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星の家族:シャルダンによるΩ点―あるいは親友の子を引き取ったら大事件の連続で、困惑する外科医の愉快な日々ー  作者: 青夜


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あの日あの時:佐藤正志

 「俺が小学生の頃からファンクラブがあったって話したよな」

 「「「「はい!」」」」

  いつもより元気よく返事する。

 俺は苦笑した。


 「男子からは嫌われることも多かったけど、仲のいい奴もいた。慕ってくれる奴もな。その中に佐藤正志という同級生がいた。俺が身体がでかくて喧嘩が強いってことで好かれていたんだ」


 「佐藤は身体が小さくてな。カワイイ顔をしてて性格も可愛くてみんなからも好かれていたよ。家も結構な金持ちで、いい服を着ていたし、自転車なんかも最新のカッコイイやつを買ってもらってた」

 どんな話なのか分からず、子どもたちは身構えていた。

 俺は飲み物を飲んで寛げと言った。


 「佐藤には7歳上のお姉さんがいてな。俺のファンクラブに入ってた。綺麗な人でなぁ。日大の学生で、俺が中学に上がってすぐに、俺たちは付き合うってわけじゃないけど、まあ、関係を持っていた」

 濁したが、みんな分かる。

 双子が「その頃からイヤラシー大王だったんだ」と小声で言った。


 「ああ、その頃からじゃねぇぞ。最初は俺が小学6年生だったからな」

 「「「「「エェッーーーーー!」」」」」

 栞も一緒に驚く。


 「まあ、それはどうでもいいだろう! とにかく、俺は付き合ったことはねぇけど、経験は一杯あった、ということだ」

 「だからあんなに上手いんだぁー」

 栞が口にし、慌てて赤くなる。

 子どもたちがみんなでニヤニヤと見た。


 「佐藤は俺のことを慕ってくれてたんだけど、お姉さんのことが大好きだったんだよ。お姉さんも佐藤のことを溺愛しててな。佐藤のカワイイ性格は、間違いなくお姉さんの愛情だったよな」




 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■




 中学一年の時。

 俺は三先輩たちに呼ばれたトイレで逆襲して、一躍中学校の有名人になった。


 「石神は強いよなぁ!」

 佐藤は興奮し、一層俺の傍にいるようになった。

 しかし、俺とお姉さんの愛さんとの関係を知り、佐藤が段々と変わって行った。

 俺は中学に上がった時に、既に175センチの身長だった。

 佐藤は155センチほどで痩せていた。

 幼い頃にろに大病をした影響らしい。

 お姉さんは160センチを超えていた。


 その佐藤が急に身体を鍛え始めた。

 腕立て伏せをし、腹筋を鍛えた。

 痩せたままだったが、引き締まった身体に変わって行った。


 「石神、俺と喧嘩してくれよ」

 ある日佐藤が誘って来た。

 俺は嫌がったが、佐藤がかかってくる。

 軽く腹にパンチを入れ、顔にフックを入れた。

 佐藤は動かなくなった。

 声もなく、涙を零していた。





 高校に上がり、俺は先輩の井上さんに誘われて、暴走族「ルート20」に入る。

 すぐに実力を示して、異例の一年生で、特攻隊のメンバーに任命された。

 佐藤も後から入って来た。

 親にいいバイクを買ってもらった。

 フルカウルのスズキのRG250だ。

 俺は後にヤマハのRZ250に乗る前は、RDに乗っていた。

 集会以外でも、よくつるんで走ったりもした。

 バイクの性能と佐藤の努力で、俺を追い越すことも多かった。

 そんな時、佐藤は本当に嬉しそうだった。


 バイクの勝負は佐藤が勝つことも多かった。

 しかし佐藤はたびたび俺に喧嘩を売って来た。


 「石神、タイマンだ!」

 喧嘩では、佐藤に勝ちはなかった。

 何度も俺に突っかかって来るので、上の先輩たちに締められることも多くなっていく。


 「佐藤! いい加減にしろ。トラが迷惑だ」

 徐々に俺と佐藤の溝が深くなっていった。

 俺が佐藤とのことを気にして、愛さんとの関係は持たなくなった。

 そのことが、一層佐藤を狂わせていった。

 佐藤は先輩たちに逆らってはヤキを入れられた。

 俺とは口をきかなくなっていった。




 うちのチームが、大きなチームと敵対するようになった。

 ヘッドとなった井上さんが、全員に単独行動を控えるように命じた。

 特に縄張りの被る地域では5人以上で走れ、と。

 佐藤がその命令を破った。

 そして敵チームの集団に追われた。

 バイクだけでなく、四輪の改造117クーペもいた。

 

 必死に逃げる佐藤を、チームのメンバーが見かけた。

 すぐに井上さんに連絡がいき、特攻隊が救助に向かう。

 俺はバイト中で、連絡が来なかった。


 佐藤はバイクの性能ギリギリで逃げ、湖にかかる大橋を渡っていた。

 特攻隊は反対側に陣取り、佐藤を待った。


 「佐藤! こっちだぁ!」

 みんなが佐藤を呼んだ。

 気づいた佐藤が手を振る。

 しかし橋の直線で四輪が追いつき、佐藤のRGに追突した。

 佐藤は物凄い勢いで吹っ飛び、反対車線に投げ出される。

 そこへ対向車が来て、急ハンドルを切り、佐藤は橋の欄干に車体で圧し潰された。

 佐藤の胴体は二つに千切れ、上半身が湖に落ちた。


 敵チームは逃げ、特攻隊は佐藤に駆け寄った。




 警察が集まって現場検証と佐藤の遺体の捜索が始まった。

 特攻隊は警察署で事情聴取され、何度も状況を説明させられた。

 俺はその夜に井上さんに呼ばれ、特攻隊のメンバーから佐藤の死を知らされた。


 「佐藤が俺たちに気づいて手を振ったんだ。それであいつ、「石神、助けてくれー」って叫んだ」

 「俺たちはすぐにバイクにまたがったけど、間に合わなかった。トラ、すまん!」

 俺は何も言えなかった。


 「トラ、許してやってくれ。こいつらも必死だったんだ」

 「もちろんです。ありがとうございました」


 数日後、佐藤の葬儀にみんな参列した。

 ただ、不良連中が押しかければ迷惑だろうと、井上さんと俺、他の数人だけ中に入り、大勢の仲間は寺の外で控えた。


 愛さんが喪服で泣いていた。

 俺に気づき、近づいてきた。


 「何しに来たの! 帰ってちょうだい!」

 「申し訳ありませんでした」

 「あなたが正志を誘ったから! あんなにいい子があなたのせいでこんな……」

 愛さんが泣き崩れた。

 憔悴しきった顔だった。


 「今更泣き言を言うなよ。あんたさんざん俺と……」

 「トラ! やめろ!」

 「なんなの、あなた! 正志が死んで何とも思わないの?」

 「思わないね。ちんちくりんのくせに俺にかまわれたくて。死んでスッキリしたぜ」

 「トラ! いい加減にしろ!」

 「絶対に許さない! あなたのことは一生許さないから!」


 「別にいいぜ。俺は幾らでも他に女がいるしなぁ」

 愛さんが俺を殴った。

 式場が騒然となる。

 井上さんが頭を下げ、全員で外に出た。




 「トラ、お前なんだってあんな!」

 井上さんが俺を叱ろうとして振り返り、止まった。


 「お前、なんで泣いてんだ?」

 

 「井上さん、愛さんはいつも言ってたんですよ。佐藤が自分の生き甲斐なんだって」

 「なんだよ、どういう話だよ」

 「佐藤はガキの頃に病気で死に掛けて。それでも助かって元気になって。愛さんが一生守るんだって言ってました」

 「だから、お前……」


 「あんなにゲッソリしちゃって。あれじゃダメですよ、あれじゃぁ」

 「お前」


 「言われた通りですよ。佐藤は俺に付いてきてくれて族に入った。だから死んだのは俺のせいです」

 「そんなことはない!」

 「愛さんには恨まれて当然です。だから恨まれまれなきゃいかんですよ」

 「ばかやろう」


 「井上さん、仇を討ちましょう」

 「おう!」


 「佐藤は俺を呼んだ。随分と遅くなっちまいましたが、俺はやりますよ」

 「もちろんだ!」





 外のメンバーに、井上さんが言った。


 「今日からトラが特攻隊長だ! 文句はあるかぁ!」

 『オス!』

 「佐藤の仇を討つぞ!」

 『ウォォォォォーーーー!!!!』

 全員がエンジンを吹かす。

 カミナリが鳴り響いた。





 爆音の中、俺はまた涙を流した。

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