表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星の家族:シャルダンによるΩ点―あるいは親友の子を引き取ったら大事件の連続で、困惑する外科医の愉快な日々ー  作者: 青夜


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

411/3163

確かなものを知っている。

 家に着いて、俺は少し寝た。

 双子はすぐに勉強を始める。

 若ぇ。


 「ゴールド、来い!」

 俺は誰もいない空間に向かって言った。

 布団を少しめくってやる。


 「おい、俺が一人の時はいいけど、女がいたらちょっと遠慮してくれ」

 俺は頼んだ。





 俺が起きてすぐに六花が来た。

 電車で来たらしい。

 俺がやったエルメスの赤いフールトゥを持っている。


 「六花ちゃん、いらっしゃーい!」

 双子が出迎えた。

 六花がニコニコして挨拶していた。


 「おう、悪いな。今起きたところなんだ。ちょっと待っててくれ」

 シャワーを浴びに行こうとすると、六花がついてこようとする。


 「なんだ?」

 「いえ、お手伝いしようかと」

 「必要ねぇ!」

 亜紀ちゃんに紅茶を淹れてもらい、待ってるように言う。


 皇紀はハマーを洗車していた。

 身支度を整え、俺は様子を見に行く。

 綺麗になっており、俺は皇紀の頭を撫でた。


 「お前が洗うと本当にいいよなぁ」

 「そうですか!」

 嬉しそうに笑った。




 今日は沼津の寿司屋に行くつもりだ。

 事前に連絡をし、仕入れを調整してもらった。

 怪獣が行くからだ。

 余ったら全部引き受けると言い、ネタの種類と量を言った。

 一人頭百貫以上食べると言うと、笑っていた。

 絶対に食べるということを信じてもらうのに苦労した。

 半分仕入れの費用を入金すると言ったが、大丈夫だと言われた。

 まあ、そういう大将だ。


 沼津までの道は慣れたものだ。

 みんなで歌を歌った。


 六花が歌うと言うので、みんなが止めた。

 それでも六花が歌いたいと言うので、歌わせた。

 みんなに、もうやめとけ、と言われた。



 

 いつものように喫茶店で一息入れ、深海水族館に行く。

 みんなが喜んで回った。

 六花も不思議で気味の悪い深海生物に興奮していた。


 「あ、石神先生、キレイですよ!」

 六花が発光する深海魚の水槽の前で叫ぶ。


 「お前ほどじゃねぇけどな」

 言ってやると、六花が嬉しそうに笑った。

 本当にこいつの笑顔はいつも眩しい。


 「亜紀ちゃん、どれが食べたい?」

 怒ったふりをして俺の手を殴る。

 でも、綺麗な透明のエビを指さして笑った。

 皇紀は双子に手を引かれてあちこちを見せられている。

 凶暴なこともするが、いつも三人で何かやっていることが多い。

 まあ、ヘンなゴキブリなんかも育てているが。



 俺は夕暮れの展望台に案内し、しばし美しい光景を見せた。

 俺の両側に六花と亜紀ちゃんが並んだ。

 二人に手を取られる。

 いつの間にか、後ろに結構な数の人間が集まっていた。

 振り向くと、双子が集めていた。


 「いい感じのカップルがいますよー」

 「お前ら、何やってんだ」

 「「エヘヘへ」」

 みんなが六花と亜紀ちゃんの美しさに見とれた。


 



 俺は公園のベンチで全員に役割とセリフを覚えさせた。

 一度練習する。

 まあ、とちったらアドリブで俺が何とかしよう。

 俺たちは釣り客の多い堤防を渡り、薄暗い灯台に行った。

 

 「こんな場所に連れてきて、一体何なの?」

 六花が大きな声で言う。


 「六花、今日はお前に大事な話があるんだ!」

 「お前と孤児院で一緒に育った子どもたち、みんなに聞いてもらいたいんだ!」

 「トラ!」

 「俺は今までダメな奴だった。でも改心して足を洗った! これからはお前と一緒に頑張りたいんだぁ!」


 「本当なの!」

 「俺は真面目に働くよ! もうお前たちを泣かせはしない!」

 「ああ!」


 「よかったね、おねえちゃん!」

 「「「おめでとー!」」」

 俺と六花は抱き合った。


 歓声が上がった。

 みんなが口々に頑張れと言い、幸せになれと言ってくれた。

 俺たちは笑顔で手を振りながら戻った。


 亜紀ちゃんが離れてから大笑いした。

 皇紀も双子も楽しそうに笑った。

 六花は赤くなって微笑んでいる。


 「あれが柳さんが怒ったことなんですね!」

 「ああ、やっぱり事前に練習でもしておくべきだったな」

 「みんなも嬉しそうだったね!」

 ハーが言った。


 「そうだよな。これで魚が釣れなくても、幸せな気持ちで帰るだろうよ」

 みんなが笑った。




 

 「じゃあ、いよいよ日本一の寿司屋に行くかぁ!」

 「「「「「オオー!」」」」」


 店に行くと、大将がテーブルを二つくっつけて用意しておいてくれた。


 「お座敷とも思ったんですが、旦那は楽しい方だから、こっちの方がいいやって」

 「ありがとう。今日は大食いの子どもたちを連れてくるんで無理言っちゃったな」

 「いえいえ、ちゃんと用意してますんで、いくらでも召し上がってってください!」

 店には他の客も結構入っている。

 早速俺たちの桶を用意しながら、他の客の注文にも対応していく。

 ネタはある程度指定しておいた。

 すぐに6つのでかい桶が来た。

 50貫ずつ入っている。

 俺のは30貫だ。

 俺は普通だ。

 大トロ、赤身、真鯛、クルマエビ、甘海老、ウニ、イクラ、アナゴ、赤貝、トリ貝、それらが子どもたちの好物で、他はお任せで頼んでいる。


 「じゃあ、大将の心づくしをいただこう。いただきます!」

 「「「「「いただきます!」」」」」


 俺を除く5人は一斉に喰い荒らしていく。

 大将がペースを見ようと思ってこちらを向いて顔が変わった。

 他の三人の板前に指示を出す。

 子どもたちの桶が空になった瞬間、次の桶を大将たちが持って来た。

 客にお待たせしないように心掛けているのだ。


 「ああ大将、紹介がまだだったな。前に話した俺の子どもたちで、上からサメ子、ワニ男、ピラニア姉、ピラニア妹だ」

 「あははは」

 大将が渇いた笑いで愛想をする。


 「そして俺の二号のトラ子だ」

 「ぎょぼじく」

 六花がニコニコしながらなんか言った。

 冗談を返す余裕もなく、大将は握りに戻った。

 他の客もずっと俺たちを見ている。

 俺も慣れた。


 「すいません、撮影だけはご勘弁を」

 大将もよろしくお願いいたします、と言ってくれた。


 桶は三回持って来られた。

 大将たちは疲弊している。

 ペースが速すぎるのだ。

 奥さんが大きな釜を抱えて何度か行き帰していた。


 子どもたちも、ようやく落ち着いた。


 「みんな、腹も落ち着いたか?」

 「「「「「はーい!」」」」」

 「じゃあ、ここからは普通のペースで喰え!」

 「「「「「はーい!」」」」」


 大将たちが、まだ喰うのかと倒れそうになった。


 「タカさん、私もう一桶いいでしょうか?」

 六花も口に頬張りながら手を挙げる。


 「ああ、お前らは大活躍だったからな! 他の三人も喰いたいだけ喰えよ!」

 亜紀ちゃんと六花は桶を頼み、俺と三人は煮魚やかきあげなどを注文した。

 

 「大将! 魚は大丈夫か?」

 「へい! 旦那から言われた通りに仕入れましたから!」

 「そりゃ良かった」

 「でも、まさか本当に全部召し上がるとは」

 「アハハハ!」

 思ってなくても、ちゃんと大将は仕入れてくれた。

 ありがたい。


 「しかし、トラ子さんとサメ子さんはまたお綺麗ですね!」

 俺たちのペースも少し落ち、やっと愛想を言う余裕ができたようだ。


 「大将! 一番高いヤツを!」

 「へい!」

 他の客が笑う。

 あわびと伊勢海老が4貫ずつ配られた。

 みんなが驚嘆している。


 「どうだ、ここの寿司屋は最高だろう?」

 「「「「はい!」」」」

 「ばび」


 「でも値段はどれも100円なんだよ!」

 「勘弁してください!」

 みんなが笑った。


 「あれ、そういえば今日は回転してないじゃない」

 爆笑された。

 大将たちも笑っている。

 子どもたちが幸せそうな顔をしている。

 六花が本当に嬉しそうに笑っている。


 俺も本当に幸せだった。


 店を出る時、大将が一番楽しい日だったと言ってくれた。

 客たちが拍手して送り出してくれた。

 

 俺たちは『月月火水木金金』をみんなで歌いながら駐車場まで歩いた。

 六花には小さな声で歌えとみんなで言った。

 でも六花も笑顔で歌った。


 「石神先生、今日も楽しかったですね」

 六花が言った。





 俺たちは地獄の中で生きている。

 しかし、その中で確かなものを知っているのだ。 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ