ルー、ドライブ。
俺とハーは家に戻り、ハーは待ち構えていたルーと一生懸命に話していた。
リヴィングでそれを眺めていた俺に、亜紀ちゃんがコーヒーを淹れてくれた。
「お疲れ様です。どうでした?」
「ああ、楽しかったよ。もう一人前で会話も弾むしな」
俺はハーの食欲にアメリカ人たちが驚いた話をした。
亜紀ちゃんは笑って、じゃあ今度自分も、と言った。
肉食獣の顔だった。
俺は少し部屋で休んだ。
ルーが夕食前に起こしに来た。
「今日は生姜焼きだよー!」
俺はルーの頭を撫で、一杯食べろと言った。
夕食後、出掛ける俺たちをみんなが見送りに来た。
「行ってきまーす!」
ルーが窓から手を振った。
「やっと乗れたー!」
ルーがハーと同様に嬉しそうに俺と景色を交互に見る。
「言えば良かったじゃないか、お前ららしくもない」
「うん、そうなんだけど。でもなんか言い出しにくくて」
「どうしてだよ」
「だってぇ。私たちのせいでタカさんはフェラーリを手放しちゃったでしょ?」
「その話はやめて」
無視してルーが言う。
「だからね、新しい車に乗せてって言いにくかったの」
「そうか」
一見双子はワガママで自分の要求を通そうとするように見える。
まあ、そういうことも多いが、こいつらはちゃんと人の心を大事に考えてもいる。
俺はルーの頭を撫でた。
新陳代謝が多いのと、いいシャンプーを使っているせいで、髪はサラサラだ。
「俺はルーとハーと一緒に出掛けるのが大好きなんだけどな」
「そうなのー?」
「ああ。散歩だって一番楽しいからよく誘ってるだろ?」
「うん」
「俺の車が二人乗りだから、三人でってわけにはいかなかったからな。悪かったな」
「ううん」
「今度からハマーで出かけるか」
「うん!」
「お前らとキャンプなんかも楽しそうだしな」
「やろうよ!」
俺は笑って、やろうと言った。
本当に楽しそうだ。
後に、絶対に行かないと誓うことになるが。
羽田空港にはすぐに着いた。
ルーはシザードアを自分で開けて、嬉しそうに笑った。
俺たちは手を繋いで歩く。
時々振り回してやると、キャッキャと喜んだ。
他の人が不安そうに見ていた。
2階の店ででかいホットドッグを5つとホットサンドを二つテイクアウトした。
コーラも大きなサイズで二つもらう。
展望台で、ルーは景色の美しさに黙った。
俺の手を握ったまま、ずっと見ている。
「どうだよ」
「うん、キレイ」
連れてきて良かったと思った。
「ハーにも見せたいな」
「ああ、今度は一緒に来ような」
俺はベンチに誘い、二人でゆっくりと暮れなずむ景色を見た。
「なあ、俺の独り言を聞いてくれるか?」
「うん」
「お前たちを引き取って、俺なりに一生懸命にお前たちを育てようと思ってたんだ」
「……」
「でもな、俺ってこんなじゃん。お前たちをとんでもないことに巻き込んでしまった。そのために、普通の人間じゃないよう……」
「それは違うって、タカさん!」
「お前」
ルーが泣きそうな顔で俺を見ていた。
「あの日、お父さんとお母さんが死んじゃって。私たちはただ悲しくて泣いてたの。それで亜紀ちゃんと皇紀ちゃんは必死で頑張ってくれてたけど、みんなバラバラになっちゃうんだって」
ルーが泣き出した。
「でも、タカさんが助けてくれたじゃん! それから美味しいもの毎日食べさせてくれて、私たちみんなに優しくしてくれて。こんなの、どうやってお礼をしたらいいの!」
俺はルーを抱き締めた。
「だからハーと二人でいつも話してるの。タカさんのために何でもしようって! 今日はタカさんが楽しそうだったとか、ちょっと落ち込んじゃってるとか。毎日毎日話してるの!」
「そうか」
「タカさんのためだったら、何だってするよ! 強くなるのだって、タカさんのためだもん! そんなの嬉しいに決まってるじゃない」
ルーは大泣きしている。
「悪かったな。俺もお前たちと一緒だ。お前たちのためならなんだってする。お前たちもそうなら、俺たちで思い切りやってやろうじゃないか」
「うん、うん!」
俺はルーを膝に抱き上げた。
強い力で抱き着かれる。
ルーが俺の唇を塞いだ。
「タカさん、大好き!」
「ハーの分もくれ」
ルーがもう一度キスをしてきた。
ルーを落ち着かせるために、ホットドッグを食べさせた。
泣きながら食べていたが、やがて笑顔になる。
「タカさん、これも美味しい」
≪我々の運命は、我らが手中にあり。( Our fate lies in our own hands. )》
「アーノルド・トインビーは歴史の繰り返しを定式化した人間だ。しかし、この文明は人類初めての物質文明だ。果たしてどうなることやら」
ルーは頷きながら、楽しそうに食べていた。
「おい、俺にも一つくれ」
「ん?」
ルーがソーセージの先っちょを口から出しながら振り向いた。
ねぇ。
「あぁー! お前、俺の分も喰っちまったのかぁ!」
ルーがハッとする。
夢中で喰ってたらしい。
俺が怒ると逆ギレしてきた。
「なによ! 私のためになんでもするって言ったじゃん!」
「お前も俺のために一つ残しておけぇ!」
俺たちは殴り合った。
ルーが物凄いスピードで俺を襲い、俺はその攻撃を受けながらぶん殴る。
遠くで大声が聞こえる。
俺たちはベンチに座り、俺はルーの頭を撫でながら二人でニコニコと飲み物を飲んだ。
警備員が来たが、まさか大柄の男と小さな女の子が争っているとは思ってない。
周囲を見渡して帰って行った。
「おい」
「はい」
「お前ぇ、もう一度買って来い!」
「はーい!」
「ああ、おい!」
「なーに?」
「コーヒーを一つ、ああ二つ買ってきてくれ!」
「はーい!」
俺はルーの喰ったゴミと、自分のカップを飲み干して捨てた。
ルーが戻って来る。
「はい、タカさん!」
ホットドッグと二つのカップを渡した。
俺はカップの一つをルーと反対側に置いた。
「なんだ、自分の追加分は買ってこなかったのか?」
「ハッ!」
俺は笑って、半分をルーに渡した。
二人で仲良く食べながら、夜になった景色を眺める。
「ここって、タカさんの特別な場所なのね」
「ああ、話したっけか?」
「うーん」
「なんだよ」
俺は笑った。
俺はまたルーの肩を抱いた。
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(奈津江さんがいる)
ルーは、石神が置いたカップの向こうで微笑んでいる女性を見ていた。
(タカさんに話してもいーですか?)
女性はクビを横に振った。
(あー、タカさん毎日来ちゃうもんね)
女性は今度は微笑んでクビを縦に振った。
女性がルーに何か言っていた。
(わかったぁ! タカさんとの思い出の場所なのね!)
女性が嬉しそうに笑った。
(あの、私も頑張るけど、一緒にタカさんを守ってあげてください!)
女性は一層嬉しそうに笑い、首を縦に振った。
女性は石神の腿に手を置いて、ルーの頭を撫でた。
ルーは嬉しそうに笑った。
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「なんだよ、そんなに笑って」
「嬉しいんだもん!」
「そうかよ」
俺も笑った。
しばらく夜景を眺め、帰ることにした。
「あー! 今日もなんかいい気分だぁ!」
俺が叫んだ。
「そうだよね!」
ルーも元気よく言った。
またルーと手を繋いで帰る。
途中でルーが振り向いて手を振った。
「なんだ?」
「なんでも!」
俺たちは『人生劇場』を大声で歌いながら帰った。
♪や~る~とおもえ~ば~ どこま~で~やるさぁ~♪
みんなが驚いて見ている。
笑いながらアヴェンタドールに乗り、ゴキゲンで帰った。




