α、β、γ、そしてΩ。:誕生秘話
双子は花壇担当だ。
石神から言われ、石神に喜んで貰おうと、一生懸命にやっていた。
水やりはお花屋さんに何度もタイミングを聞いた。
草むしりは毎日のようにやった。
雑草が異常に生える。
毎日やらないと、とんでもないことになる。
「こないだのタンポポさ」
「うん、スゴかったよねぇ」
試しに放置したら、ひまわりのようにでかくなった。
根を抜こうとしたが果てが見えず、こっそり「震花」を使った。
生命が以上に高まる、ということはすぐに理解した。
ヘンゲロムベンベこと、蓼科院長先生の不思議な光のお陰だ。
「そういえばさ」
「うん」
「タカさんって、動物にもモテモテじゃない」
「そうだね。女の人にもモテすぎだけどね」
ヒッヒッヒと二人で笑う。
「この花壇の土で、タカさんを守れる動物はできないかな」
「いいね! やってみよう!」
「なんの動物にしようか」
「うーん、最初は簡単に増えるのがいいな」
「そうだよね」
「そうだよね」
二人は、石神を除き、唯一この世で勝てないと思う人に聞いた。
洗濯物を干している姉に聞いた。
「ねぇ、亜紀ちゃん!」
「なーに?」
「亜紀ちゃんって、苦手な動物っている?」
「えー、何かなぁ」
思えば、ライオンでもホッキョクグマでもティラノサウルスでも瞬殺できるであろう姉であった。
「そうだなー、ゴキブリとかはやっぱ苦手かな!」
「「なるほどー!」」
最高の収穫があった。
「ゴキブリってさ、思い切り増えるよね」
「うん。実験動物としては、最高かも!」
飼育法は、ネットで分かった。
70リットルのポリバケツを買い、底に花壇の土を敷いた。
ゴキブリは、捕獲機で幾らでも捕まえられた。
「うーん、やっぱ私たちも苦手よね」
「そうだねぇ」
エサは生ごみが幾らでも使えた。
亜紀ちゃんに言い、率先してゴミ出しを引き受けた。
「助かるわー」
喜んでもらえた。
今に見てろよ、筋肉女と思った。
吠え面かくなよ、二重人格と思った。
鍋での屈辱の思い出の数々が甦る。
「まずはさ、無敵にしよう」
「どうやんの?」
ルーは各種殺虫剤をそろえて見せた。
資金面では、何の障害も無かった。
皇紀が引きずり込まれた。
ゴキブリの至近距離作業は、皇紀にやらせた。
「なんで僕がぁー」
文句を言ったが、結局皇紀は妹たちに優しい。
言われるがまま、皇紀は高温、低温の実験道具も作らされた。
優しさを付け込まれ、気づいたら泥沼にはまっていた。
殺虫剤を少しずつバケツに吹き込んだ。
独自に研究し、調合もした。
C兵器なみのものまで開発した。
ある時期から大量に死んだが、生き残る個体がいた。
死骸は皇紀が一つ一つ拾って捨てた。
双子は離れて作業を見守った。
「よく、あんなことできるよね」
「皇紀ちゃん、しばらく近づかないで欲しい」
ひどいことを言う。
バケツ内はいつもしっとりと濡らしておく。
そのために、薄布を周囲に垂らしている。
エサは豊富だ。
沸いたウジも、ゴキが食べて行く。
ゴキ天国だった。
臭いがスゴかった。
二ヶ月も経つと、殺虫剤やC兵器で死ぬことが無くなった。
無限に増えるかと思ったが、どうも中で共食いをしているらしい。
強力な個体が生き残る。
双子は喜んだ。
ある日、石神のお部屋のお掃除をしていると、ベッドの下にパンツが落ちていた。
「あー、こんなのあった!」
「あー、栞さんのじゃない?」
女性物の下着だった。
栞が、夕べ泊ってた。
「エッチ大王だからなぁ、タカさんは」
「あのオッパイだからねぇ」
当然双子は男女関係というものを理解していた。
オッパイは敵、と言い、二人はパンツを飼育バケツに入れた。
先達の姉を見て、遺伝的限界を悟っていた。
ミルクは飲み続けていた。
それからしばらく経った。
「お!」
底の方が大きく盛り上がった。
二人は驚いて観察した。
「「!」」
今まで見たこともない大きさのゴキブリが顔を出した。
「なにあれ!」
「ちょっと、あれはまずいんじゃないのー!」
皇紀を呼んで、棒でゴキをかき分けてもらった。
底にいる。
大きなものは、4匹いるようだった。
30センチはある。
皇紀が一番怖がった。
「アレはなんだよー」
「知らない。どっかから紛れ込んだ?」
「そんなわけあるかよー」
「皇紀ちゃん、うるさい!」
「そうだ! 皇紀ちゃんが一人でやったことにしたら?」
「それだ!」
「やめろよー。僕のせいじゃないよー」
「皇紀ちゃん、お願い!」
「ダメだよー。こんなの責任とれないって!」
さすがの皇紀も嫌がっている。
三人で話し合い、明日処分しようということになった。
方法はわからない。
「いっそ、逃がしちゃう?」
「それだけはダメだってぇー!」
皇紀が必死で止める。
散々揉めた後、明日考えようということになった。
翌日、大騒ぎになった。




