「リッカチャンハン」970円。
家に帰り、子どもたちを風呂に入れた。
「亜紀ちゃん」
「はい」
「何で入らない?」
「タカさんがまだですから」
別に家長を敬ってのことではない。
「六花」
「はい?」
「お前も早く入れよ」
「?」
「分からねぇフリをするなぁ!」
六花がニッコリと笑う。
二人に手を引かれて風呂場へ向かう。
柳の時とは違う。
六花がいる。
俺の思いを無視して、二人とも恥じらいもなく脱いで行った。
六花が俺を脱がそうとするので、威厳をもって自分で脱いだ。
亜紀ちゃんが背中を洗い、六花が俺の前を洗う。
刺激してくるので、当然俺は戦闘態勢になる。
亜紀ちゃんが目を丸くして横から見ていた。
俺は二人の背中と髪を洗ってやる。
「私も最初は髪を洗っていただきましたね」
「そっから遠くへ来たみたいに言うな!」
亜紀ちゃんが笑っている。
「あとは自分たちで洗え」
前も、とせがむ六花を無視して、俺は湯船に入った。
二人も急いで洗い、入って来る。
「あー、美味しかったですねぇ」
亜紀ちゃんが俺の左手に抱き着いて言った。
「私もあんなに美味しいものは初めてです」
六花は右手に抱き着き、俺を誘導しようとする。
「お前らが満足してくれて、俺も嬉しいよ」
六花は、まだ満足してませんが、と目で訴えてくる。
「俺はゆっくり風呂に浸かるだけで満足なんだがな」
「浸かってるじゃないですか」
「あのなぁ」
六花は、もっと奥底まで浸かりますか、と目で訴えてくる。
「また温泉に行きたいですね!」
「温泉?」
六花が亜紀ちゃんに聞く。
亜紀ちゃんは軽井沢の話をした。
「じゃあ、次のツーリングは決まりましたね!」
「お互いに話し合おうって決めてるだろう!」
「後でじっくり話し合いましょう」
「ワハハハ」
俺は六花の頭をはたく。
雰囲気を変えるために、俺は甲斐バンドの『昨日なる鐘の音』を歌った。
「昨日あった、どんなに美しいものも悲しいものも、今日は既にそれは無い。明日は、それこそ何も無い」
「じゃあ、今日もまた鳴らせばいんじゃないですか?」
「そうだな」
そうだったら、どんなにかいいだろうか。
若い亜紀ちゃんだからこその考え方だ。
「鳴りやめば、私も終わるだけです」
六花が言った。
「そうだな」
六花は俺と重なっている。
自分の運命を、命をすべて俺に捧げようとしている。
風呂から上がり、梅酒会となった。
流石に今日は腹いっぱい食べているので、俺は枝豆を茹で、大根を千切りにし、胡麻ドレッシングをかけた。
黒豆味噌も器に盛る。
俺の両側に亜紀ちゃんと六花が座る。
俺と亜紀ちゃんは梅酒だが、六花はハイネケンだ。
寿司屋では運転があるので、俺は飲まなかった。
しかし、少し疲れがあったので、今日は梅酒で済ます。
「ところで六花は休みは予定通りか?」
六花は再来週からうちの別荘に来るが、それは「業務」になっている。
むしろ、泊まり込みでの介護になるので、結構な手当てがつく。
夏季休暇は別途に取ることになっている。
「はい、田舎に帰ろうと思ってます。響子の調子次第ですが、久しぶりにタケやよしこたちに会います」
「ああ、宜しく言っておいてくれ。俺もまたそのうち伺いたいからな」
「分かりました」
六花はまたニコニコしている。
予定が楽しみなのだろう。
「そういえば、タケの店が8階建てになったそうです」
「そりゃすごいな」
「はい。一階は中華と定食屋で、二階はその食事スペースだそうです」
「なるほどな」
「三階はレストランで、四階はその食事スペースと」
「うん」
「五階はスナックで、六階七階は住居ですね」
「八階は?」
「石神先生と私の部屋です」
「あ?」
「よしこが設備や調度を揃えてくれたそうです」
「あにいってんだ?」
「いつでも泊れますよ?」
「年に一度か二度がせいぜいだぞ!」
「はい、楽しみですね」
亜紀ちゃんが大笑いしている。
何やってんだ、あいつらは。
「それでお前は来週そこに泊るのか」
「はい、しっかり確認しておきますね」
「よろしくねー」
六花が笑った。
俺は新しい店の様子を聞いた。
「それがですねぇ。「虎チャーハン」が大成功だそうで。最初はうちの連中がよく来てたようですが、口コミで広まって、近所の会社や住人たちはもちろん、噂を聞いて県外からもよく来るそうです」
「なんだよ、その名前は」
「だって、石神先生から教わったものですから」
「それでも、「リッカチャーハン」とかにしろよ」
「ありますよ。「リッカチャンハン」ですが」
「いいネーミングじゃねぇか!」
「基本同じものですが、「リッカチャンハン」にはナルトが乗ってます」
「へぇ」
「「虎チャーハン」には唐揚げです。980円で、「リッカチャンハン」は970円です」
「同じにしろよ」
「私が頼んで安くしてもらいました」
「洋食は大丈夫か?」
「はい。中華で大勢来ますので、洋食の方も流れているようです。そちらはよしこが料理人を派遣してます」
「そうかぁ」
亜紀ちゃんが食べに行きましょうと言う。
まあ、悪くない話だ。
「みなさんで泊まれますよ。私と石神先生のお部屋とは別に、幾つもお部屋がありますから」
「おい、タケに土産を用意するから、渡してくれな」
「分かりました」
六花はニンジャで行くのだろう。
大きな荷物は頼めない。
宅急便で送るか。
その後、亜紀ちゃんと斎藤兄弟の話をし、盛り上がった。
楽しい夜を過ごした。




