確かなものを知っている。
家に着いて、俺は少し寝た。
双子はすぐに勉強を始める。
若ぇ。
「ゴールド、来い!」
俺は誰もいない空間に向かって言った。
布団を少しめくってやる。
「おい、俺が一人の時はいいけど、女がいたらちょっと遠慮してくれ」
俺は頼んだ。
俺が起きてすぐに六花が来た。
電車で来たらしい。
俺がやったエルメスの赤いフールトゥを持っている。
「六花ちゃん、いらっしゃーい!」
双子が出迎えた。
六花がニコニコして挨拶していた。
「おう、悪いな。今起きたところなんだ。ちょっと待っててくれ」
シャワーを浴びに行こうとすると、六花がついてこようとする。
「なんだ?」
「いえ、お手伝いしようかと」
「必要ねぇ!」
亜紀ちゃんに紅茶を淹れてもらい、待ってるように言う。
皇紀はハマーを洗車していた。
身支度を整え、俺は様子を見に行く。
綺麗になっており、俺は皇紀の頭を撫でた。
「お前が洗うと本当にいいよなぁ」
「そうですか!」
嬉しそうに笑った。
今日は沼津の寿司屋に行くつもりだ。
事前に連絡をし、仕入れを調整してもらった。
怪獣が行くからだ。
余ったら全部引き受けると言い、ネタの種類と量を言った。
一人頭百貫以上食べると言うと、笑っていた。
絶対に食べるということを信じてもらうのに苦労した。
半分仕入れの費用を入金すると言ったが、大丈夫だと言われた。
まあ、そういう大将だ。
沼津までの道は慣れたものだ。
みんなで歌を歌った。
六花が歌うと言うので、みんなが止めた。
それでも六花が歌いたいと言うので、歌わせた。
みんなに、もうやめとけ、と言われた。
いつものように喫茶店で一息入れ、深海水族館に行く。
みんなが喜んで回った。
六花も不思議で気味の悪い深海生物に興奮していた。
「あ、石神先生、キレイですよ!」
六花が発光する深海魚の水槽の前で叫ぶ。
「お前ほどじゃねぇけどな」
言ってやると、六花が嬉しそうに笑った。
本当にこいつの笑顔はいつも眩しい。
「亜紀ちゃん、どれが食べたい?」
怒ったふりをして俺の手を殴る。
でも、綺麗な透明のエビを指さして笑った。
皇紀は双子に手を引かれてあちこちを見せられている。
凶暴なこともするが、いつも三人で何かやっていることが多い。
まあ、ヘンなゴキブリなんかも育てているが。
俺は夕暮れの展望台に案内し、しばし美しい光景を見せた。
俺の両側に六花と亜紀ちゃんが並んだ。
二人に手を取られる。
いつの間にか、後ろに結構な数の人間が集まっていた。
振り向くと、双子が集めていた。
「いい感じのカップルがいますよー」
「お前ら、何やってんだ」
「「エヘヘへ」」
みんなが六花と亜紀ちゃんの美しさに見とれた。
俺は公園のベンチで全員に役割とセリフを覚えさせた。
一度練習する。
まあ、とちったらアドリブで俺が何とかしよう。
俺たちは釣り客の多い堤防を渡り、薄暗い灯台に行った。
「こんな場所に連れてきて、一体何なの?」
六花が大きな声で言う。
「六花、今日はお前に大事な話があるんだ!」
「お前と孤児院で一緒に育った子どもたち、みんなに聞いてもらいたいんだ!」
「トラ!」
「俺は今までダメな奴だった。でも改心して足を洗った! これからはお前と一緒に頑張りたいんだぁ!」
「本当なの!」
「俺は真面目に働くよ! もうお前たちを泣かせはしない!」
「ああ!」
「よかったね、おねえちゃん!」
「「「おめでとー!」」」
俺と六花は抱き合った。
歓声が上がった。
みんなが口々に頑張れと言い、幸せになれと言ってくれた。
俺たちは笑顔で手を振りながら戻った。
亜紀ちゃんが離れてから大笑いした。
皇紀も双子も楽しそうに笑った。
六花は赤くなって微笑んでいる。
「あれが柳さんが怒ったことなんですね!」
「ああ、やっぱり事前に練習でもしておくべきだったな」
「みんなも嬉しそうだったね!」
ハーが言った。
「そうだよな。これで魚が釣れなくても、幸せな気持ちで帰るだろうよ」
みんなが笑った。
「じゃあ、いよいよ日本一の寿司屋に行くかぁ!」
「「「「「オオー!」」」」」
店に行くと、大将がテーブルを二つくっつけて用意しておいてくれた。
「お座敷とも思ったんですが、旦那は楽しい方だから、こっちの方がいいやって」
「ありがとう。今日は大食いの子どもたちを連れてくるんで無理言っちゃったな」
「いえいえ、ちゃんと用意してますんで、いくらでも召し上がってってください!」
店には他の客も結構入っている。
早速俺たちの桶を用意しながら、他の客の注文にも対応していく。
ネタはある程度指定しておいた。
すぐに6つのでかい桶が来た。
50貫ずつ入っている。
俺のは30貫だ。
俺は普通だ。
大トロ、赤身、真鯛、クルマエビ、甘海老、ウニ、イクラ、アナゴ、赤貝、トリ貝、それらが子どもたちの好物で、他はお任せで頼んでいる。
「じゃあ、大将の心づくしをいただこう。いただきます!」
「「「「「いただきます!」」」」」
俺を除く5人は一斉に喰い荒らしていく。
大将がペースを見ようと思ってこちらを向いて顔が変わった。
他の三人の板前に指示を出す。
子どもたちの桶が空になった瞬間、次の桶を大将たちが持って来た。
客にお待たせしないように心掛けているのだ。
「ああ大将、紹介がまだだったな。前に話した俺の子どもたちで、上からサメ子、ワニ男、ピラニア姉、ピラニア妹だ」
「あははは」
大将が渇いた笑いで愛想をする。
「そして俺の二号のトラ子だ」
「ぎょぼじく」
六花がニコニコしながらなんか言った。
冗談を返す余裕もなく、大将は握りに戻った。
他の客もずっと俺たちを見ている。
俺も慣れた。
「すいません、撮影だけはご勘弁を」
大将もよろしくお願いいたします、と言ってくれた。
桶は三回持って来られた。
大将たちは疲弊している。
ペースが速すぎるのだ。
奥さんが大きな釜を抱えて何度か行き帰していた。
子どもたちも、ようやく落ち着いた。
「みんな、腹も落ち着いたか?」
「「「「「はーい!」」」」」
「じゃあ、ここからは普通のペースで喰え!」
「「「「「はーい!」」」」」
大将たちが、まだ喰うのかと倒れそうになった。
「タカさん、私もう一桶いいでしょうか?」
六花も口に頬張りながら手を挙げる。
「ああ、お前らは大活躍だったからな! 他の三人も喰いたいだけ喰えよ!」
亜紀ちゃんと六花は桶を頼み、俺と三人は煮魚やかきあげなどを注文した。
「大将! 魚は大丈夫か?」
「へい! 旦那から言われた通りに仕入れましたから!」
「そりゃ良かった」
「でも、まさか本当に全部召し上がるとは」
「アハハハ!」
思ってなくても、ちゃんと大将は仕入れてくれた。
ありがたい。
「しかし、トラ子さんとサメ子さんはまたお綺麗ですね!」
俺たちのペースも少し落ち、やっと愛想を言う余裕ができたようだ。
「大将! 一番高いヤツを!」
「へい!」
他の客が笑う。
あわびと伊勢海老が4貫ずつ配られた。
みんなが驚嘆している。
「どうだ、ここの寿司屋は最高だろう?」
「「「「はい!」」」」
「ばび」
「でも値段はどれも100円なんだよ!」
「勘弁してください!」
みんなが笑った。
「あれ、そういえば今日は回転してないじゃない」
爆笑された。
大将たちも笑っている。
子どもたちが幸せそうな顔をしている。
六花が本当に嬉しそうに笑っている。
俺も本当に幸せだった。
店を出る時、大将が一番楽しい日だったと言ってくれた。
客たちが拍手して送り出してくれた。
俺たちは『月月火水木金金』をみんなで歌いながら駐車場まで歩いた。
六花には小さな声で歌えとみんなで言った。
でも六花も笑顔で歌った。
「石神先生、今日も楽しかったですね」
六花が言った。
俺たちは地獄の中で生きている。
しかし、その中で確かなものを知っているのだ。




