Headlock with headlock
響子の病室から帰ると、亜紀ちゃんに出迎えられた。
「さー、待ってましたよー!」
俺は思わず笑った。
俺は着替えを持って脱衣所に入った。
亜紀ちゃんの背中を洗いながら、俺が言う。
「亜紀ちゃん、ちょっとオッパイが大きくなったか?」
「ほんとですか!」
「いや、気のせいだった」
亜紀ちゃんが振り向いて俺の腹に拳を入れる。
「もう!」
俺は笑って、響子が段々騙されなくなったと話した。
それが成長なのだが、ちょっと寂しいと。
「亜紀ちゃんはまだ大丈夫そうだな!」
「アハハハ!」
二人で湯船に浸かる。
「そういえば夕方に女子プロの方々から宅急便が届きましたよ」
「へぇ」
「私宛だったんで開けさせていただきました」
「なんだった?」
「それが皆さんのサイン色紙で」
「わーい」
亜紀ちゃんが笑った。
「それと契約書が」
「なんだよ、そりゃ」
「初任給が30万円ですって」
「安いなぁ」
まあ、弱小団体の精一杯なのだろう。
「手紙もあって、いつでも挑戦に来い、ですって」
笑った。
「サイン色紙、どうしましょう」
「ああ、庭の物置でいいんじゃねぇか?」
「それってゴミ置き場じゃないですか!」
「アハハハ」
双子に任せよう、ということになった。
亜紀ちゃんは相変わらず隠さない。
胸ばかりか、時々身体を冷ますために湯船に腰かけると、黒いものも見えてしまう。
まあ、俺もまったく隠さないが。
「その後斎藤誠二はどうよ?」
亜紀ちゃんが笑った。
「急に来ましたね! まあ、普通というか、何もありませんよ」
「なんだ、つまらん」
「だって、タカさんにああ言われたんですから、仕方ありませんよ」
「俺に言われて引っ込むなんてなぁ」
「普通はそうなりますって」
「双子なんて、全然引っ込まないじゃねぇか」
亜紀ちゃんが笑う。
「こないだガレージ開けて、アヴェンタドールを見てましたよ」
「なんだと!」
俺が思わず立ち上がり、こっちを見ていた亜紀ちゃんの顔の前に「俺」がぶら下がっていた。
「す、座ってください」
俺は湯船に入る。
「何もしてないだろうなぁ!」
「私が悪戯しちゃダメだと言いましたけど、まあ見ていただけみたいですね」
「なんだろう?」
「乗せて欲しいんじゃないですか?」
「あー」
確かにそうなんだろう。
二人乗りの車でドライブに行くので、必然的に双子の機会がない。
少し考えてみるか。
「片方ずつ乗せてみるか」
「それがいいですかねぇ」
「でもなぁ」
「なんですか?」
「あいつらって、二人揃っての可愛さがあるじゃない」
「あーたしかに」
「考えてみれば、あいつらが別々の時間ってねぇよなぁ」
「学校でもずっと一緒のクラスですしね」
「支配してるからなぁ」
「はぁー」
「逆にいい機会か?」
「そういう見方もありかも」
俺は寛いで足を伸ばす。
「そろそろプルプルタイムですか?」
「ばかやろー」
「タカさん」
「あんだよ」
「六花さんがいなくて寂しいですか?」
「なんでだよ」
「私がここにいますよ」
「見えてるよ」
「乗って来ませんね」
亜紀ちゃんが俺の片に頭を預けた。
「みんながいなくなっても、ちゃんと私がいます」
「そうかよ」
俺は笑いながら亜紀ちゃんの頭に手を回した。
亜紀ちゃんがうっとりとし、更に重みをかけてきた。
「ヘッドロック!」
「イタイイタイ!」
俺は笑って、油断するなと言った。
「だって今お風呂で寛いでるんじゃないですかぁ!」
俺は亜紀ちゃんのオッパイを触る。
亜紀ちゃんは不意打ちに驚いた。
「亜紀ちゃんを痛がらせるのも、オッパイに触れるのも、もう俺くらいになったな」
俺を見ている。
「これからも、ずっと宜しく!」
差し出した俺の手を亜紀ちゃんが握った。
「宜しくお願いします」
俺は脱衣所で亜紀ちゃんの髪を乾かしてやった。
「初めてですね」
「そうか」
「嬉しい」
「響子のついでだ」
亜紀ちゃんが怒った顔をした。
風呂から上がり、亜紀ちゃんが「七面鳥会」をしましょうと言った。
俺は笑って、ワイルドターキーを用意した。
亜紀ちゃんがまた双子のたこ焼きを出す。
「山中ともよく酒を飲んだけどな」
「はい」
「まさか娘と裸を見せ合った後でこうやって飲むとはなぁ」
「アハハ」
「そういえば、あいつはよく酔っぱらってたなぁ」
「嬉しかったそうですよ」
「え?」
「タカさんと飲むのがいつも嬉しくて、つい飲み過ぎるんだって母が言ってました」
「そうなのか?」
ウフフ、と亜紀ちゃんが笑った。
「よく送ってくれてたじゃないですか」
「ああ、放ってはおけねぇ酔っ払いだったからなぁ」
「一度、私が寝床へ連れて言ったら、「ありがとう、石神ぃ」って言ってました。カワイかったなぁ」
「そうかよ」
「父が酔っぱらって帰るのは、必ずタカさんと飲んだ時だけでした」
「そうか」
「分かりますよ。私だって今、嬉しいですもん」
「酔うほど飲むなよ!」
亜紀ちゃんが笑った。
「タカさん、大好きです」
「さて、お肉でも焼くか」
「もう!」
「山中ってさ、いつも奥さんとお前たちの話しかしなかったよ」
「そうなんですか」
「もう、毎回それだけ。あいつの話題ってそれしかねぇのな」
「……」
「それでさ、俺が遊びに行くのは止めるくせに、あいつを送る時だけは嫌がらないのな」
俺はグラスを煽った。
「本心では見せたかったのかもな」
「私たちをですか?」
「ああ。お前たちだけがあいつの自慢だったからな」
「そうですね」
「まあ、お前らがうちに来てくれたから分かるけどな」
「ありがとうございます」
「とんでもねぇこともしてくれるけどなぁ!」
「アハハハハ!」
「亜紀ちゃんや双子が嫁に行くなんて、きっと泣くだろうなぁ」
「アハハハ」
「タカさん、お世話になりました、なんて、もうダメだよ!」
亜紀ちゃんが笑いながら俺の頭を抱いた。
「ヘッドロック!」
亜紀ちゃんは「油断するな」と言った。
俺たちは笑った。




