表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星の家族:シャルダンによるΩ点―あるいは親友の子を引き取ったら大事件の連続で、困惑する外科医の愉快な日々ー  作者: 青夜


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

390/3163

再び、御堂家 Ⅳ

 翌朝、朝食にあの「卵」がついていた。

 子どもたちが大喜びし、菊子さんを微笑ませた。

 幾らでも食べて下さいと菊子さんが言ったが、俺は二個までと断った。

 

 「こいつら、鶏まで喰っちゃいますから」

 菊子さんが笑った。


 部屋の掃除と布団干しは、既に済ませていたようだ。

 食後に幾つかの部屋の掃除をさせてもらい、あとは勉強をさせてもらった。

 洋間のテーブルを借りた。

 柳と正利も、そこで一緒に勉強した。


 今晩はバーベキューということだったので、俺は御堂に頼んで食材の買い物に澪さんを乗せて出掛けた。


 「柳はいかがでしたか?」

 「子どもたちと仲良くしてくれましたし、何よりも俺の患者の女の子の世話を毎日してくれて」

 俺は響子の話をした。

 奇跡的に生き延び、しかし一生ベッドでほとんどを過ごすことも話した。


 「柳は響子の扱いをすぐに覚えてくれて。本当に助かりました」

 「そうでしたか」

 澪さんは、俺がやった響子の手術のことを知っていた。


 「主人が言っていました。あれは本当は成功するものではなかったのだと。でも石神さんは、医者の仕事を喪うのを分かっていて踏み切ったのだと。「あいつは本当にあいつだ」と言っていました」

 「そうですか」

 

 うふふふ。

 澪さんが突然笑った。


 「夕べね、柳から石神さんのお宅でのことを聞きましたの」

 「え?」

 「本当に楽しそうにね。いろいろ連れて行ってもらって。美味しいお寿司をご馳走になって。ああ、その後でウソのプロポーズをされたんだって」

 澪さんが楽しそうに笑った。


 「いや、あれはですね」

 「毎日一緒に石神さんとお風呂にも入ったんだって。本当は二人で入りたかったけど、恥ずかしかったから亜紀ちゃんが一緒で嬉しかったそうですよ」

 「そーですか」

 顔が赤くなる。


 「もちろん毎日断ったんですよ? でもあいつらが強引に」

 「アハハハハ」

 「うちはあんなに行動的な人間はいませんの。石神さんのお陰ですね」

 「そ、そんな」

 「よく主人の電話が鳴ると飛んでくるんです。石神さんの電話じゃないかって」

 「ああ、よく柳が電話の向こうで騒いでますね」

 「ええ。私あんまり詳しくないんですけど、あの、着信? 主人に頼んで、石神さんの着信は別な音色にして欲しいって頼んで。主人も笑ってそうしたみたいです」

 「それでよく柳がいるんですね」

 

 「大学に受かったら、石神さんのお宅に住まわせてもらうんだって言ってます。ご迷惑ですよね?」

 「いいえ。うちは部屋が余ってますし、柳なら大歓迎です」

 「でも」

 「食費とかなら、ご覧になったでしょ? 全然、何の問題もありません」

 二人で笑った。


 スーパーに着き、俺たちは大量の「肉」を買った。

 すべて支払いは俺が出させてもらった。


 「主人から石神さんは譲らないだろうって。でも申し訳ありませんわ」

 「いえ、こちらこそお恥ずかしい」

 買占めでもやっているのかと疑われる量だった。

 スーパーの購入担当はきっと頭を悩ませるだろう。


 お茶でも飲んで、という話になった。

 近くの喫茶店に入る。

 俺がクリームメロンソーダを注文すると、澪さんが少し笑った。


 「時々飲みたくなるんですよ。ああ、うちの双子が大好物なんです」

 「そうなんですか。じゃあ買っておかないと!」

 俺は遠慮したが、澪さんはスーパーに戻って、材料を買った。

 昼食の後で、わざわざ作ってくれ、双子が感激した。





 午後は河原に連れて行ってくれた。

 柳が溺れた川だ。

 柳が御堂に話したのだろう。

 正巳さんまで一緒に来た。

 俺のハマーに乗りたがった。

 御堂が二人の男性を一緒に連れてくる。

 釣りが上手い方たちだそうだ。

 正利は塾へ出掛けた。


 皇紀と双子が釣りに誘われ、亜紀ちゃんは柳に連れられて行った。

 正巳さんも釣りに加わる。

 俺は御堂と澪さんとで火を起こす準備をする。

 俺は薪になる枝を拾いに行った。

 腕ほどもある太さの木を手刀で切って行くと驚かれた。


 御堂と澪さんは魚を刺す枝をナイフで揃えていく。

 亜紀ちゃんと柳が戻って来た。


 「タカさん! 全部案内してもらいました!」

 「うるさい」

 「タカさん、すごいです! 柳さんをよく助けました!」

 「お前、バカ!」

 御堂と澪さんが気付いた。

 亜紀ちゃんが、すみませんと謝る。


 「石神、僕たちは忘れたことはないよ」

 御堂が笑って、そう言ってくれた。


 「いや、すまん。子どもに自慢するわけではなかったんだが、つい」

 「いえ、お父さん。私が話したの」

 「お前ら! 罰としてでっかい魚を釣って来い!」

 二人は釣りに行った。


 「8年経ったのね」

 「いや、もうその話は」

 「柳は女らしくなったでしょ?」

 「澪さん」

 「そろそろ恩返ししなくちゃね」

 「なに言ってるんですか」

 御堂が笑っていた。


 「タカさーん!」

 亜紀ちゃんが戻って来る。


 「どうした」

 「なんかみんな全然連れなくて」

 「がんばれ」

 「えー、助けて下さいよー」

 「俺だって釣りは素人だ」

 「だってタカさん動物にモテるじゃないですか」

 「あ?」

 「ほら、ゴールドに祈って! それで来て下さいよ」

 面白そうだ。

 俺はゴールドに魚が喰いたいと言った。

 御堂たちを連れて川に行った。

 

 来た。

 何も見えなかった川面に、魚が集まって来た。


 「なんだ、こりゃ」

 二人の男が驚いている。

 正巳さんも唖然としていた。

 子どもたちは大騒ぎでタモをつかって掬っていく。

 柳と亜紀ちゃんが抱き合って笑っていた。


 「石神さん、これって」

 「実は医者を辞めて漁師になりまして」

 澪さんに言うと、御堂が大笑いしていた。




 鱒が多かったが、ヤマメやアユなどもいた。

 澪さんと亜紀ちゃんが次々と魚のワタを抜いていく。

 アユはそのままだ。

 皇紀と双子はそれを穴を掘って埋めていく。


 「ゴールドの分も埋めてやってくれ」

 俺は鱒を一匹渡した。

 双子は石を積み、手を合わせた。

 魚を焼きながら、俺は御堂家の四人にゴールドの話をした。

 柳が泣いた。


 塩と醤油を塗っただけの魚は、非常に美味かった。

 俺はアユを串から抜き、手で千切って食べた。


 「あ! カッコイイ」

 柳が言う。


 「大将さんが言ってたのは、こういうことかぁ」

 「何言ってんだ、お前」

 柳は御堂に、沼津の寿司屋でのやり取りを話す。


 「うん、石神はいつもカッコイイよね」

 柳がニコニコした。

 俺は二人の釣り人にも魚を勧めた。


 「いえ、私ら何のお役にも立てなくって」

 「何言ってんですか。忙しい中、わざわざ来て下さったんでしょう」

 二人は礼を言い、食べてくれた。


 「お前ら! 今日のご飯はこれでおしまいだからな!」

 「「「「えぇー!」」」」

 「タカさん! イノシシ獲りましょう!」

 亜紀ちゃんが言う。


 「バカを言うな!」

 御堂が笑った。


 「本当に獲れそうだよね」

 「ルー、ハー! 今晩はバーベキューだそうだ。お礼に歌でも歌え!」

 俺の意図を察し、双子はノリノリで『日本印度化計画』を歌う。

 御堂を大爆笑させた。

 正巳さんまで笑って見ている。



 「カレーは明日だよ」

 御堂がそう言い、双子を狂喜させた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ