再び、虎と龍 Ⅷ
日曜日。
俺はまた10時頃に起きた。
夕べは5時まで騒いだ。
「タカさん、おはようございます!」
亜紀ちゃんが元気よく挨拶してくれる。
「「「「おはようございます!」」」」
柳も起きていた。
俺は卵かけごはんを食べた。
「やっぱり最高だな、柳!」
「うれしいです!」
「褒めるとまた送られるから困るんだけどな。でもやっぱり美味い。卵が絶品なのもそうだけど、他に送ってくれる食材も最高だよなぁ」
「みんな一生懸命に作ってくれてますから」
実質的に、御堂の家は小作農のままだ。
しかし、御堂家のためにと、みんなが懸命に働いている。
「タカさん、今日のご予定は?」
亜紀ちゃんが聞いてきた。
「今日は六花と走る予定だ。柳はどうする?」
「よろしければ、響子ちゃんと遊びたいんですけど」
「ああいいぞ。じゃあ悪いけど、タクシーで行ってくれ。病院で待ち合わせよう」
「いいえ、電車で行きますよ」
俺は無理にタクシーで行かせる。
亜紀ちゃんが手配した。
俺はライダースーツに着替え、ドゥカティを出す。
「大きいバイクですね」
「いいだろう!」
「はい!」
「ちょっと乗ってみるか?」
「ダメですよ! 昨日の六花さんの泣き顔を見たら、1秒だって乗れません」
俺は笑って柳の頭を撫でる。
タクシーが来たので、俺は先に出た。
「向こうで待ってるからな」
響子の病室には、既に六花が来ていた。
「タカトラー!」
響子が抱き着いて来る。
抱えてやる。
少し重くなった。
ちゃんと成長してくれているのが嬉しい。
「後からまた柳が来るぞ」
「うん!」
「響子と一緒にいたいんだと」
「うれしー!」
響子がニコニコしている。
「響子ちゃん!」
柳が来て、響子が抱き着く。
「リュウ、また来てくれて嬉しい」
「うん。今日はまた一緒に遊ぼうね!」
俺は柳に、響子のスケジュールを話した。
昼食は響子と同じく、オークラのものが柳の分も届くこと。
昼食後は、響子は少し寝ること。
起きた頃に、俺たちも戻ると言った。
「響子が寝ている間、お前も少し寝ろよ」
「はい。でもここでいいんでしょうか?」
「俺の部屋を貸してやる」
俺は案内し、窓のロールカーテンを降ろした。
「これで外から見えないからな。警備の人なんかには話しておくから」
「はい、ありがとうございます」
柳は目を輝かせて俺の部屋を見ていた。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
「響子ちゃん、セグウェイに乗ろうか?」
「うん!」
響子は柳を屋上へ案内した。
響子は石神から指定された乗っていい場所以外では、セグウェイを引いて歩いた。
それを見て、柳が持ってやる。
「へぇー、ここはいいねぇ」
「エヘヘ」
二人で走る。
三十分が経ち、柳は石神に言われた通りに、響子を部屋へ戻した。
ベッドに寝かせると、響子は喉が渇いたと言った。
柳はテーブルで常温になっている紅茶を響子のために注ぐ。
「おいしい」
響子がニコニコして言った。
日曜日は誰もいない。
しかし、今日は柳がいるのが嬉しい。
「リュウ! タカトラを見よう!」
「え?」
響子はタブレットを操作し、石神の動画を次々に柳に見せてやった。
「あー!」
柳は響子の隣に座り、一緒に楽しんだ。
看護師が食事を運んできた。
「柳さんね? 石神先生から伺っています。今日は響子ちゃんを宜しくお願いします」
「はい! すみません、運んでいただいて」
「いいんですよ。終わった頃に、また下げに来ますね」
「はい」
響子と向かい合わせで、テーブルで一緒に食べた。
魚介のリゾットとサラダ。
ポルチーニと細切りのササミのマリネがあった。
柳のものは、響子よりもずっと量が多い。
どれも美味しかったが、デザートの烏骨鶏のプリンがまた良かった。
「このプリンが大好きなの!」
「うん、美味しいね!」
響子はサラダとマリネを少し残した。
リゾットは完食している。
看護師が食器を下げに来る。
響子の食欲を褒め、ボードに記録し、写真を撮る。
歯を磨かせ、響子をベッドに寝かせてくださいと言い、出て行った。
またタブレットをしばらく見ているうちに、響子が眠そうになる。
「じゃあ、響子ちゃん、また後で」
「うん」
響子はすぐに眠った。
幸せそうな寝顔だった。
柳は石神の部屋へ行く。
「へぇー、ここが石神さんの仕事部屋かぁ」
デスクの上には論文と医学書が積み上がっている。
どれにも付箋が貼ってあり、赤でマークがついている。
英語の論文がほとんどだ。
柳が読もうとしても、専門用語が多く分からない。
雑然としているようで、しっかり片付いている。
部屋の空気を思い切り吸った。
石神が使っている、ペンハリガンのクァーカスの香りがほんのりとする。
柑橘系の気品のある香りだ。
柳は椅子に腰かけ、目を閉じた。
寝不足のせいもあり、すぐに眠りに落ちた。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
「柳、起きろ」
「あ、石神さん」
「よく寝てたな」
「はい」
「じゃあ、響子の部屋にいるからな」
「はい」
洗面所を案内した。
柳が来た。
丁度、響子がモゾモゾし始めた。
「お前にこれを見せたくてなぁ。熟睡してたけど起こした。悪かったな」
「いいえ! カワイイですねぇ」
「そうだろ?」
六花と三人で眺めていた。
三人で顔を近づける。
響子が目を開けた。
「いやぁー」
俺たちは笑った。
六花がウェットティッシュで顔を拭いてやる。
「今日もカワイかったぞ」
「やだぁー」
響子は洗面台で顔を洗い、六花がタオルで拭く。
「そう言えば柳さんに聞き忘れてました」
六花が柳に向かって言った。
「柳さんは何曜日になさいますか?」
「「え?」」
俺と柳は意味が分からなかった。
六花は説明する。
「響子は月曜日がいいと言ってます。これは決まりです。栞さんは火曜日希望だと。鷹さんは金曜日で絶対。これも決まりです。土曜日はもちろん私。これも決まりです」
「おい、お前何言ってんの?」
「石神先生は少し前まで週休二日でした」
「今もそうだけど?」
「いえ、鷹さんが入ってから、週休一日になってます」
「は?」
「今回柳さんが入って、もうお休みはありませんね」
「だから何?」
「残りの水曜日、木曜日で、柳さんと、またお会いしたことはありませんが緑子さん。もしかしたら亜紀ちゃん。ですのでどこかの曜日で3P……」
俺は六花の頭にチョップを入れた。
「「3P」ってなーに?」
響子が聞いてきた。
理解した柳が真っ赤になっている。
「じゃあ、私は水曜日で」
「おい!」
「かしこまりました」
六花は手帳に書き込んだ。
休みの無い俺とみんなで、セグウェイで楽しく遊んだ。
「私は時々ならば3Pでも」
俺は六花の頭にまたチョップを入れた。
でも、ちょっとだけ楽しくなった。




