アヴェンタドール Ⅲ
日曜日の朝。
俺はドゥカティに乗るためにガレージに行った。
手前に停まっているアヴェンタドールを見て、手を振ってやり、ニヤつく。
バカと言われてもいい。
まあ、殴るが。
「シザードアって言うんだってな! ガルウィングと間違えててゴメンな。夕べマニュアルを読んで分かったよ」
俺は話しかけている。
「お前のことは一通り分かったから。これからも宜しくな!」
俺はドゥカティを出し、六花のマンションへ向かった。
時間通りに着くと、六花は既にマンション前で待っていた。
俺の姿を見つけ、遠くから手を振っている。
カワイイ奴だ。
「おはようございます! 今日はどこへ行きましょうか?」
「そうだな。すっかり乗ってやらなかったからな。また横須賀まで行ってみるか?」
「いいですね! 行きましょう!」
六花が嬉しそうに笑った。
久しぶりに、美しい笑顔を見た。
「ちょっと待て」
俺は六花のヘルメットを脱がせる。
六花は、驚いて俺の顔を見ている。
六花にキスをした。
赤くなっていた。
「なんだよ、何度もしてるだろう」
「でも」
俺は笑って、もう一度キスをした。
六花も俺に手を回し、抱きしめてきた。
「よし、行くぞ!」
「はい!」
俺たちは首都高を疾走し、湾岸線に入った。
太陽を反射した海面が美しい。
六花が指さし、俺はウイリーで応えた。
駐車場でバイクを停め、ドブ板の店に入る。
俺は事件後の自分の嫌な態度を謝った。
「そんな! 私たちが悪かったんです。本当にすみませんでした」
「いや、自分でやっておきながら、フェラーリのことで勝手に落ち込んでいた。俺は他の人間が落ち込むのを許さないくせに、誰も俺を責めないのをいいことに、いじけていた。本当に済まない」
「じゃあ、今日はハンバーガーをおごってください」
「おい、いつも俺が出してるじゃないか」
「いつもがいいんです」
そう言って、六花は笑った。
眩しい笑顔だった。
六花はよく食べた。
少し痩せたかもしれない。
俺はもっと喰えと言った。
「そういえば昨日の車」
「ああ、アヴェンタドールな!」
「それです。というか、あの車について何も伺ってないんですが」
「あ、そうだったか! あれはなぁ……」
俺は詳しく話してやった。
経緯は簡単に、車の性能は詳細に。
「随分と気に入られたんですね」
六花が笑ってそう言った。
俺はどこが気に入ったのかと、また詳細に話す。
「またベンツちゃんが寂しがってますね」
「え、お前、それはだな」
「フェラーリちゃんは泣いてると思います」
「か、勘弁してください」
痛いところを衝かれた。
「ドゥカティちゃんなんて、今自分に跨っているくせにと言っています」
「おい」
「証明してください」
「だからなぁ」
「私のこともちゃんと愛してるって、証明してください」
「車の話じゃ」
「お願いです」
「分かりました!」
俺たちはホテルに入った。
2時間で数十回も六花は逝った。
久しぶりの六花の身体は、俺も蕩けさせた。
「石神先生」
「なんだ」
「証明し過ぎです」
「そうですか」
帰りは危ないので、ゆっくりと走った。
家に戻り、もう夕方になっていた。
俺は鷹に電話をする。
事件以降、鷹のマンションには毎週泊っていた。
落ち込んだ俺を、鷹が誘ってくれた。
「鷹! 新しい車が来たんだ。ドライブに行こう」
「分かりました!」
鷹が嬉しそうな声でそう言ってくれた。
自由が丘の料亭を予約した。
アヴェンタドールを出す。
近くで電話したので、鷹はマンションの前で待っていてくれた。
「凄い車ですねぇ!」
俺は「シザードア」を開け、鷹をシートに座らせた。
シートベルトを締めてやりながら、オッパイを揉む。
「!」
「この車に乗る人間の儀式なんだ」
鷹が笑った。
俺は鷹に全部説明し、俺の落ち込みを詫びた。
「そんな、私にまで気を遣わないでください」
「いや、鷹には本当に世話になった。お前がいなかったら、もっと俺は酷いことになっていただろう」
鷹に毎週金曜日、美味い飯をご馳走になり、そのまま泊めてもらっていた。
「でも、私がずっと石神先生を独占できて楽しかったですよ」
「そうかよ」
俺は笑い、鷹の胸に触った。
「もう! 私の胸なんかじゃつまらないでしょうに」
「そんなことはない! 鷹のオッパイは最高だ!」
二人で笑った。
俺たちは京料理を楽しんだ。
料理はもちろん良かったが、ここは器も素晴らしい。
鷹をマンションまで送った。
「今日も泊まっていかれますか?」
「いや、明日は仕事だから今日は泊れないよ」
鷹が寂しそうな顔をする。
「でも、ちょっとだけ最高のオッパイを見たいな!」
「どうぞ!」
鷹が笑顔で俺の腕を引っ張る。
俺は最高の「女」を愛した。




