再び、御堂家 Ⅱ
夕飯までの間、俺たちは御堂家の方々と様々な話をした。
柳はずっと俺にくっついていたが、正利と二人で話したいと言うとやっと離れてくれた。
「よう、正利。元気そうだな!」
「石神さん!」
正利は机に向かって勉強していた。
「すいません。みなさんとお話したかったんですが、予備校の宿題が進んでいなくて」
「ああ、気にするな。お前は跡取りなんだから、大変だよな」
そんなことは、と正利は照れて言った。
「成績がいいそうじゃないか」
「それほどでも。でも石神さんに教わった通りにやってます」
「だったらトップだろ?」
「はい」
俺は正利の頭をグリグリする。
「石神さんが山中さんのお子さんを引き取ったと聞いて驚きました」
「ああ」
「でも、同時に羨ましかったです。石神さんとずっと傍にいられるなんて」
「そうか」
正利のベッドに腰かけた。
何か飲み物をと言う正利を制し、座らせた。
「あいつらは知っての通り、突然両親を喪った」
「はい」
「最初はな、俺も戸惑うことも多かったよ。何しろ俺も子育てなんてやったことないし、こんな性格だからなぁ」
「そんな!」
「まあ、ものの見事にヘンテコな子どもになっちゃったよな」
正利が笑う。
「お前も去年見ただろ? なんだよなぁ、あの大食いは」
「アハハハ」
「それだけじゃねぇ。双子なんて小学校を支配しちゃうし、皇紀はラムジェットエンジンを作って失敗するし。俺は大事なリャドの絵を踏みつぶされるわ借りたフェラーリをぶっ壊されて弁償するわ」
正利は大笑いした。
「まあ、でもとんでもないけど、とんでもなく楽しいな。お前も遊びに来てくれよ」
「はい! 必ず」
俺は皇紀のラムジェットエンジンの話を詳しく話した。
「俺と皇紀がうちで男同士だ。だから他の三人とは分かち合えないものがある。ラムジェットエンジンだって、ほとんど俺たちの夢だけでな。ああ、双子も協力はしてくれたけど、それはお兄ちゃんが大好きなだけでな」
「はい」
「それでいざ実験となったら、女たちは全然興味ねぇ。俺と皇紀だけが大興奮でなぁ」
「分かります」
「お前も御堂を頼むぞ。いざという時に、御堂を手伝えるのはお前だ。傍にいて支えてやってくれ」
「はい!」
「まあ、どうしてうちの子らはお前みたいにまっとうにならないかなぁ」
「それは石神さんですから」
「なにをー!」
俺は正利の頭をグリグリする。
「でもまあ、その通りだよな。俺は御堂みたいにはなれねぇ」
「そうですよ。石神さんは石神さんです」
「そういうことだな!」
「そういえばお前、剣道をやってるんだよな?」
「はい」
「ちょっと後で相手をしてくれよ。俺も最近運動不足だから」
「ええ。でも石神さんは剣道やってましたっけ?」
「俺は何でもできるんだよ!」
二人で笑った。
食事前に、庭に全員が集まった。
正利はジャージに着替え、俺は持って来たコンバットスーツを着た。
モノクロのタイガーストライプだ。
子どもたちにも着替えるように言ってある。
全員同じデザインのコンバットスーツだ。
俺は竹刀ではなく、澪さんにすりこぎの棒を借りた。
「正利! どこからでも来い!」
正利が加減しながら打ち込んできた。
防具が無いためだ。
俺は軽くそれをいなす。
正利は俺の動作を見て、ある程度は打ち込めると判断したようだ。
先ほどとはまったく違う速さで「面」を打ち込む。
俺は紙一重でかわし、正利の胸を突く。
二人のスピードが上がり、打ち込みも強く鋭くなっていく。
俺は正利の攻撃をすべてかわし、正利の頭や胸、腹を突く。
正利が本気で突きを放って来た。
俺は回り込んで竹刀を破壊し、背後から正利の延髄を突いた。
「参りました!」
正利身体を折り、激しく呼吸し、言った。
拍手が起こる。
「悪かった! お前が予想以上に強くて、思わず竹刀を壊してしまった」
正利は顔を上げ、笑った。
「いえ、石神さんは本当にお強いですね」
「いや、剣道ならお前には全然敵わないよ」
「ありがとうございました」
「柳! 次はお前が来い!」
「えぇ! 私剣道なんて」
「ボコボコにしてやるから来い!」
「おとーさーん!」
みんなで笑った。
双子が演武をする。
美しい舞のような動きだが、鋭い突きや蹴りが本格的なものだと伺わせる。
俺と亜紀ちゃんが組み手をやった。
お互いの手足がぶつかるたびに、ガシンという音が響く。
正利に新しい竹刀を用意させ、皇紀に打ち込めと言った。
正利は一方的に皇紀に打ち込むが、すべてかわされた。
「俺たちがここにいる間は、戦争が始まっても大丈夫ですからね!」
みんなが笑った。
汗をかいただろうと、御堂がみんなに先に風呂を勧めてくれた。
俺は皇紀と正利を誘って一緒に入る。
柳がふくれっ面で睨んでいた。
「正利、悪いな。俺の身体は気持ち悪いだろ?」
「いいえ、そんなことは」
三人で身体を洗う。
「やっぱ男同士の風呂はいいなぁー!」
皇紀がそう言う俺を見て笑った。
「石神さんはもちろんですけど、皇紀くんたちも強いですよねぇ」
「ああ。特別な拳法をやってるからな」
「そうなんですか」
俺たちは湯船に浸かりながら話した。
「お前もなかなかのもんだったぞ」
「そうですか!」
「大会でも、結構いいとこまで行ってるんじゃないか?」
「そうですね。県大会レベルだと、上位にいますかね」
「俺たちのは上品なものじゃないからな」
「そうなんですか」
「ああ、実戦を前提にしている」
「!」
「まあ、俺がどうしても憎まれる人間だからな!」
「そんな」
「こいつらにもある程度は強くなってもらわないと。なあ、皇紀!」
「はい!」
「一番強いのは亜紀ちゃんだけどなぁ」
「そうですね」
「そうなんですか!」
「地上部隊なら一蹴できるよな」
「航空戦力だって、じきにですよね」
「なんですか、それ!」
俺と皇紀が大笑いした。
「正利! 早く出なさい!」
「皇紀も早く!」
外で声がした。
三人で一緒に出る。
「おう! 待たせたな!」
「石神さん、もう一回」
「やなこった!」
俺たちは縁側で涼みながら、またいろいろと話した。
皇紀も年の近い正利がいて、いつも以上に喋った。
御堂が呼びに来た。
「親父が待ちかねているんだ。来てくれ」
俺は笑いながら、食事の座敷へ向かった。
さて、今晩の夕食はなんなのか。
非常に不安だった。




