表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星の家族:シャルダンによるΩ点―あるいは親友の子を引き取ったら大事件の連続で、困惑する外科医の愉快な日々ー  作者: 青夜


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

410/3164

麻の葉の人

 院長の家での翌朝。

 俺たちは7時に起きた。

 俺が双子のパンツを降ろすと、俺も脱がされた。

 オチンチンで顔を殴ってやると「イヤー!」と言う。

 いいお父さんになったもんだ、と思う。

 

 夕べ静子さんには、俺たちが朝食の準備もすると言っておいた。

 しかし、やはり静子さんはキッチンに立っていた。


 「おはようございます」

 「「おはようございます!」」

 「みんさん、おはよう」

 割烹着を着た静子さんが微笑んで言った。


 「俺たちでやるって言ったじゃないですか」

 「私にも少しはやらせて欲しいわ」

 俺たちは笑いながら朝食を準備した。

 大した手間は無い。


 夕べ作っておいた寸胴のコンソメスープがある。

 静子さんが鮭を焼き、俺たちはサラダと双子が自分たち用にウインナーを炒める。

 こいつらの朝の定番だ。

 それと持って来た御堂家の卵。

 卵はお二人が好きなようなら、と多めに持って来た。

 すぐに終わった。


 「院長を起こしてこい!」

 「「はーい!」」

 俺と静子さんは、面白そうなので後をついていく。


 「文学ちゃーん! 朝だよー」

 「ごはんだよー!」

 二人は院長のベッドに飛び込む。

 両側から頬にチューをした。

 双子は本当に好きな相手にしかチューをしない。

 俺と亜紀ちゃんと皇紀だけだ。

 皇紀は結構されている。

 蹴られ、殴られもするが。


 院長は笑顔で双子を抱き締め、わかったわかったと言う。

 俺と静子さんは、普段は見られない姿に笑う。


 「浮気はいけませんよ、院長」

 「お前、何を言う!」

 「若い女を二人もはべらして、もう」

 「実家に帰ります」


 「おい!」


 院長は浴衣のまま座敷に来た。


 「ほっぺにキスマークがありますよ」

 「やめろって!」

 静子さんが笑っている。

 お二人は、御堂家の卵を絶賛した。


 「オロチも大好きですからね」

 「なんだ、オロチって」

 俺は御堂家に行った時に、守り神らしいヘビが出た話をした。


 「ほう、不思議な話だな」

 「はい。何百年も誰も見なかったらしいですからね」

 「お前の光を見たか」

 誰にも聞こえない小声で院長が呟いた。


 「タカさんね、動物にモテるのよ」

 ルーがゴールドから一連の動物大集合事件を話した。


 「あの犬か!」

 「はい。これも不思議なんですけどね」


 俺の話を聞き、院長は五十嵐さんと話したことだと言った。

 五十嵐さんは俺の家に来たゴールドが、俺のことを気に入ったようだと話したという。


 「石神の家を見たわけでもないのにな。俺は最初は想像して言ってるんだと思っていた」

 でも、俺の家の中の間取りや置いてある物のことや、ゴールドが何を食べさせてもらったというような具体的な話が出て、院長もこれは、と思ったらしい。


 「お前が時々高い肉をやってるとかな。風呂に一緒に入るのが大好きなんだという話もしていた。俺もお前から詳しい話を聞いたわけじゃないが、お前ならやるだろうと思ったよ」

 「その通りですね。ゴールドは本当にカワイイ奴でしたから」

 「それでな。いよいよ五十嵐さんの容態が悪くなってから、俺に言ったんだよ」

 「はい」


 「ゴールドを連れて行くけど、ゴールドは石神先生に恩返しがしたいんだ、と。もう意識が途絶えがちになっていたことだしな。意味は分からんがきっと夢を見ているのだと思っていた。本当のことだったんだな」


 「ゴールドはいるよ!」

 「時々、タカさんの部屋にいる」

 双子が言った。

 

 「そうなのか」

 「「うん」」

 俺は嬉しかった。


 「それとね」

 「なんだ?」

 「この家にも優しい人がいるよ!」

 「!」


 「あのね、丸刈りの痩せた人」

 「背は文学ちゃんと同じくらい」

 「なんだと!」

 院長が驚いている。

 双子に詳しい姿を聞くと、浴衣を着ているらしい。

 俺は紙とペンを渡し、二人に描かせた。

 二人とも絵心がある。

 墨の麻の葉の模様で、一部が黄色で染められているらしい。



 「兄貴!」



 院長が泣いていた。

 テーブルに両手を置き、身を震わせて涙を流していた。

 静子さんも驚いている。


 院長は立ち上がり、出ていき、アルバムを持って来た。


 「昔のことだから白黒だけどな。これが入院中の兄貴の写真だ」

 麻の葉模様だった。

 黄色だろうと思われる部分は灰色になっている。


 「文学ちゃんが偉くなって頑張ってて嬉しいって」

 院長が激しい嗚咽と共に泣き出した。


 「兄貴がずっと見ていてくれたのか」


 院長が涙を零しながら呟いた。






 俺たちは食事の片づけをし、家の掃除をさせてもらった。

 院長は俺たちの傍にいて、あちこちを見ていた。

 探しているのだろう。


 結構な時間が過ぎ、俺たちはコンソメスープにウドンを入れてさっと煮込んだ。

 刻んだワカメと三つ葉を入れた。


 「邪道ですが、たまにはこういうのもいいでしょう」

 お二人は結構美味いと言ってくれた。


 荷物をまとめて帰るとき、院長は深々と頭を下げて来た。


 「今日は本当にありがとう。こんなに嬉しかった日はない」

 双子が院長の尻をポンポンと叩く。

 院長が笑った。


 「ありがとう、ありがとう」

 また泣かれた。


 「石神さん、またいらしてね」

 「はい、必ず」

 静子さんも目を潤ませていた。


 「ルーちゃんとハーちゃんも絶対にね」

 「「はい!」」





 「さて、大通りに出てタクシーを捕まえるか」

 「「うん!」」

 

 「ねえ、タカさん」

 寸胴を二つ背負ったハーが言う。

 来る時とは荷物を交代したようだ。


 「なんだ?」

 「浴衣の人がね、タカさんにお礼を言ってたよ」

 「なんて言ってたんだ?」

 「文学ちゃんをありがとうって」

 「そうか。次に会ったら迷惑かけてばっかで申し訳ないと言っておいてくれ」


 「うん!」

 ハーが嬉しそうな顔をした。


 「ハー、走って帰ろうか?」

 「その方が早いかな?」

 「やめろ!」

 俺は笑いながら止めた。

 自動車よりも速い、寸胴とでかいリュックを背負った子どもなんて冗談じゃねぇ。


 「いいか、大物はゆったりと進むもんだ! 覚えとけ!」

 「「はーい!」」

 俺たちは手を繋いで歩いた。

 狭い西池袋の道で、後ろから車が来た。

 ハーが蹴りを入れようとするので、必死で止めた。

 運転手が驚いた顔で追い越していく。

 遠くなってから、俺たちは中指を立てた。






 俺たちの幸せの邪魔をすんじゃねぇ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ