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星の家族:シャルダンによるΩ点―あるいは親友の子を引き取ったら大事件の連続で、困惑する外科医の愉快な日々ー  作者: 青夜


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再び、御堂家 Ⅵ

 正利と皇紀が一緒のテーブルにいる。


 「おう! 正利、今日も一緒に風呂に入ろうな」

 「はい! お願いします」

 「正利! 今日はダメよ」

 柳が来た。


 「今日は石神さんは私たちと一緒に入るんだから!」

 「私たちって?」

 「私と亜紀ちゃん! 石神さんのお宅へ行ってからずっとそうなんだからね」

 「そうなの?」

 正利は動じない。

 さすが御堂の息子だ。


 「じゃあ、石神家の関門を潜ってからだな」

 「なんですか、関門って?」

 「ルー! ハー!」

 そろそろ満腹している二人を呼んだ。


 「なーに、タカさん!」

 俺が大声で呼んだので、みんなが見ている。


 「「高い高い」をやるぞ! みなさんにお前らの華麗な技を見せろ!」

 「「ハーイ!」」

 まず、ルーを投げ上げる。

 30メートルは飛んだ。

 頂点から、伸身新月面宙返りを決める。

 驚きの声の後に、拍手が沸いた。

 続いて、ハーを投げ上げる。

 先にルーの技を見ていたハーは、後方伸身2回宙返り3回ひねり下り(フェドルチェンコ)を見事に決めた。

 盛大な拍手に、双子は満足そうだ。


 「よし! 柳!」

 「え?」

 「お前はどんな技を見せてくれるかなー」

 「やめてぇー!」

 「おい、来いよ」

 「おとーさーん!」

 みんなで笑った。


 「正利!」

 「は、はい!」

 「やってみるか?」

 「はい!」

 俺は必ず受け止めるから、と言った。

 澪さんがおろおろしているが、御堂が大丈夫だと言った。


 「高い高いー!」

 正利を投げ上げる。

 20メートルはある。

 俺は落下した正利に向かって跳び、10メートルほどで抱き寄せた。

 そのまま伸身で後ろ宙返りをし、地面に降りる。

 全身のバネを使い、正利にショックはない。


 「うわー、びっくりしました」

 「お前、それだけかよ」

 みんながまた笑った。


 「石神さん、私も!」

 「もう遅ぇ! 俺を信じてくれないとは悲しいぜ」

 「そんなぁー!」

 「お前を嫁にと思った俺がバカだった」

 「いしがみさーん!」

 「あんまり柳をいじめないでくれ」

 御堂が言った。


 「じゃあ、しょーがねーな!」

 「もーう!」

 俺は不意打ちで柳を投げ上げた。

 30メートルは上げる。


 「キャッーーーーー!」

 正利と同じく空中で受け止め、二回転して降りた。


 「なにするんですかぁーーー!」

 「お前! やりたいって言ったじゃんかぁ!」

 「いきなりやらないでくださいー!」

 みんなが笑った。

 俺は柳の頭を撫でてやる。


 「またウンコ漏らしたか?」

 小声で聞いた。


 「漏らしてませんー!」

 柳は大声で叫んだ。





 子どもたちも満足したようだ。

 バーベキューセットを片付け、子どもたちが澪さんに聞きながら食材を仕舞って行く。

 テーブルを二つ残し、椅子を集めた。

 澪さんがワイルドターキーと氷、水を持って来る。

 俺の好きな酒を知っている。

 俺はバーベキューの残りを集め、皿に盛った。

 俺はみなさんに水割りを作って行く。

 菊子さんは、薄めにとおっしゃった。

 しばらく話しながら飲んでいると、柳と亜紀ちゃんが来た。


 「エヘヘヘ、私たちも飲んでいいかな?」

 柳が言う。


 「バカ! 何かお子様用のものを持ってこい!」

 「はーい」

 「ああ、柳! ギターを持って来てくれ」

 「じゃあ、僕も一緒に行こう」

 御堂が言った。

 二人が帰って来た。

 柳が俺にギターを。

 御堂はヴァイオリンを抱えていた。


 「お、じゃあ久しぶりに俺のテーマ曲をやってくれよ!」

 「タカさんのテーマ曲?」

 亜紀ちゃんが不思議そうに言う。


 「しばらく弾いてないからね。ちょっと我慢してくれ」

 御堂は調弦し、弾き始めた。


 バッハ『無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ:第2番終曲シャコンヌ』


 みんな黙って聴いた。

 物悲しくも朗々と響く美しい旋律。

 溢れ出る「人間」の悲痛が、力強く拡がって行く。

 再び、最初の悲しみの出発に戻り、苦悩が尽きないことが示される。

 しかしその後に神の楽園の世界が覆い、「人間」が歓喜の中で舞い踊る。

 最初の悲しみの出発が奏でられるが、既に人間は神の楽園を知っている。

 故に悲しみはもう悲しみではなくなる。

 

 いい演奏だった。

 みんなで拍手した。


 柳が俺の耳元で囁く。

 「お父さんね、石神さんがいらっしゃると決まってから、毎日練習してたの」

 「柳!」

 御堂が言う。

 俺たちがクスクス笑っていたので気づいたのだろう。


 「私もテーマ曲が欲しいな」

 「柳さん! 私はもうあるんですよ!」

 「亜紀ちゃん、そうなの?」


 『亜紀ちゃん大好きソング』を歌う。

 みんながニコニコする。


 「これね、タカさんが作ってくれたんですよ!」

 「へぇー!」

 「石神さん! 私にも」

 「やだ」

 「なんでぇー」

 「別に大好きじゃねぇし」

 「そんなぁー!」

 俺は笑って、今はこれで我慢しろと言った。


 エスタス・トーネの『The Song of the Golden Dragon』を弾いた。


 また大きな拍手をもらう。

 柳が抱き着いて来る。


 「うっとうしいな、お前!」

 御堂と澪さんが笑って見ていた。

 しばらく話したり、俺や御堂が演奏し、楽しく過ごした。

 正巳さんと菊子さんが「そろそろ」と言って家に入った。

 澪さんも休ませてもらうと言った。


 「お前たちも行けよ。俺は御堂とまだ話すから」

 柳はいたがったが、俺と御堂の仲に割って入ると俺が怒るのを知っている。

 おとなしく下がった。




 「柳は少しワガママに育ったな」

 「そんなことはないだろう。あれは素直って言うんじゃないのか?」

 「ありがとう」

 「柳はカワイイよ。それにちゃんと人の痛みが分かっている。お前たちがちゃんと育てたからだろうよ」

 「石神にそう言ってもらうと安心するよ」


 「あの子どもたちの技は「花岡」なのか?」

 「ああ。あそこまで今日見せる気は無かったんだがな。庭で遊んでいるところを澪さんに見られてしまった。済まない」

 「いやそれはいいんだ。みんなにも見せておいた方がいいと思う」

 「亜紀ちゃんのはとにかく派手だからな。今日はやめた」

 御堂は少し笑った。


 「柳は亜紀ちゃんと仲良くなってくれたなぁ」

 「そうだね」

 「ああ、それとうちの看護師の六花という奴とも仲良くなったんだ」

 「響子ちゃんの専任だね?」

 「うん。六花は人嫌いってわけでもないんだが、なかなか親しい人間を作らないんだよ。でも柳のことはすぐに気に入ったようだ」

 「へぇ、どうしてだろう」

 「あいつはバカな分、勘のいい奴でな。今後柳が自分たちと深く関わって行きそうなのを感じたんじゃないかな」

 「そうか」


 「俺の知らないところでなぁ。週間スケジュールを作ってたんだよ」

 「なんだい、それは?」

 「ちょっと前まで俺が付き合ってる女が5人だったんだ。一人は響子な」

 「ああ」

 「だから週休二日制だって言いやがった」

 御堂が笑った。


 「それから一人増えて、「じゃあ週休一日になりましたね」って」

 「アハハハハ!」

 「それで今回柳を紹介したら、もう気に入っちゃって、いきなり「柳さんは何曜日にしますか?」って聞くんだよ」

 御堂は大笑いしている。


 「あいつら、勝手に相談して曜日まで決めてんの。冗談じゃねぇよなぁ」

 「それで柳は?」

 「ああ、「じゃあ水曜日で」ってさ」

 御堂は身体を曲げて笑った。


 「おいおい、お前止めてくれよ。ああ、そうだ。亜紀ちゃんも入れると「1日は3Pですね」ってさ」

 「石神、もう勘弁してくれ」

 「それは俺が言いてぇよ!」


 俺たちはしばらく話し、家に入った。

 柳と亜紀ちゃんが待っていた。


 「遅いですよ、石神さん!」

 「今日は御堂と入るぞ?」

 「「えぇー!」」

 「流石に御堂のオチンチンはダメだろう!」

 「あんなに硬くしたくせにぃ」

 「おい、柳!」

 御堂がまた笑った。


 俺と御堂は先に娘たちを入れ、最後にゆっくりと入った。







 「お前の身体は傷だらけだな」

 「みんな同じことを言うんだけどな。そんなの見りゃ分かるだろう」

 「そうだね」

 御堂は悲しそうに笑った。

 俺は親友のその顔に、申し訳なさと感謝を感じた。

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