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星の家族:シャルダンによるΩ点―あるいは親友の子を引き取ったら大事件の連続で、困惑する外科医の愉快な日々ー  作者: 青夜


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再び、虎と龍 X

 風呂から上がると、また二人にリヴィングに誘われた。


 「おい、またやるのかよ」

 「「はい!」」

 「明日は仕事なんだけどなぁ」

 「そんなこと言わずに。今日はまだ早いですよ!」

 亜紀ちゃんが乗せてくる。

 まだ10時だ。

 俺はサーモンのカルパッチョを手早く作り、チーズを何種類か切った。


 「タカさんて、本当になんでもパッと作っちゃいますよね!」

 「急がねぇと、俺が喰われる環境だからな!」

 三人で笑った。


 「今日は梅酒はやめて、別なものを飲もう」

 俺は二人のためにミモザを作る。

 ワイングラスに注ぐ。

 自分にはジントニックを作った。


 「昨日の続きで、柳さんの小さい頃ってどうだったんですか?」

 「えー! 私?」

 「柳が生まれて、俺はしばらく忙しかったからな。会ったのは三歳くらいか」

 「そうですか?」

 「お前、覚えてねぇのかよ! 俺は1歳からちゃんと記憶があるぞ?」

 「「えぇー!」」

 

 「柳は初めての子だったし、まあ可愛がられてたよなぁ。今でもそうだけど、特に正巳さんと菊子さんはなぁ」

 「そうですね」

 「正利はまた嫡男だからな。別な意味で可愛がられているわけだが」

 俺は懐かしく思い出した。


 「御堂の家にも久しぶりだったな。まあ4年くらいだけどなぁ。柳は人見知りがすごかったよな」

 「覚えてません」

 「でもすぐに仲良くなったな。一緒に寝て、朝起きてプロレスの技をかけてやった」

 「石神さんて、ほんとにいつも」


 「「おとーさん! 石神さんがパンツ脱がせるよ!」って言われて焦った」

 「えぇー! そんなことしたんですか?」

 「もちろん、脱げちゃったんだよ! 御堂も見てたからな! あいつはまた笑ってたっけ」

 「アハハハ!」


 「何度か行ったけどな。いつもお前が俺に抱き着いてくれて嬉しかった」

 「そうですよ」



 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■



 柳が小学三年生の時。

 遊びに行った俺のために、御堂家のみなさんが、川に遊びに連れて行ってくれた。

 河原で焚火を起こし、魚などを焼きながら、俺は正巳さんとのんびりビールを飲んでいた。

 御堂は澪さんと一緒に子どもたちを川で遊ばせていた。


 一瞬のことだった。

 正利が深みにはまって、慌てて御堂と澪さんが助けた。

 その後ろで、柳が足を滑らせ、急流に流された。

 身体が何度も沈んだ。


 遠目にそれを見て、俺はすぐに駆け出した。

 今いる中では、俺が一番足が速い。


 「りゅうー! 絶対に助けるから頑張れ! 俺に任せろ!」

 走りながら叫んだ。

 川に飛び込み、柳を追った。

 さらに流れが速くなり、岩場を蛇行する。

 岩に何度も強く打ちつけられながら、やっと柳を捕まえた。


 岸に上がり、気を喪っている柳に人工呼吸を施した。

 すぐに水を吐き、柳が目を覚ます。

 せき込む背中をさすりながら、身体に傷が無いのを確かめた。

 ホッとした

 御堂が走って来る。


 「大丈夫だー! ちゃんと生きてるぞー!」

 ようやく追いついた御堂が俺を見て言った。


 「石神! お前、血だらけじゃないか!」

 柳を抱き寄せながら、御堂が叫んだ。

 鋭い岩に抉られ、何か所からか激しく出血していた。

 柳の身体にも血がこびりついていた。


 「すまん! 柳の身体を汚してしまった!」

 「何言ってるんだ!」

 柳が血まみれの俺を見て、泣いた。


 「柳、大丈夫だよ。どうか怖がらないでくれ」

 泣きじゃくる柳を御堂が連れて行き、俺は澪さんにバスタオルを巻かれた。

 すぐに救急車が呼ばれたが、五か所を縫っただけで、俺は特段異常はなかった。


 夕方、御堂の家に帰った。


 「すみません。ご迷惑をお掛けしました」

 「冗談じゃない! 石神さん、大丈夫か!」

 正巳さんが俺の両手を持って、座敷に座らせた。


 「大した事ありませんよ。全然平気です。柳は?」

 「ああ大丈夫だ。今はショックを受けて寝ているけどな」

 「親父、石神は40針も縫ったよ。深い傷もあった」

 「おい、大丈夫だって!」


 「石神さん、ありがとう。君のお陰で柳は無事だった」

 「とんでもありません。御堂よりも少し早かっただけですよ」

 澪さんがお茶を持って来てくれた。

 

 「石神さん、本当にありがとうございました」

 澪さんは泣いていた。


 「何にしても、今日は早く休んだ方がいい。食事はできるかね?」

 「今日は流石にちょっとだけ疲れましたかね。このまま寝ていいですか?」

 「もちろんだ」

 俺はその晩高熱を出した。

 様子を見に来た御堂が発見した。



 


 翌日の昼に目を覚ました。

 喉が猛烈に渇いていた。

 枕元に水が吸い飲みに入れて置いてあったのを見つけ、一気に飲む。

 御堂が調整してくれていたのだろう。

 水分が一気に身体に染み渡るのを感じた。


 背中を小さな手が触れた。

 振り向くと柳だった。


 「身体に触ってはいけないと言われたの」

 「なんでだ? 俺は柳に触られると気持ちいいぞ」

 「そうなの?」

 「ああ、いっぱい触ってくれ」

 柳は嬉しそうに笑った。

 再び横になった俺の顔に手を触れる。


 「石神さんの声が聞こえたの」

 「そうか」

 「俺に任せろって」

 「そうか」


 「ありがとう」


 「怖かったろう?」

 「うん。でも大丈夫だと思った」

 「お前は強いな!」

 二人で笑った。


 襖が開いた。


 「今、笑い声が聞こえて」

 澪さんが顔を出した。

 御堂が病院へ移送するために出掛けていると聞いた。

 俺はもう大丈夫だからと断った。


 まだ熱はあるが、峠は越えたことを経験で分かっていた。

 雑菌が入ったのだろう。

 深い傷口までは消毒しにくい。

 また既に体内に菌が入っていたのだと思う。

 それはすべて駆逐しつつある。

 澪さんが畳に座り、深々と頭を下げた。


 「もう、本当に大丈夫ですから」

 「でも、深い傷を幾つも」

 俺はシャツを脱いで見せた。

 昨日縫った傷の他に、またそれ以上の傷が数多くある。


 「ね、元々こんなですから! 柳のための傷なら何百だって嬉しいですよ!」

 「石神さん!」

 「あ、柳、気持ち悪かったな!」

 柳が抱き着いてきた。


 「悪い、まだちょっとだけ痛ぇわ」

 澪さんが笑った。

 柳は泣いていた。


 座敷で食事をいただいていると、御堂が戻って来た。

 みんなが集まってくるので、俺は気恥ずかしくなった。

 立ち上がって『若鷲の歌』を歌った。

 途中で貧血を起こし、座ってしまった。


 「まったくお前は」

 御堂が支えてくれる。






 「お前が支えてくれれば、いくらだって歌うぞ!」

 みんなにバカだと思って欲しかった。

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