足音
俺も静子さんの後で風呂をいただいた。
俺はハーに、「人生ゲーム」を持って来るように言った。
「なんだ、これは?」
俺は院長と静子さんに説明する。
「なんだか面白そうじゃないか。やってみるか」
静子さんは見ているとおっしゃったが、無理に参加させる。
「あー! 文学ちゃんスゴイじゃん!」
院長の調子がいい。
静子さんも楽しんでいる。
俺は出目が悪く、破産しそうだった。
「お前は何をやってもダメだな」
院長が大真面目に言う。
「いい大人が子どもの遊びで本気になっちゃって」
「何おぉー!」
静子さんが大笑いしている。
「あー、楽しかった」
静子さんが笑顔で言ってくれた。
院長も満足げだ。
俺は双子を寝かせ、座敷でお二人に礼を言った。
「今日はお騒がせしました。お陰で子どもたちも楽しそうでした」
「いや、俺たちも楽しかったよ。ありがとう」
静子さんがお茶を煎れてくれる。
「あと、どれだけこうやって笑えるのかな」
院長が言った。
「何言ってんですか。あと百年は生きますよ」
「お前なぁ、一応医者なんだから、もうちょっと現実的な数字を言えよ」
「言ったら怒るくせに」
俺は頭をはたかれた。
静子さんが笑う。
「石神、お前のお陰で俺の人生は楽しかったよ」
「死ぬのは病院を辞めてからにしてくださいね。葬儀とかめんどくさい」
またはたかれた。
「お前はいつもチンピラだなぁ。少しは真面目に話したいぞ」
「すみませんね」
俺は茶を啜り、静子さんのお茶は最高ですと言った。
「お前が結婚でもすればなぁ。俺たちも少しは安心できるんだが」
「お袋みたいなこと言わないで下さいよ。俺はちゃんと人生を楽しんでますって」
「そうじゃない。お前はいつも、どこか寂しそうだからな」
「?」
「自分では分からないんだろうよ。お前は自分のことを考えない男だからな」
「何言ってんですか」
「お前はいつも俺をからかって喜んでいるが、俺に怒られたいんだろう?」
「それはないです」
院長は笑った。
「まったく、子どものような甘え方だよ、お前は」
静子さんも微笑んでいる。
俺は静子さんに、院長がセグウェイで響子を追いかけて、ロリコンの変態だと噂されたことを話した。
「「脱がしちゃうゾー、ゲヘヘ!」って言いながら追いかけてたんですからね」
「あ、あれはお前がそう言えって言ったんだろう!」
「それはないですよ! 俺は響子に脱がされちゃうから逃げろって言っただけで。院長がノリノリではしゃいでたんじゃないですか!」
静子さんが大笑いした。
「どうせまたお前が噂を広めたんだろう」
「当たり前じゃないですか!」
「お、お前ぇ!」
静子さんが笑いながら、もうやめてくださいと言った。
「心臓がおかしくなりそうですよ」
院長と俺が笑った。
バレンタインデーの話もする。
院長は俺の頭を殴りながら、やめろと言った。
「そういえば、今年は一杯いただいて来ましたよね」
「あれは全部俺のです」
「そうだったのねぇ」
「だから今年のには「勘違いしないでください」とか書いてなかったでしょ?」
「そういえば!」
「石神! それ以上はやめろ!」
静子さんはまた大笑いした。
部屋に行くと、双子が起きていた。
「なんだ、寝てなかったのか」
「うん。文学ちゃん、楽しそうだった?」
「ああ、見たことないくらいに笑ってたぞ。お前たちのお陰だ」
「「うん!」」
「あと百年生きてくれと言っといた」
「じゃあ、ガンバロー、ハー!」
「そうだよね、ルー!」
「?」
良くは分からないが、二人が院長を大好きなのは分かった。
「じゃあ、寝るか!」
「「はーい!」」
二人が両脇で俺の腕に捕まるので、寝返りができねぇ、と振りほどく。
俺は二人を上から抱き寄せ、お尻をなでなでしてやる。
クスクスと笑っていた。
「お前らのお尻はカワイイよなぁ」
「タカさん、エッチ」
「そんなこと、とっくに知ってるだろう!」
「「アハハハ」」
「まあ、聖ほどじゃねぇけどな」
「あいつぅ、次はバキバキにしてやる!」
「まともな身体でアメリカに帰れると思うなよ!」
聖にやられ、ルーの顔はパンパンに腫れ上がり、ハーは額が鬼の角のように腫れた。
まあ、夕方には戻った。
「あいつは俺と喧嘩できるんだから、強いに決まってる」
「「うーーん」」
「何しろ、あいつには今回大分世話になった。次はやっつけても、ちょっと加減してくれ」
「「分かったぁー!」」
「じゃあ、寝ろ」
「「うん」」
俺はまた尻を撫でた。
「タカさーん、エッチすぎるよー」
俺は笑った。
「お前らがカワイすぎるのがいけないんだぁ!」
「「エヘヘヘ」」
廊下で、クスクスと笑いながら離れていく足音が聞こえた。




