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星の家族:シャルダンによるΩ点―あるいは親友の子を引き取ったら大事件の連続で、困惑する外科医の愉快な日々ー  作者: 青夜


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再び、御堂家 Ⅸ

 風呂から出ると、亜紀ちゃんが待っていた。


 「あの、タカさんの好物を聞いてなかったって。菊子さんも澪さんも大慌てで私に聞いてきて欲しいって」

 「そんなものなぁ。俺は何でも喰う人間だからなぁ」

 「そんなぁ、私が困ります。何でもいいから言って下さい」

 亜紀ちゃんが泣きそうだ。

 いきなり戦場のような現場にあてられている。


 「今作ってる料理がそれだって言っておいてくれ」

 「ダメですよー! 私、ウソが苦手なんですからぁ」

 「うーん」

 「あ! 栗ご飯! タカさん大好物じゃないですか」

 「そりゃそうだけど、今は季節じゃないから無理だろう」

 「でもそれしか思いつきませんから。とにかくお話ししてみます」

 「ああ、無理ならまた今度喰いに来ますからって言ってくれ」

 「分かりましたー!」


 「みんな忙しそうだな」

 「そうですね」

 「お前、何とも思わんのか」

 「え、ほら、台風の目ってあるじゃないですか」

 「ちょっとヨメは考え直そう」

 「そんなぁー!」

 何となく座敷で冷たいものをと思ったら、御堂が戻っていて電話中だった。


 「はい、そうですか。すいませんでした」

 「あ、石神! 栗ご飯だよな、絶対に作るからな!」

 「いや別にいらないよ。今日は豪勢な食事なんだろ? 栗ご飯なんて合わないよ」

 「ダメだ。絶対に作るからな!」

 俺は居場所がなくなり、縁側に行った。

 柳に冷たい麦茶を頼む。

 一息ついていると、ふと思い立った。


 「柳、すぐ戻るからここにいてくれな」

 「え、はい」

 俺は自分の部屋の荷物から、小さなケースを取り出した。

 中には試験管に入った銀色の粉末がある。

 ダイヤモンドカッターで「α」を削り取った時に出たものだ。

 何かに使えるかもしれないと、一応持って来た。

 厨房で澪さんにまた卵をもらった。


 「オロチ様のためなら、いくらでも!」


 形相が違った。

 俺はまた縁側に行き、卵を割って、粉末を少し入れた。


 「おーい! これ喰ってもあんまり大きくなるなよな。そこにいられなくなるからな。御堂の家を守ってやってくれ」

 呼びかけて去った。





 縁側に戻ると、柳が微笑んで迎えてくれた。


 「なんか疲れましたね」

 「お前、なんにもしてねぇじゃん」

 二人で笑った。


 「柳、ちょっと膝枕してくれ」

 「喜んで!」

 二人とも浴衣を着ている。

 柳はいい匂いがした。

 俺はいつの間にか眠った。


 「タカさん、用意が出来ましたよ! 起きて下さい」

 亜紀ちゃんが呼んでいた。

 目を覚ますと、柳が微笑んでいた。

 綺麗な顔だった。





 亜紀ちゃんが案内してくれ、座敷に入る。

 襖がすべて取り払われ、大きな会場になっていた。

 御堂家の人間だけではない。

 恐らく来れるだけの親戚が集まっているのではないか。

 俺は御堂に席まで連れていかれ、上座の中央に座らされた。

 両脇に正巳さんと御堂が座る。


 とんでもないことになった。

 俺はひっきりなしに酒を注がれ、礼のようなものを言われる。

 正巳さんは終始上機嫌で、何度も俺に感謝していると言う。

 御堂もいつもとは違う笑顔を浮かべている。

 子どもたちもいろんな人間から食事を勧められ、嬉しい悲鳴のようだ。

 澪さんがお櫃を抱えて俺の前に座る。


 「石神さん、急なことであまりご満足できないとは思いますが」

 栗ご飯だった。

 俺は茶碗のそれを一口食べ、美味しいですと言った。

 正巳さんがまた喜んでくれる。

 俺は栗ご飯を掻き込みながら、なんとかしなければと思った。

 このままでは、子どもたちの前で酔い潰される。


 「御堂、ちょっと歌いたいんだけどな」

 「ほんとか! 是非頼む」

 「ちょっとエレキはないかな」

 「よし、分かった!」

 御堂は席を立ち、親戚の中に入って行く。

 一人が駆け出していった。

 15分もかからずに、エレキギターを持って戻って来た。

 後ろから、息子だろうか。

 アンプを抱えてくる。

 俺はセットしてもらったエレキを持って調弦した。

 みんな俺を見ている。


 蛇にちなんだ歌。

 思いつかないので、ホワイトスネイクを演奏する。


 『Fool for Your Loving』

 『Love Ain't No Stranger』

 『Lobe to Keep You Warm』


 適当に選び、歌って一番後ろの柳と正利の席に逃げる。

 拍手が沸き、俺は後ろから礼を言った。

 上座は正巳さんを中心に盛り上がっている。

 御堂が任せろと、手を振ってくれた。


 「あー、助かったぜー」

 「お疲れ様です」

 柳が言ってくれた。


 「ヘビを可愛がったら、まさかこんなことになるとはなぁ」

 「アハハハ」

 正利が笑う。

 俺は二人のジュースを分けてもらった。

 俺は正利に子どもたちを呼んでもらった。

 料理の膳を持って来てくれと言う。


 いつの間にか、宴会は演芸大会になっていった。

 みんなが歌い、何かの芸を始める。

 誰のせいかは知らん。

 まあ、騒げばそれでいいんだろう。

 祝いとは、そういうものだ。

 子どもたちが来たので、俺を囲んで隠せと言った。

 みんな笑いながらそうしてくれる。


 「みんなちゃんと喰ってるか?」

 「「「「はーい」」」」

 「まあ、1ミリも心配はしてねぇがな」

 みんなが笑う。

 女性たちがたびたび料理を置いて行ってくれる。

 子どもたちが口に指をあててくれるので、笑いながら去って行った。

 演芸も一段落し、正巳さんの大きな声が聞こえる。


 「石神さんがな、呼びかけた! そうしたらな! 顔を出したんだよ、オロチが!」

 何十回目かの説明が聞こえた。

 もう十時を過ぎ、4時間も宴会が続いている。

 何人かは酔いつぶれ、別な部屋に移されていた。

 俺は一応覗き、大事ないことを確認する。

 女性たちに、横向きに寝かせるように言った。

 時に、吐瀉物が気管を塞ぐこともある。


 子どもたちを順に風呂に入れた。

 大丈夫だろうが、酔った人間もいるので、風呂場の前で待つ。


 「早めに入って良かったですね」

 「そうですね!」


 風呂から出たハーが言った。


 「タカさん、カレーは?」

 「あー」

 柳が笑った。




 その夜はみんなに布団を持ってこさせ、俺の部屋で寝た。

 柳も一緒に寝た。

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