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星の家族:シャルダンによるΩ点―あるいは親友の子を引き取ったら大事件の連続で、困惑する外科医の愉快な日々ー  作者: 青夜


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斎藤兄弟

 俺はいつも、部下たちよりも遅く出勤する。

 大体10時前後だが、理事なので勤怠に制約はない。


 「おはようございます!」

 「おはよう。 おい、一江!」

 「はい!」

 一江からいつもの報告を聞く。

 一通り終わって、俺は斎藤を呼んだ。


 「斎藤、来い!」

 「はい!」

 一江が出て行こうとするので、俺が引き止めた。


 「おう! お前に会うのが楽しみだって日は、初めてだな」

 「部長、申し訳ありませんでした!」

 「部長、斎藤が何か?」

 一江が不安そうな顔をしている。

 俺は一連の経緯を話してやった。


 斎藤は真っ青になって震え、一江は顔を紅潮させた。


 「斎藤! あんたはぁ!」

 「まあ待て一江。お互い子どもたちが発端だ。何かあったわけじゃねぇしな」

 「でも部長」

 「斎藤、弟はちゃんと説得したんだろうな?」

 「はい! お前にはとてもじゃないけど相手にならないと教えました」


 「ダサい説明だな。それで諦めたのかよ?」

 「大丈夫だと思います」

 「一江、お前どう思う?」

 「全然ダメだと思います」

 「そうだよなぁ。おい斎藤、今晩弟を連れてうちに来い。何時になる?」


 「え、はい! 弟をここへ呼びますので、部長に同行できます」

 「お前らと一緒に歩きたくねぇよ。後から来い」

 「分かりました!」

 「よし、二人共いいぞ」

 「「失礼します!」」



 「斎藤! ちょっと来い!」

 一江が斎藤を連れて出た。

 大森もついていく。




 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■




 空いている会議室に三人で入った。


 「斎藤、お前何をやらかしてくれたんだよ!」

 「すみません」

 一江が話し、大森は壁で手を組んで立っている。


 「謝って済む話じゃねぇ。もう部長が動き出したんだ。お前が子ども一人説得できないボンクラだからな!]

 「すみません」

 「最初は部長も笑ってらしたけどな。でもお前が想像以上に不甲斐ないせいで、あんな話になったんだぞ」

 「はい」


 「お前、部長の大事な人間に嫌な思いさせて、タダで済むと思うなよ?」

 「ヒィッ!」

 斎藤は、ようやく事の大きさを実感した。


 「部長が動いたら、あたしらがしてやれることは少ない。お前どうして昨日のうちに相談しなかったんだ」

 「副部長……」

 「弟に言い聞かせたら、それで終わりだと思ったのか?」

 「はい。自分には仲を取り持つ力にはなれないと」

 「お前バカか? お前の力なんてどうでもいいんだよ!」

 一江は呆れかえっていた。


 「お前、まさか弟が亜紀ちゃんと上手くいけばいいとか思ってた?」

 「そりゃ、そうです」

 一江は深いため息を漏らした。


 「大森、こいつはダメだな」

 「ああ。根本がボンクラすぎる」

 「斎藤、部長のお子さんたちはなぁ、お前らが想像してるのとは全然違うんだよ」

 「どういうことっすか?」

 「見てる世界が全然違うのな。毎日宝石を見てる人間が、石ころを綺麗だと思うか?」


 斎藤はよく分からない。


 「あのなぁ。お前、部長と張り合えるか?」

 「そりゃ、無理ですよ」

 「でも、そうできたらいいって思うか?」

 「それはもちろん」

 「大森、こいつはやっぱダメだな」

 「ああ、こないだは「自分も石神組だ」なんてカッコイイこと言ってたけどな」

 

 「あのよ、あたしらの「石神組」っていうのはな。自分が部長みたいになることじゃないんだよ」

 「部長が心底好きで、部長のためにちょっとでも何かしたいってことなのな」

 「はぁ」

 「お前はまだまだだなぁ」


 「すみません」




 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■




 その夜、斎藤は弟を連れて石神の家に来た。


 「にいちゃん、なんだよこの家は」

 「俺たちとは違う方なんだよ」


 玄関で俺は、入れと言った。

 二階のリヴィングに案内される。

 亜紀ちゃんもいる。

 夕食の片づけをしている。

 俺は二人をテーブルに座らせ、途中だったカレーを食べる。


 「おう、食いながら悪いな。お前らも喰うか?」

 二人にカレーを出した。


 「悪いがお代わりはねぇ。こいつらが全部喰ったからなぁ」

 「さて、ああ名前はなんだったっけ」

 「誠二です」

 食後のコーヒーを亜紀ちゃんが出してくれた。

 もちろん、二人の分もだ。


 「さて、うちの亜紀ちゃんが好きらしいな」

 「はい!」

 「兄貴に諦めろと言われたか?」

 「はい、夕べそう言われました」


 「それで諦めるのか」

 「いいえ! 好きな気持ちは抑えられません」

 俺は笑った。


 「おい、お前よりも根性がありそうだな」

 「いえ、すいません!」

 「誠二、もちろん諦める必要はねぇぞ」

 「ほんとですか!」

 「ああ。お前の言う通りだ。好きな気持ちは抑えられねぇ」

 「やったぁー!」


 誠二は喜ぶ。

 兄の斎藤の肩を叩く。





 「だけどなぁ。付き合っていいという意味じゃねぇ」

 「へ?」

 「お前が亜紀ちゃんを好きなのは構わん。でも、亜紀ちゃんから交際を断られたんだから、もう言い寄るな」

 「そんな!」


 「お前は本当に亜紀ちゃんが好きなのか?」

 「はい!」

 「それはお前の勝手な心だ。亜紀ちゃんには関係ねぇ。そうじゃないのか?」

 「でも」

 誠二は言い淀んでいる。


 「俺はお前たちが嫌いだ。だからぶっ飛ばしてもいいのか?」

 「いえ、それは」

 「誠二、お前はなぁ。ただ自分の思い通りに亜紀ちゃんをしたいだけなんだよ」

 「……」

 「お前は亜紀ちゃんと付き合いたいだけ。楽しくデートして、嫌らしいことをしたいだけよ。違うかよ?」

 「……」


 「亜紀ちゃんが断ったのは、そういうことだ。断られたんだから、付き合えねぇ、ということよな」

 「はい」

 誠二は小さな声で答えた。



 「でも、別に亜紀ちゃんを好きな気持ちはずっと持ってりゃいいじゃねぇか。その心はお前だけのものだ」

 「はい」

 「なんだ、もう諦めるのか!」

 俺は笑った。


 「斎藤、お前は亜紀ちゃんと弟が釣り合わないからとか言ったか」

 「はい! その通りです!」

 「俺もそう思うが、別に亜紀ちゃんが付き合いたいなら構わんぞ?」

 「タカさん! 私は絶対嫌です!」

 亜紀ちゃんが後ろで言った。

 俺は亜紀ちゃんも座れと言う。


 「誠二、こんなに嫌われちゃって、お前ダサいなぁ」

 亜紀ちゃんが笑っている。

 誠二は俯いている。


 「誠二、お前なんで亜紀ちゃんが好きになってくれないと思うよ?」

 「それは、自分に魅力がないから……」

 「その通りだけどな。だけど、本質を言えばお前がただのワガママだからなんだよ」

 「どういうことですか?」

 「お前は欲しがるばかりで、亜紀ちゃんのために何もしてねぇのな。まあ、できねぇよ。俺がいるんだしな」

 亜紀ちゃんは大きく頷き、俺の背中に抱き着く。

 俺はシャツを脱ぎ、下着も脱いで上半身裸になった。


 「どうだ、気持ち悪いか?」

 「すげぇ……」

 「亜紀ちゃんはなぁ。俺が傷だらけだって言うんだよ。だから俺が大事なんだとよ」

 「はい」

 「お前は全然傷ついてねぇ。誰かのために血を流し、涙を流したことがねぇ」

 「はい!」


 「だからモテねぇんだぁ!」

 俺は大笑いした。

 亜紀ちゃんも笑っている。

 

 「少しは分かったかよ?」

 亜紀ちゃんがシャツを肩にかけてくれた。


 「はい」

 「自分がワガママな欲しがりのガキンチョだって分かったか?」

 「はい」

 「ダサい自分を痛感したか?」

 「はい!」


 「じゃあ、これからどうすんだよ?」

 「はい、自分も男になろうと思います!」

 「そうか」


 「部長!」

 「あんだよ」

 「自分、感動しました!」

 斎藤が立ち上がった。


 「お前はいつもそう言うけどなぁ。俺はこの誠二の方が欲しいぞ」

 「そんなぁ!」

 俺と亜紀ちゃんが笑った。


 「まあ、お前の兄貴も東大医学部を出て、それなりにやってる。俺に殴られ罵倒されながら、何とかしようとしている。お前も兄貴くらいは頑張れ」

 「はい!」





 二人は興奮して帰った。

 まあ、そのうち熱は冷めるかもしれない。

 でも、またいつか思い出して奮起してくれるといい、と思う。


 「タカさん、ありがとうございました」

 「なんか疲れたな」

 「じゃあ、今日はお風呂でマッサージしますよ!」




 「勘弁しろ」

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