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星の家族:シャルダンによるΩ点―あるいは親友の子を引き取ったら大事件の連続で、困惑する外科医の愉快な日々ー  作者: 青夜


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皇紀、一泊旅行。 Ⅲ

 300メートルほど離れた位置で、三つの双眼鏡で覗いていた。


 「あ! バーベキューだよ!」

 ルーが叫んだ。


 「二人の女の子、結構カワイイよね」

 栞が言う。


 「一人の子、オッパイ大きいよ!」

 ハー。


 「「襲撃しよう!」」

 俺は双子の頭をはたく。

 俺と亜紀ちゃんは、双子から双眼鏡を取り上げた。


 「ちゃんとやってますね」

 「そうだな。楽しそうだ」

 「よし! じゃあまた夜に来よう!」

 「「「「はい!」」」」


 後ろで、皇紀の美しい歌声が聞こえた。

 俺は笑いながらハマーに戻った。





 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■





 こんなに落ち着いて食べられるバーベキューは、初めてだった。

 二方向からくる、油断すると骨がひしゃげるような攻撃もない。

 手が吹っ飛びそうな回し蹴りを放って、高らかに笑う鬼もいない。

 金属の串を太ももに刺されることも、熱々の煮汁をオタマでぶっかけられることもない。

 羽交い絞めにされ、目の前で美味しそうに肉を喰われることもない。

 地面に落ちた肉を皿に入れられ、「さあ、喰え」と脅されることもない。


 みんなが笑って、お肉が美味しいとか、タマネギいらないとか、言っている。


 「一曲、歌います!」

 ささやかな礼のつもりだった。


 『冬の旅』は、大盛況だった。


 「すごいね、皇紀くん!」

 「素敵な歌声だったわー」

 ご両親が喜んでくれた。

 葵ちゃんと光ちゃんが、うっとりした目で見ている。


 「タカさんに教わりました」

 またみんながタカさんを褒めてくれた。




 お風呂をいただいた。

 皇紀は、お父さんと一緒に入った。

 狭かった。

 お父さんの背中を流した。

 一つの傷もない、身体。

 贅肉。

 突き出した腹。

 大きくもないモノ。

 何もかもがタカさんとは違う。


 皇紀も背中を流された。


 「おや、皇紀くんは結構傷があるんだね」

 嬉しかった。

 タカさんと同じだ。


 「はい。双子の妹たちが、とにかくヤンチャで」

 「あ、そうなんだ! 良かった、安心したよ」

 何がだ?


 「君たちを引き取ってくれた「タカ」さんは、優しい立派な人なんだねぇ」

 「はい!」

 皇紀はタカさんのことをたくさん話した。

 仕事が忙しい人なのに、自分たちを引き取ってくれたこと。

 食事は大事だと言い、美味しいものをいつもたくさん作ってくれること。

 悪いことをしたら叱るが、いつも本当に優しいこと。

 いろいろなことを教えてくれ、本や映画を見せ、深い話をしてくれること。

 勉強法を教わり、学年トップになれたこと。

 ドライブに連れて行ってくれ、また面白い話をしてくれること。


 いろいろなことを次々と話した。


 「そうかぁ。すごい人なんだなぁ」

 「はい! 最高の人です!」

 一緒に笑った。




 みんなが風呂から上がり、寝間着に着替えていた。

 リヴィングで寛ぐ。

 葵ちゃんが、犬を飼いたいと言った。


 「私が世話することになるんだからイヤよ」

 お母さんが言う。


 「うちで、短い間ですけど、犬を飼ったんです」

 皇紀はゴールドの話をした。

 ゴールドの死に、みんなが泣いた。


 「皇紀くん、いい話だった。ありがとう」

 お父さんが言ってくれた。


 タカさんのようなことができた。

 嬉しかった。





 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■





 夕食は、まあ良かった。

 6時にレストランへ行くと、テーブルが二つ繋げられていた。

 配膳の係の人が来た。


 「申し訳ありません。念のために確認いたしますが、本当に20人分をお出ししてよろしいのですか」

 「はい。こちらこそ無理を言いまして、申し訳ありません」

 一礼をして戻って行く。

 双子がワクワクしている。

 亜紀ちゃんが、絶対美味しいから、と話している。


 亜紀ちゃん六人前、双子は五人前ずつ、俺が三人前、栞は一人前だ。

 物凄い勢いで皿が空いていく。

 向こうの方で、ホテルのスタッフが驚いているのが分かる。


 「お前ら! 自分以外の皿に手を出すなよな。コワイ話をするぞ!」

 「「「はい!」」」

 まあ、皿に盛られている分、無茶なことはなかった。


 「栞、今日は酒を飲むな!」

 「うん、分かってる」

 ちょっと寂しそうだった。

 確かにワインか冷酒が欲しい。

 最後のデザートも二十人前だった。

 これはやり過ぎた。

 流石の子どもたちも、シャーベットの多さに驚いていた。


 「よし! 夜の部偵察に行くぞ!」

 「「「「はい!」」」」





 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■





 楽しい団らんも終わり、そろそろ寝ようかということになった。

 一部屋にお母さんと葵ちゃん、光ちゃん。

 もう一部屋にお父さんと皇紀。

 まあ、そうだろう。


 「皇紀くん、寝る前に、またタカさんの話を聞かせてくれないか?」

 「はい!」

 二人でベッドに座り、皇紀は話し出した。


 葵ちゃんと光ちゃんがうちに来て、タカさんから皇紀と付き合いたければトップの成績を取れと言われた話。

 無理だと二人が言うと、なら諦めればいいと言ったこと。

 皇紀のために何かをしたくないのなら、それでいいのだと。

 二人が奮起して、トップクラスの成績になったこと。


 81時間の手術をして、奇跡的にアメリカ人の女の子を救ったこと。

 病院に暴漢が侵入し、身を盾にして銃弾を受けて看護師と患者を助けたこと。

 昔恋人だった人のお兄さんの命を救ったこと。

 幾らでも話すことはあった。

 皇紀は気を付けながら、タカさんの不利になるようなことは伏せて話した。


 「そうか。そんな凄い人がいるんだねぇ。僕も一度会ってみたいな」

 「機会があれば是非」


 灯を消し、二人はベッドに寝た。





 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■





 二階のベランダによじのぼって、俺たちは皇紀が父親らしい男性と寝るのを見た。

 「夜闇」を使って、気配を消していた。

 俺は手で合図し、全員が庭に飛び降りる。

 そのままハマーまで走った。


 「なによ、何もないじゃない!」

 「皇紀ちゃんはヘタレだからねぇ」

 双子が文句を言う。


 「まあ、姉より先に大人になるのは、ね!」

 亜紀ちゃんが言う。


 「私たち、何やってるんだろう?」

 栞。


 「まあ、風呂にでも入ろう」

 俺は笑ってハマーを発進させた。





 風呂はまたしても亜紀ちゃんが家族風呂を予約していた。

 十二時までの貸し切りだ。

 俺は大浴場に行きたいと言ったが、四人に止められた。

 みんなで背中を流す。

 映画やマンガで見たことはあるが、一度大人数でのこういうことをやってみたかった。

 俺は真ん中で栞と亜紀ちゃんに挟まれ、両端に双子が座る。

 楽しかった。

 俺は全員の髪を洗ってやり、全員で俺の髪を洗った。


 湯船は少し狭かった。

 子どもたちは誰も隠さない。

 栞はタオルを前に置いている。


 「こら、オッパイ! チョイ見せの誘惑かぁ!」

 「いまさらウブがるんじゃねぇ!」

 「やめてぇー!」

 栞がタオルを奪われた。

 

 「いしがみくぅーん!」

 亜紀ちゃんが栞を手で制し、俺に抱き着いて来る。

 栞も後から抱き着いた。

 付き合いで双子も来る。


 「お前ら! うっとうしい!」

 全然天国ではなかった。




 俺たちは風呂を上がり、涼みにウッドデッキのテラスへ出た。

 亜紀ちゃんがギターを抱えて来た。

 俺は井上陽水を何曲か歌った。

 双子もうっとりと聴いている。

 バーのマスターが、また飲み物を運んでくれた。

 みんなでお礼を言った。

 

 部屋に戻ると、畳に布団が三組敷かれていた。

 誰が俺と寝るかで揉めていたが、俺はさっさとベッドの一つに潜り込む。

 全員が黙り、一斉に俺のベッドに群がった。


 「いい加減にしろ!」

 俺は畳の布団に移る。

 全員がそっちに来た。

 俺は位置を決め、双子が両脇、その外側に栞と亜紀ちゃんを寝かせた。

 双子がニコニコしている。


 「オッパイ順だぁ!」

 「「だぁっはっはっは!」」

 双子が大笑いした。






 栞も言っていたが、一体何をやっているのか。

 まあ、こういう時間もきっと大事に違いない。

 俺はカワイイ悪魔たちの寝息を聞きながら、自分も眠った。

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