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星の家族:シャルダンによるΩ点―あるいは親友の子を引き取ったら大事件の連続で、困惑する外科医の愉快な日々ー  作者: 青夜


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静かな夜に

 月曜日。

 約一週間振りの出勤だった。

 一江から問題がないという報告を聞いた。


 「一週間お前らを見ないと、なんかちょっとカワイく見えるな!」

 ドアを開けて言うと、部下たちが笑う。


 「げんきですかー!」

 「はい!」

 俺は満足して部屋に戻った。





 院長室に呼ばれた。


 「石神、入ります!」

 院長はデスクに座り、書類をチェックしている。

 俺と同様に、院長は各部の報告を月曜に読む。


 「おう、特に用ということじゃないんだけどな」

 「はい!」

 俺はソファに座れと言われ、院長の作業が一段落するのを待った。

 秘書がコーヒーを淹れてくれる。

 今日はサービスがいい。

 ということは、ろくでもない頼み事だ。


 「お前、新宿の歌舞伎町と中央公園の事件は知ってるな?」

 「はい」

 当事者だからな。


 「日本も物騒になったもんだ。女房と驚いてテレビを観ていたよ」

 そういえば、院長のことをすっかり忘れていた。

 ちょっと申し訳ない気がする。


 「まあ、俺なんかはお前と違って、ちょっと怖い人間が来たらすぐにやられてしまうからな」

 「そんなことは」

 「いや、年も年だしなぁ」

 「何言ってるんですか」


 「双子ちゃんに会いたい」

 「……」

 流れるように言った。

 本当にろくでもない用件だった。


 「じゃあ、今度二人に話しておきますよ」

 「そうか!」

 「あいつらも院長のことが大好きですからね」

 「そうか!」

 明るい顔をしやがる。


 「でも、静子さんにご迷惑なのでは」

 「そんなことはないぞ。あれもルーちゃんとハーちゃんが好きだからなぁ」

 「いえ、そういうことではなく、あいつらって大食いでしょう?」

 「ああ、それならお前が来い」


 「え?」


 「お前が静子を手伝ってやってくれればいいじゃないか。静子もお前に会いたがっているしな」

 めんどくせぇ。


 「分かりました。じゃあ、今週の金曜日に伺います」

 「夜か?」

 「そうです。土日は予定がありますので、金曜日でお願いします」

 「そうかぁ。じゃあ仕方ないな」


 俺はコーヒーを飲み干し、院長室を出た。

 まあ、ちょっと後ろめたい気持ちもあった。

 院長たちが蓮華に襲われていたら、アウトだった。


 「サービスするか」






 休みを取っていたので、結構オペが立て込んでいた。

 休み前ほどではないが、深夜に帰宅することもあった。

 木曜日に鷹のマンションに泊って、英気を養った。


 「石神先生、連日お疲れ様です」

 「鷹もな!」

 毎回ではないが、やはり多くのオペで鷹を入れていた。

 お互い疲れているから、簡単な食事でいいと言ったが、鷹がいつものように豪華なものを作ってくれる。

 特に、鱧の天ぷらが食欲ををそそる。

 抹茶塩が添えてある。

 

 「双子ちゃんは、本当に凄かったんですよ」

 食事を始めると、すぐに鷹が話し出した。


 「私は何も分からなかったんですが、そこのベランダで敵が来るのが分かったみたいで」

 「あいつらは特殊な感覚があるんだ。何か光のような、波動のようなものが見えるらしい」

 「凄いですよね。「左がおかしい」って。私にちゃんと奥にいるように言ってくれて、そうしたら突然ベランダから飛び降りちゃったんです」

 俺は笑った。

 さぞ、驚いたことだろう。


 「階段を使ったら間に合わないと判断したんだろうな。まあ、あいつらにとってはこの高さは何の問題もないんだ」

 「でも、驚きますよ」

 俺は「高い高い」の話をした。


 「30メートル放り上げるからな」

 「!」

 「その上で、高難度の体操技で着地するんだからなぁ」

 「失敗しないんですか?」

 「ああ、考えたこともねぇ。まあ、失敗しても地面に突き刺さるだけで、全然平気」

 鷹が笑った。


 俺は鰹の叩きを口に入れる。

 生臭さがみじんもない。

 ショウガとニンニクの香りがいい具合に鼻を抜け、後から鰹の旨味と風味が口に拡がる。


 「美味いな、これ!」

 鷹が微笑んだ。

 日本酒の冷酒を飲む。

 これがまたいい。


 「そう言えば、前にお話ししたんですけど、あの女子会に誘われてます」

 「あいつら、まだ懲りてねぇのか」

 「あんなことがありましたもんねぇ」

 俺はあらためて鷹に国道246での事件を話す。

 

 「前にも話したように、栞と双子の喧嘩だったわけだ」

 「はい」

 「ほら、俺が「次は死人が出る」って言ったじゃない? 本当にやばかったよなぁ」

 「そうですね」


 「双子は後先考えてなかったけど、栞は「轟雷」という強力な電磁波を生む技を連発してな。それで監視カメラや周辺の車のドラレコなんかを潰しながらだった。でも、加減を間違えれば人間がやられちゃうからな」

 「コワイですね」

 「「轟雷」は元々はプラズマで相手を焼き尽くす技だ。それが文明が進んで電子機器を破壊するためにも改良が進んでいった。でも、プラズマ本体に触れたら、普通の人間の命はねぇ」

 「はあ」

 「栞本体のパワー自体も問題よな。物凄い力で双子もぶっ飛ばされるんだから、それにぶつかれば骨折もあった。まあ、流石に双子もその辺は考えていたようだけどな。車のボディがへこむくらいで済んだ」

 「まあ……」


 俺は次の女子会には俺も参加すると言った。

 俺が女装するのだと言うと、鷹が大笑いした。


 「楽しみです!」

 「おう!」


 そういえば、院長も楽しかったと言っていた。

 どうするか。






 俺は難しいことを考えるのをやめ、鷹との静かな時間を満喫した。 

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