表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星の家族:シャルダンによるΩ点―あるいは親友の子を引き取ったら大事件の連続で、困惑する外科医の愉快な日々ー  作者: 青夜


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

355/3162

日常、ベルエポック。

 すっかり機嫌の良くなった月曜日。


 「あの、部長。先週の報告をしてもよろしいでしょうか」

 オドオドと、一江が来た。


 「おう! よろしくたのむな!」

 「へ?」

 「なんだよ? あー! 一江って最近なんか綺麗になってねぇか?」

 「ヒィ!」

 「なあ、大森! 一江って最近ちょっと変わったよな?」

 「は、ハイ! であります!」

 心なしか、部内がザワついている。


 「おい、みんなどうした? なんか調子が悪いのか? 身体は大事にしろよな! 病院へちゃんと行くんだぞ。あ、ここが病院でしたー! アハハハ」


 「……」

 怯えた一江が報告と、今週の予定を俺に伝える。


 「うん、よーく分かった。一江の説明はいつ聞いても無駄がねぇなぁ! 最高の部下だ。俺は幸せモンだな!」


 「……」


 「あ、みんなのことも大事に思ってるぞ!」

 俺はドアを開けて言った。

 みんな、半笑いで頷いてくれる。

 俺のオペは明日からだ。

 今日は時間がある。

 響子の部屋へ向かった。

 一江が誰かに内線していた。

 本当に仕事熱心だよなぁ。





 響子はいつも通り、セグウェイに乗っていた。

 俺を見つけて寄って来る。


 「タカトラー!」

 俺は響子を抱き上げ、チュッチュしてやった。

 響子が声を出して喜ぶ。


 「今日は早いね!」

 「そりゃ、響子に会いたいからなぁ」

 「六花は?」

 「ちょっと看護師長さんと打ち合わせだって」

 「そうか。じゃあ迎えに行こうか?」

 「ウン!」


 俺は響子を抱え、もう一方の手でセグウェイを持った。


 「あ、石神先生!」

 六花が前から歩いてきた。


 「おう! もう打ち合わせは終わったのか?」

 「はい。先週の響子の報告です」

 「じゃあ、今日は三人で食事に行くか!」

 「え、でも」

 「オークラには俺が連絡しておく。今日はベルエポックだったよな?」

 「はい。鹿肉のロティと南瓜のエスプーマ イベリコ ベジョータのチョリソでした」

 「それをベルエポックで食べよう」

 「分かりました!」

 響子が久しぶりの外での食事に喜ぶ。

 俺は響子を着替えさせ、その間に六花も着替えてくる。

 六花は普段は当然看護師服だが、通勤でも良い服を着ている。

 いつ響子関連で一緒に出るかも分からないためだ。

 まあ、それは滅多になくて、ほとんどは俺が食事に連れ出しているだけだが。

 

 ベルエポックは明るいフレンチ・レストランだ。

 広い店内に、余裕をもってテーブルが置かれている。

 俺と六花は、響子のメニュー以外に数点頼んだ。

 響子は、俺と六花を交互に見て、ニコニコしている。




 「二人が仲良しで嬉しいな」

 俺と六花も、笑って響子の頭を撫でた。


 「お前にも心配させて悪かったな」

 「ううん」

 「おい、六花も英語で謝れ」

 「え、えーと、あの、あいむそーりー」

 響子と笑った。


 「I sincerely apologize.」

 響子が言った。


 「あ、全然違いました!」

 「いや、「I'm sorry.」でもいいんだよ。でもそれは、咄嗟のときとか、ちょっと軽いニュアンスなんだよな。響子が言ったのは、今回のようにちゃんと謝罪する場合の言い回しだ」

 「なるほど」

 「でも、六花ちゃんも、ちゃんと前進してるな」


 料理が届いた。

 六花は満面の笑顔で食べる。

 こいつは、本当に幸せそうに食べるから、気持ちがいい。




 デザートを食べていると、料理長が挨拶に来た。


 「いつもご利用いただき、ありがとうございます」

 「響子はしょっちゅう食べてる常連だもんな。何か感想を言えよ」

 「いつもありがとうございます。毎日、とても美味しいです」

 「ありがとうございます」

 料理長が何かあれば教えて欲しいと言った。

 響子は幾つかのメニューについての希望を出した。


 「かしこまりました。次回からのメニューに考慮いたします」

 礼を言って料理長が戻った。


 「響子はスゴイです」

 「何がだよ」

 「ちゃんとものおじせずに、ああいう人にも伝えられます」

 「お前も食べてばかりじゃなく、ちゃんと考えろよな」

 「はい」

 「まあ、六花と食事をすると楽しいからいいんだけどな。な、響子」

 「うん!」


 「ありがとうございます。でも石神先生。この甘いデザートは、響子には多過ぎではないでしょうか」

 「そうだな。ちょっと多いな」

 俺と六花は、スプーンで響子のチョコレートムースを奪おうとした。


 「ダメェー」

 響子が笑って防ぐ。

 温かな時間が流れた。







 病院へ戻り、俺は自分の部屋に戻った。

 今日は響子を連れていない。

 あまりにベタベタするのは、響子にも良くない。


 「部長、おかえりなさい」

 「おう、ただいま」

 「部長」

 「あんだよ」

 「今度はランボルギーニを買われたそうで、おめでとうございます」


 なんかこいつに言われると嫌だ。

 大事なものが汚れるような気がする。


 「あ?」

 「いえ、おめでとうございます」

 「チッ!」

 「え、なんで!」


 「お前みたいなブサイクにアヴェンタドールのことを言われると、ちょっと頭に来るんだよな」

 「なんで、さっき綺麗になったって!」

 「ああ、良く見るとダメだな。勘違いだったわ」

 「そんなぁー!」


 「まあ、今週辺りうちに顔を出せよ。子どもたちも待ってるからな」

 「はい! 嬉しいです!」

 「でも、ガレージは行くなよ! お前が見るべきものではない」

 「……」

 一江が自分の席に戻ると、大森が慰めていた。


 俺は紙に「冗談だ!」と書いて、窓にくっつける。

 一江の顔が明るくなった。






 やっぱり、ブサイクだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ