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星の家族:シャルダンによるΩ点―あるいは親友の子を引き取ったら大事件の連続で、困惑する外科医の愉快な日々ー  作者: 青夜


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決戦兵器は未使用です

 うう、気持ち悪い。

 トイレで3度、洗面所で1度、シャワーを浴びながら2度。

 もう身体の中には何もない。

 明日出勤すれば、石神から散々説教を喰らう。

 でも、そのことで怯える自分はいなかった。

 慣れているのと、それ以上に考えるべきことが一江の中にはあった。


 「まあ、私が何でこんなことをしでかしたのかは、部長も分かってるだろうしね」


 石神は、卑怯なことや惰弱なことでしか、部下を本気で叱らない。

 やる気があっての失敗は、一応叱られはするが、むしろ褒められる。

 そういう失敗の責任は、必ず石神自身が引き受けた。

 そんな石神を一江は尊敬している。


 「失敗だったなぁ」

 一江はベッドに横になって呟く。


 「花岡さんには本当に申し訳ない。でも、ロックハート財閥の思惑をかわすには……」


 一江は石神がCNNの取材を申し込まれていることを、既に知らされていた。

 オペに参加した人間の中でも、第二執刀医である自分も、取材の対象となりうることが予測できたためだ。

 蓼科院長から直接教えられている。


 「恐らく部長はアメリカで話題になり、それを足がかりにロックハート財閥に取り込まれる」


 末期ガンで死ぬしかなかったアメリカ人の少女。

 その少女を80時間を超える、人間の限界を超える長時間手術で、奇跡的に救った日本人医師。

 それはアメリカ国民に好意的以上の感情で受け入れられ、マスコミの操作で一躍「時の人」となりうる。

 石神は日本国内、アメリカのマスコミの圧力により、アメリカに招かれ、ますます情報操作によって高い地位に持ち上げられる。

 恐らくロックハート財閥の力によって日本政府にも圧力がかけられ、石神はアメリカの大学なり研究機関なりで名誉職を与えられ、日本へ戻れなくなる。


 「そして響子ちゃんと結婚させられる……」


 一江は、ロックハート響子のことを調べていた。

 彼女はロックハート財閥の唯一の跡取りだ。

 あれだけ大きな財閥だから、他にも候補がいそうなものだが。


 「他の候補者は一人もいない」


 元々親族の少ない上に、不幸な事故や病気が重なり、後継者がいなくなった。

 現在ロックハート財閥は存続の危機にさらされていた。

 もちろん、財閥そのものは創始者の血筋が絶えても問題はない。

 しかし、血筋が残っている限り、あらゆる手段が講じられ、響子ちゃんは必ず当主となるだろう。


 「絶対に部長を奪わせない!」

 一江は寝ながら拳を突き立て、また吐きそうになった。

 「部長が結婚さえすれば」

 それが一江が考えた石神を守る方法だった。

 「最適解が花岡さんだったわけだけど」


 花岡栞の心に、思った通り石神への熱い思慕があったことは確認できた。

 もう十二分に。

 「まさかあれほど好きだったとは思わなかったわ」

 抉りすぎて申し訳ない。

 「しかし、あのマグマみたいな思いを、学生時代からずっと持ち続けていたなんて、あの人もいい加減化物だわ」

 昨夜のことを思い出し、一江は軽く震える。


 一江は密かにICレコーダーで録音していた。

 花岡が石神との進展に萎縮した場合、その録音が花岡を足踏みさせないものとなるはずだった。


 「流石にアレを使うのは、私も気が退けるわぁ。人間辞めなきゃだもんね」

 先ほど聞き直した録音は、一江に深い後悔を抱かせた。

 その後は、まあ地獄だわ。


 「それにしても、奈津江という人。部長にとっては呪いのたぐいよね」

 一江は深いため息をつく。

 石神の女性関係に対して、多分多くの人間関係の底には、奈津江という女性が関わっている。

 石神が女性関係で何も無いというのは、奈津江の死が間違いなく関係している。


 「忘れられない女かぁー」

 一江は、自分には一生理解できないだろうけど、そういうものが確かにある、ということは分かっていた。

 「でもねぇ、部長。花岡さんには十分な勝算があるんですからね」

 一江は昨晩からの花岡を思い出す。


 「でも、何よ、あの決戦兵器はぁ!」


 「まったく頭にくる! あんなの、男であれば絶対に壊滅よ! 皆殺しよ!」

 一江は朝方に一緒にシャワーを浴びたことを思い出している。

 貧相な自分の身体は分かっているが、あれはあんまりだ。

 小学生の運動会に、オリンピック金メダリストが出て来たようなものだ。


 「なにアレ! あんなの『プレイボーイ』でだって見たことないわよ。人間の範疇じゃないわよね」

 「それでいて、処女ってナニ?」

 ICレコーダーに記録されたその言葉が、一江の中で甦る。

 「顔もよし、高身長高学歴で、性格も抜群によし。決戦兵器アリ」

 「もう無双じゃん。待ってろよー、ぶちょー!!」












 花岡さんの胸には二つの超大型核弾頭ミサイルが備わっています。




 無敵です。

読んでくださって、ありがとうございます。

面白かったら、どうか評価をお願いします。

それを力にして、頑張っていきます。

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