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星の家族:シャルダンによるΩ点―あるいは親友の子を引き取ったら大事件の連続で、困惑する外科医の愉快な日々ー  作者: 青夜


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地獄VS悪魔 Ⅲ

 一江から連絡を受け、俺は即座に対処の段取りを組んだ。

 現在、双子たちは渋谷前で激しい戦闘をしているらしい。

 亜紀ちゃんに三人を止めて連れ出させる役割を与えた。

 「花岡」の一部の使用を許可した。


 「轟雷」:プラズマ発動による電磁波の拡散。弱電基盤を破壊させるためだ。

 

 スマホやドライブレコーダーの映像の破壊目的が主だが、監視カメラ映像は既に送られている。

 そちらは後で考える。


 「仁王花」:身体強化で高速で移動するため。

 「虚震花」:三人を逃がすために、道路を破壊する。


 人的被害は避けるように言う。

 亜紀ちゃんならば、上手くやるだろう。

 

 亜紀ちゃんの顔に靴墨を塗る。


 「悪いな。綺麗な顔にこんなものを」

 「平気です! じゃんじゃんやってください!」

 右半面を黒く塗り、左反面には目の下と頬に太いラインを引いた。

 髪はキャップに隠し、金髪のウィッグを被せた。

 以前に緑子が持って来たものだ。

 それと三人のためのジャージなどをリュックに詰める。

 ハマーで向かい、亜紀ちゃんに駒沢公園近くの場所を指定する。

 渋谷から、亜紀ちゃんは走り始めた。


 俺は別なルートで待ち合わせ場所に向かった。








 亜紀ちゃんは上手くやった。

 三人を車に入れ、急いでジャージを着せる。

 その間に話を聞き、栞が途中のカメラをすべて粉砕しながら進んでいたことを知った。

 映像に残らないように、ちゃんと考えていた。

 「轟雷」も使っていたようで、亜紀ちゃんのやったものと合わせて有効なことを祈る。

 これで、三人の映像は残っていなければいいのだが。


 渋谷で一江と大森を拾い、家に向かった。










 応接室に集めたが、叱責は後だ。

 今は寸秒が惜しい。


 「一江! 急いでダミーの画像を作れ!」

 「はい!」

 「三人が別人になるようにしろ!」

 俺は駒沢公園で撮っておいた画像データを渡す。


 「ここでお前たちが、謎の四人に襲われたストーリーにする。お前はこの景色の中に、知らない人物を置け!」

 一江と大森がすぐにPCに取りつく。


 「急げ!」


 15分後、駒沢公園で見知らぬカーリーヘアの女性と小柄な二人の画像が張り付けられた。

 四人目である亜紀ちゃんの画像は敢えて作らなかった。

 画像は何種類か作った。

 全員が迷彩のコンバットスーツを着ている。

 用意しておいて、着替えたと受け取られて欲しい。

 また、人物はそれぞれ、角度や距離が違う。


 女性は身長180センチ、小柄な二人は150センチ前後。

 二人の性別は分からない。


 少しブレた画像に修正し、一江、栞のスマホにデータを入れ、カメラで撮った画像として保存。

 六花と大森には何もしない。

 俺はハマーに四人を乗せて、再び駒沢公園に向かった。

 全員がジャージに着替えている。

 車中で説明する。


 「お前たちは駒沢公園で運動がてら遊んでいる途中で、謎の四人に襲われた」


 「六花は真っ先に襲われ、何も覚えていない。大森も同じだ。一江と栞は咄嗟にカメラで撮影した。お前たちは離れていた。その後で二人も襲われた」


 「「「「はい!」」」」


 俺は駒沢公園近くの路地に四人を降ろし、広い敷地の邸宅の前に誘導した。


 「お前たちは、しばらく気絶していた。いいな」

 「「「「はい!」」」」


 邸宅は灯が消えている。

 塀の上に上り、カメラなどがないことを確認する。

 六花たちを手で引っ張り上げ、邸宅の敷地へ入れる。

 栞は自分で乗り越えた。

 

 「緊急時だ、我慢しろ」

 「「「「?」」」」

 俺は六花の脇を殴った。

 肋骨が何本か折れた。


 「ウグゥッ!」

 「黙れ」

 一江と大森も同様に腕や肋骨を折る。


 栞に向かう。


 「「花岡」は使うな」

 俺は鎖骨を拳で折り、フックで左の頬骨を砕いた。


 「駒沢公園で襲われ、ここに投げ込まれた。いいな!」

 返事はないが、四人とも頷いた。








 翌朝のニュースは、どこも国道246での大事件だった。

 謎のテロ集団が銃火器で車両を無差別に襲い、数十台が被害を受けた。

 幸い軽症者のみで済んだ。

 目撃者は異様な人間を見たとだけ話している。


 「一瞬だけですけど。女性だったと思いますが、髪が逆立っていて鬼のようなコワイ顔でした」

 「半裸の女性が小柄な二人を投げて、うちの車のウィンドウを割りました。怖かったです」

 「ときどき、雷みたいなのが出て、ほら、スマホが死んじゃいましたよ!」

 「ドライブレコーダー? 見て下さいよ、溶けちゃってます。エンジンもかかりません」


 すべてのカメラやドライブレコーダーなどは、電磁気の障害により破壊されていた。

 それに、警察の発表では銃痕や薬莢の類が発見できていないとのことだった。

 マスコミは、未知の兵器によるテロだと断定した。




 栞と双子の戦闘は、常人の目で追えるものではなかった。

 数日後、警察は新たな証拠を発表。

 一江たちの画像データだった。

 全力でテロ集団を追うと言っていた。


 他に警察が掴んだ映像はなかったようだ。

 友人のキャリア組の奴らからも確認した。

 Nシステムなども、明瞭な画像は取得できていなかった。

 栞の力だ。


 数日後の夜、俺は全員を家に集めた。

 一江、大森、六花、栞は歩ける状態にはなっていた。

 椅子に座れないほど尻を叩いた双子も、今はちゃんと座っている。


 「おい、今株の運用はいくらになっている?」

 俺は双子に尋ねた。


 「200億円ほどかと」

 「被害者の救済基金を作るぞ!」

 「え?」

 「壊れた車両や機器の修理や再購入、怪我した人の治療代や見舞金、その他お前らが迷惑をかけたすべてを弁済する!」


 悲惨な事故で被害を受けた方々のために、心を痛めた善意の第三者が巨額の金を寄付する。

 それはマスコミをまた狂喜させた。

 しかし、基金の設立にあたっては弁護士団が壁となり、決して善意の第三者の名前が明らかになることはなかった。


 風聞で「フェラーリ・ダンディ」の名が囁かれた。

 一江に、そのようにディスインフォメーションを流させた。

 瞬く間に、ネットで拡散していった。

 マスコミは躍起になって「フェラーリ・ダンディ」を探した。

 それもまた、一江の情報操作により、俺にたどり着くことは無かった。




 俺はフェラーリを手放していた。



   

 アビゲイルが引き取ってくれた。

 普通に売るわけにもいかなかった。

 俺の名前が割れる。

 数々の思い出のある車だった。

 しかし、俺よりも子どもたちが泣いた。


 マスコミの過熱は、いつものように徐々に沈静化し、被害者も弁済され、事件としての魅力を喪ったためだ。

 大規模に破壊された道路も、道路公団が救済基金から巨額の費用の寄付により、数日で修復された。

 路上のカメラも警察車両もすべて基金のから費用で賄い、元に戻った。

 マスコミは別な事件を報道するようになり、誰も思い出さなくなった。

 二週間もかからなかった。


 栞は、俺の家へ出禁にした。

 六花とバイクで出かけることもなかった。

 病院で俺が響子の部屋へ行くと、六花はそっと出て行くようになった。


 「タカトラと六花は喧嘩してるの?」

 響子が聞く。


 「そうだ」

 響子が泣いた。


 「仲直りして」

 「するから大丈夫だ。俺と六花は仲良しだからな」

 「うん」


 家では、フェラーリを手放し暗い俺を、子どもたちが心配していた。

 特に双子は俺を見るたびに消沈する。

 子どもたちの食欲も無かった。

 大食いを見せなくなった。


 まあ、普通に食べるが。






 

 一か月ほど、暗い時間をみんなが過ごした。

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