皇紀、一泊旅行。 Ⅳ
翌朝、みんなで寝床で遊んだ。
「おい、たまには二人を花岡流で起こしてやれよ」
俺は両脇の双子に言った。
「いたいいたいいたい!」
「やめてぇー! パンツを脱がさないでぇ!」
ハーが栞をひょいと抱えて、俺の胸に乗せた。
「はい、タカさん!」
目の前に「栞」があった。
「やめてくださいぃー!」
亜紀ちゃんとルーが「俺」を見ていた。
「あ、おっきくなったよ!」
「う、うん」
俺は今日も元気だった。
朝食もホテルの人をてんてこ舞いさせ、驚きつつも喜ばれた。
子どもたちもニコニコと味わった。
部屋に戻り、一休みする。
「今日の「偵察」はどうします?」
「なんか、もうめんどくせぇなぁ」
「散歩でもしない?」
栞が言った。
「そうだなぁ」
「だって、折角来たのに全然見てないよ」
「よし、行くか!」
双子も運動不足だろう。
俺は「高い高い」をしてやる。
二十メートルほども投げ上げて、双子は回転しながら着地する。
「……」
栞が呆れて見ている。
亜紀ちゃんが自分で跳ねる。
五十メートル上がった。
「まだ戦闘機戦は無理だなぁ」
「そうですね」
「……」
俺は栞を抱き寄せた。
「たかいたかいー」
「や、やめてくださいー」
栞が俺にしがみついた。
俺たちは笑いながら、森の空気を味わって歩いた。
俺は栞と歩きたいと言い、子どもたちを先に返した。
「双子と何かあったか?」
栞が驚いて俺を見る。
「やっぱり石神くんには分かっちゃった?」
「当たり前だろう。困ってるなら言ってくれ」
「ううん。そういうんじゃないの。あの子たちは私を守ってくれるつもりだから」
「そうならいいんだけど」
まあ、想像はつく。
双子なりに、栞の暴走を防ぐ手段を見つけたのだろう。
あまり感心した方法じゃないようだが、栞が受け入れているなら、それでいい。
俺は栞を抱き締めた。
「石神くん」
「たかいたかいー」
「マジやめて」
笑って俺たちはキスをする。
「本当に困ったら言ってくださいね」
「うん」
「じゃあ、帰ろうか」
栞が俺の手を引き留めた。
「あのさ」
「うん」
「あっちに行こうよ」
「?」
栞は俺を森の中へ引っ張って行った。
下を脱ぎ、木の幹にしがみつき、俺に突き出す。
「恥ずかしいから早く」
俺は笑って挿し込んだ。
ホテルに戻ってのんびりしていると電話が来た。
相川さんのお父さんからだ。
皇紀を乗せる電車の連絡だった。
「皇紀くんから、夕べいろいろお話を聞きました」
「はい?」
「石神先生のことをたくさん聞かせていただいて」
「あいつ、申し訳ありませんでした。つまらない話にお付き合いさせてしまって」
「いえいえ、大変面白くて、こちらから聞かせて欲しいとお願いしました」
「そうですか。ちょっと世間知らずな奴ですので、遠慮を知らなくて」
「とんでもありません。家のことを全部手伝ってくれて、今朝なんか掃除させて欲しいって。驚きました」
まあ、ちゃんとやってたようで安心した。
「本当にお世話になりました」
「こちらこそ、今度、私も石神先生のお宅へ伺っても宜しいですか?」
「いつでもお越し下さい、大したおもてなしもできませんが」
「ではいつか必ず」
「お待ちしてます」
皇紀に電話した。
「あ、タカさん! 丁度電話しようと思ってたんです」
「おい、電車には乗るなよ。迎えに行くからな」
「へ?」
「30分以内に行く。のんびり待ってろ」
「は、はい?」
「おい! 帰るぞ」
「「「「はーい!」」」」
支度は出来ていた。
チェックアウトを済ませ、俺たちはハマーで皇紀を迎えに行った。
嬉しそうに笑っている栞を、双子が両脇で頭を撫でてやっている。
亜紀ちゃんも助手席で楽しそうだ。
駅の外で皇紀が立っていた。
双子が窓から顔を出し、呼ぶ。
「皇紀ちゃーん!」
皇紀が気づき、手を振った。
「どうしてここに?」
亜紀ちゃんが事情を話した。
「バーベキュー、美味しかった?」
ルーが聞く。
「なんでそれを!」
「皇紀はお姉ちゃんの後だからね!」
「なんの話?」
「皇紀、夕べはお父さんと一緒で残念だったな」
「だからなんでそれを!」
みんなで笑った。
「みんなお前のことが心配だったんだよ」
「そうなんですか」
「葵ちゃんたちとエッチなことをしないかってなぁ」
「ああ、なんていう人たち」
「でもなんにも無かったな」
「え? 見てなかったんですか」
「何!」
「夜にトイレに起きたら葵ちゃんとばったり会って」
「「「「「まてまてまてぇー!」」」」」
「庭の椅子に座って、タカさんに教わった通りに」
「「「「「おいおいおい!」」」」」
「あ、最後まではしませんよ。でも葵ちゃんがぐったりしちゃって」
「た、タカさん!」
亜紀ちゃんが俺の腕を掴む。
泣き顔だ。
スゴイ力だ。
「亜紀ちゃん、落ち着け! まだ大丈夫だ」
「で、でもー!」
「おい、皇紀。そういう夢を見たんだろ?」
「いえ、ほんとのことですが?」
「「「「「ギャァー!!!!」」」」」
「お前! 空気読めぇー!」
車の中は大騒ぎになった。




