てるんだろ?」

 「当たり前だ」


 「それになぁ。お前の家ってあんまり食い物がなぁ」

 「それは何とかするから。頼むから来てくれよ」

 「じゃあ、俺が好きなもの買っていくから。いい肉じゃないと俺はダメだからなぁ」

 「石神、お前」


 山中も俺がいつも食事をしていかない理由は分かっていたと思う。

 別に特別なことではない。

 友人に負担をかけたくないなんて、当たり前のことだ。


 俺は肉をたくさん抱えて、山中家ですき焼きをご馳走になった。

 

 「こんな美味いすき焼きは食べたことありませんよ!」

 俺が言うと奥さんが笑って、一杯食べて下さいと言った。


 「なあ、山中! 病院の近所の「ざくろ」より美味いよな!」

 「ああ、そうだよな、石神」

 五杯もご飯のお代わりをしてしまった。

 本当に美味かった。

 子どもたちも、夢中で食べていた。


 食事の後、少し子どもたちと遊ばせてもらった。

 瑠璃と玻璃は本当に可愛かった。


 「お前があの日、「宝石みたいだ」って言ったからな。美亜さんと一緒に考えて瑠璃と玻璃という名前にした」

 そう教えてくれた。

 俺が四人を倒して寝かせて「肉ぶとんー」とやってると、山中が本気で怒った。

 奥さんは大笑いしていた。




 駅まで山中が送ってくれた。


 「石神、本当にありがとう」

 「何言ってんだ。ご馳走になったのは俺じゃないか。こっちこそ喰いすぎてしまった。美味かったからなぁ!」

 俺は笑って言った。


 「石神、俺は」

 「何も言うなよ。俺が死に掛けたとき、お前は自分が死にそうになるまでやってくれたじゃないか」

 「あれはお前」

 「俺たちはそういう仲だよ。そうだろ?」


 地下鉄の階段口で別れた。


 「ああ、山中! 瑠璃と玻璃が俺と結婚したいってさー! どっちか二号でいいかー?」

 階段下で叫んだ。


 「お前! 早く死ね!」

 俺は大笑いして改札をくぐった。

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