再び、御堂家 XIII
翌朝。
俺の部屋には柳、亜紀ちゃん、双子が寝ている。
双子が両脇にいる。
夕べ、「俺を守れ!」と言い、双子が頑張ってくれた。
眠っていると、本当に天使のようにカワイイ。
俺はそっと起き、庭に出た。
まだ6時だ。
正巳さんがいた。
「おはようございます」
「ああ、石神さん。随分と早いね」
もう調子は良さそうだ。
二人で縁側に座った。
「ああ、そうだ! 石神さんに蔵を見せると約束した」
「いいえ、お忙しかったんですから。また来た時にお願いします」
「そうはいかん。そうだ、蔵の中に気に入ったものがあったら持って行ってくれ」
「そんなわけにはいきませんよ」
しかし正巳さんは聞かず、家の中から蔵の鍵を持って来られた。
もちろん、何ももらうつもりはない。
「他の蔵は、本当にいらないものばかりなんだ」
そう言って、一番左の蔵を開けた。
南京錠ではない。
最新のディンプルキーと、暗証番号を入れるキーボックスもついている。
分厚い鋼鉄の扉を開けた。
入り口には甲冑や大きな壺などが並べられている。
奥の棚には、皿や小さな壺類や花器など、日本人形などもある。
前に一度御堂に案内してもらっているので、大体のことは分かる。
しかし、改めて見ると、やはり素晴らしい。
日本のものだけではない。
西洋の陶器類も多い。
二階には絵画類があったはずだ。
俺は一通り見た後で、二階の階段へ上ろうとした。
上から何かが落ちて来た。
天井の梁からだ。
咄嗟に受けると、大振りの日本刀だった。
錦の刀袋に入っていたが、すぐに分かった。
「お怪我はないか!」
正巳さんが驚いて駆け寄って来た。
「大丈夫ですよ。びっくりしましたねぇ」
俺は正巳さんに日本刀を渡した。
「こんなもの、見たことが無い」
正巳さんは刀袋から取り出し、じっくりと観察した。
「梁の上にあったようですね」
「そうか」
袋は埃を被っているが、中は綺麗だった。
それにしても大きい。
「よろしいですか?」
俺は受け取って抜いた。
四尺(約120センチ)以上ありそうだ。
130センチほどか。
普通の太刀が三尺(約90センチ)なのに対し、「大太刀」と呼ばれるものだ。
肉厚で、峯は13ミリほどもある。
目でサイズが分かるのは、外科医の倣いだ。
柄は革巻の実戦的なしつらえだった。
鞘は黒漆で、北斗七星を模したような銀の点が打ってある。
何よりも刀身の波紋が美しい。
刀身にも、北斗七星があった。
「見事な大太刀ですね」
「うむ」
正巳さんも驚いている。
「映りが素晴らしい」
「鎌倉ですかね?」
「うん、そうだと思う」
俺たちは興味を持ち、家の座敷に移った。
正巳さんが道具を持って来て、俺が目釘を抜いた。
銘を確認するためだ。
「虎王」とあった。
「知らない銘ですね」
「わしも知らん」
目釘を戻し、刀身を鞘に納めた。
「石神さん、これをもらってくれないか?」
「そんなことできませんよ! こんな素晴らしい刀は御堂家の大事なものです」
俺は固辞した。
とてもじゃないが、こんな素晴らしいものはいただけない。
「しかし、私たちも知らないものだ。あんなことがあったのは、石神さんに渡るような采配だろう」
しばらく問答したが、押し切られた。
正巳さんは、俺に何かがしたかったのだ。
それに、俺がすっかり惚れ込んでしまった。
まだまだ修行が足りん。
御堂に自慢しに行った。
「おい、これを見てくれ!」
御堂が何事かと見る。
「正巳さんからいただいたぞ!」
「そうか」
いつもながらに動じない。
「本当にもらっていいのかな?」
「親父がそう言ったんだ。どうかもらってくれ」
俺は今朝の蔵での出来事を話した。
「そうか。僕も知らなかったよ。でも、親父の言う通り、これは石神の手に渡るようになってたんじゃないかな」
「そうかぁー?」
俺は満面の笑みで御堂を見た。
御堂が笑った。
「何にしても、少しは石神に喜んでもらえて嬉しいよ」
「じゃあ、本当にもらっちゃうからな! 後で返せなんて言うなよな!」
御堂は笑って頷いた。
俺は「虎王」を持ったまま部屋に戻った。
「お前ら、起きやがれぇ!」
子どもたちを蹴って起こす。
「さっさと掃除を始めろ!」
「「「はい!」」」
柳が眠そうで、布団を顔まで被る。
俺は下をめくって、浴衣を拡げてパンツの尻に抱き着いた。
「なにすんですかぁー!」
「柳、お前のお尻はいい匂いだぞ!」
「ばかぁー!」
「あれ、タカさん何持ってるんですか?」
亜紀ちゃんが気付く。
俺はみんなを座らせ、今朝の出来事を話した。
「へぇー、良かったですね」
「うん!」
ニコニコした俺を、みんなが笑った。
部屋の掃除をし、朝食をいただいた。
御堂がオロチに卵を置いてきたと言った。
「毎朝二つ出そうかと思うんだ」
「いいんじゃないか?」
俺は無責任にそう言った。
ヘビに聞いてくれ。
朝食を終え、子どもたちは家の掃除をさせてもらう。
元気に働く子どもたちを、正巳さんが見ていた。
「ああ、これでしばらくまた見られないのか」
「また来ますから」
「必ず来て下さい」
「はい」
車に荷物を積み込み、またたくさんの卵をいただいた。
御堂家の全員が見送りに出てくれる。
「石神、本当にありがとう」
「ばか、俺とお前にそんなことはねぇ」
「うん、そうだね」
「それより、本当にうちに来てくれよな」
「ああ、約束だ」
「石神さん、また別荘で」
「え?」
「またぁ! やるとは思ったけどぉ!」
俺は笑って、柳に待ってると言った。
正巳さんに刀の礼を言い、菊子さんとも挨拶する。
「正利、またあんまり話せなかったなぁ」
「今度は是非」
「ああ、絶対な」
「タカさん、今回も大変でしたね」
「「も」って言うな!」
助手席で亜紀ちゃんが笑う。
「「大暴風の虎」とかどうです?」
「だから二つ名癖をやめろって」
「大暴風と雷鳴っていいじゃないですか!」
「皇紀はどうすんだ?」
「うーん、「無傷の皇紀」とか?」
「お前らで散々傷を作っただろう!」
亜紀ちゃんと双子が爆笑した。
「それでルーとハーは?」
俺も少し乗って来た。
「破滅の双子」
「お、なかなかいいな!」
双子が喜んでいる。
サービスエリアで楽しく昼食を食べていると、俺のスマホが鳴った。
ウンコが震えている。
斬だ。
「なんだよ、今食事時だろう。お前のウンコなんか見せんじゃねぇ!」
俺はスマホを手で覆い、子どもたちに「死ね」と言えと言った。
「「「「死ね!」」」」
『危ないのはお前だぞ』
斬が無視して言う。
「どういうことだ」
『蓮華がお前のところへ向かった』
斬が話し始めた。




