祝賀パーティ Ⅱ
「ぶちょー!」
一江が駆け寄ってきた。
「もう大変ですよ」
あちこちで話しかけられ、一江は疲れ切っていた。
「情けねぇな」
「それにしても部長、私たちってやっちゃいましたよね!」
「別に大したことじゃねぇよ。通常運転だろう」
俺は言ったが、一江は猛反発した。
「冗談じゃないですよ! あんなのまたあるのなら、私は医者を辞めます!」
まあ、確かに俺も考えてしまうだろう。
大森もようやく人垣から抜け出してきた。
「はぁー疲れた」
「泣き言を言うなよ」
「斉木先生は来ませんねぇ」
「今日は浸らせてやろうじゃねぇか」
オペのメインの一人だった斎木は、あちこちで嬉しそうに話している。
俺の次にオペ室で立っていた人間だ。
確かに、あいつは根性を見せた。
俺たちはあちこちで写真を撮られ、目がフラッシュで辛いほどだ。
俺は子どもたちにも声をかけた。
「おい、みんな食ってるか!」
「「「「はーい!」」」」
四人で食いまくっている。
まったく、何一つとして心配ない。
普段食べない珍しいものも多いから、楽しいだろう。
「タカさん! 幾ら食べても減らないんですけど!」
亜紀ちゃんが大変嬉しそうだ。
その時、会場の扉が開き、みんな静かになる。
車椅子に乗った響子が、ロックハート参事官に押されて登場したのだ。
体調をギリギリまで観察して、短時間なら大丈夫だろうということでやってきた。
俺はマイクを渡され、響子を紹介した。
「本日の主役の、奇跡の美少女の登場です!」
奇跡の美少女というのは、新聞に書かれたものだ。
まあ、スポーツ誌だが。
まだ術後の疲労がある。
肌もカサカサで、目の力も弱い。
まあ、少しすれば戻るだろう。
実際、この翌週には俺にオムライスをせがむほど元気になった。
スプーンで3口ほどだったが。
「まだ本来は寝ていなければならない状態なので、みなさん声をかけたり写真などはお控えください!」
おれが注意をもって締めくくると、会場は拍手で沸く。
ロックハート参事官は車椅子を押して、俺のところへ来た。
「体調はどうだ? 大丈夫か?」
響子はうなずく。
まだ喋るのも辛いのだ。
「ああ、無理して話さなくていいからな。今日はみんなが響子のことを祝って集まってきてくれてるから、ちょっと顔だけ見せてな」
響子の目は少しキラキラして、会場のみんなを見ている。
徐々に、遠巻きにだが、みんなが集まってくる。
俺はあらためて、話しかけたり、写真は厳禁だと注意した。
響子が俺の方に手を伸ばす。
俺はしゃがんで響子の顔に耳を寄せた。
響子は非常にゆっくりと、俺の頭を抱く。
「タ…カ……ト………ラ…………ス………………キ……」
やっとそう言って、彼女は俺の頬にキスをする。
遠巻きにしていた人たちが、一斉に拍手と歓声を挙げた。
「部長! 今響子ちゃんはなんて言ったんですかぁ!?」
一江が大声で叫ぶ。
「みなさま、はじめまして。ロックハート響子です。本日の日経平均の終値は」
「絶対ちがう!」
「正直に言え!」
響子は苦しそうに笑い転げた。
「とにかく、今日はこれで響子は病院へ戻ります。また元気になったら、みなさんもお見舞いに来てください!」
俺は参事官から車椅子を引き継ぎ、外の車まで響子を送る。
最高度のエアクッションを備えたリムジンが待機しており、響子をゆっくりとシートに座らせた。
看護師が中で待機しており、響子の身体を支える。
「じゃあ、また明日な」
俺がそう言うと、響子はまた俺の方へ手を伸ばそうとする。
「ほら、ダメだよ。今日は大人しく帰れ」
響子は、残念そうに下を向くが、手をあげて小さく動かす。
俺も手を振って、リムジンが見えなくなるまで見送った。
会場へ戻ると、そろそろ時間だ。
一江が寄って来て、二次会はどうするかと聞いてきた。
「今日は子どもたちもいるからな。申し訳ないけどあとは宜しく頼むよ」
「了解です」
「ああ、斉木と斉藤は要注意な」
「分かってます!」
俺は改めて大使とロックハート参事官に礼を言った。
大森がマイクを持って閉会を宣言し、出席者たちは出口へ向かっていく。
俺は子どもたちと一緒に最後まで残った。
会場の出口で、出て行く来賓者たちに、礼を述べていく。
子どもたちは最後まで食べ物を漁って回った。
玄関に出ると、なぜかみんな集まっている。
何かあったのかと俺が一江に近づくと、いきなり男性陣に囲まれた。ロックハート参事官もいる。
俺はそのまま担ぎ上げられ、一江の号令で胴上げをされた。
酔っ払い連中で多大な不安もあった。
下は石畳だ。
しかし何度も放り上げられているうちに、俺は声を上げて笑っていた。
俺は八回ほど持ち上げられた。
上げられるたびに、酔っ払いたちが減っていった。
底知れぬ恐怖を感じた。
八回の胴上げは、異例の80時間超えを表わしたそうだ。
何とか無事に降ろされてホッとした。
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