表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星の家族:シャルダンによるΩ点―あるいは親友の子を引き取ったら大事件の連続で、困惑する外科医の愉快な日々ー  作者: 青夜


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

336/3163

夢のフェラーリ

 フェラーリの車検だった。


 ディーラーに電話して引き取りの日時を決めた。


 「石神先生! 代車を手配しますから、乗ってみて下さいよ」


 いつもの担当者に言われた。


 「いや、別に二台もあるからいらないよ」


 ベンツとハマーがある。


 「そんなことおっしゃらずに、乗ってみるだけでもお願いします」


 まあ、俺に別なフェラーリも勧めたいのだろう。

 代車を貸すだけでも、担当者の成績になるのかもしれない。


 「まあ、俺はスパイダーが好きだけど、そんなに言うのなら乗ってみようかな」

 「ありがとうございます!」






 六月中旬の土曜日。


 ロッソフィオラノのスーパーファストが来た。

 V12気筒の、フェラーリ最速マシンだ。


 「やっぱりいいなぁ」

 「そうでしょ!」


 でも、俺はスパイダーのボディの色気に惚れ込んでいた。

 それは言わない。


 「じゃあ、遠慮なくお借りするよ」

 「よろしくお願いします」




 早速乗ってみる。

 なんだかんだ言っても、フェラーリはいい。


 俺は環七を流しながら、様子をみた。


 やはりV12はパワーが違う。


 まあ、日本の道路ではスパイダー同様に、本当の性能はなかなか発揮できないが。


 一番の違いはパワーステアリングだ。

 フェラーリ初の電動パワステは、やはりスパイダーとは違う。


 「でも、ちょっと反応がなぁ」


 俺の実感だが、反応が若干遅れる感覚がある。

 まあ、軽くなった分で、そう感じるのかもしれないが。



 少し流して車の癖を把握したので、すぐに家に戻った。


 明日あたり、亜紀ちゃんでも誘ってドライブに行くか。







 俺はドカティで出かけた。

 六花と中華街へ行く予定だ。


 先日、ウナギを食べたが、バイクでどこかへ美味いものを喰いに行く、というのは楽しかった。

 ドレスコードのあるレストランは、ライダースーツでは入れない。


 しかし、バイクで出かける時には、そういった店ではなく、気軽に喰い散らかせる食事がいい。

 六花も、楽しみにしていた。

 もちろん、俺も楽しみだ。


 中華街の、美味い店を知っている。

 俺は予約していた。






 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■







 「タカさん、行ったよ」(る)

 「うん」(こ)

 「早く行こう!」(は)




 皇紀と双子は、ガレージの新しいフェラーリを見に行った。


 リモコンでリングシャッターを開ける。



 「はぁ、また真っ赤だよ」(は)


 「タカさん、赤が好きだよねぇ」(る)


 「でも、カッコイイじゃない」(こ)




 「まあね。でも、どうせ私たちってフェラーリは乗せてくれないし」(る)


 「そうなんだよねぇ。皇紀ちゃんはいいなー」(は)


 「だってしょうがないじゃない。一人しか乗れないんだから」(こ)


 「「はなおか」で合体できないから」(は)


 「あ! ちょっと考えてみよう!」(る)


 「無理だろう!」(こ)



 

 「皇紀ちゃん、いい? 「無理」と思ったらそこで完全に無理なの。でもね、「やってみよう」と思ったら道は開けるのよ」(る)


 「ハゥ! タカさんも言ってた!」(こ)



 無理に決まっている。





 三人は近くでよく見てみた。


 「「スーパーファスト」っていうんだって」(こ)

 「皇紀ちゃん、詳しいね」(る)


 「うん、タカさんが教えてくれた」(こ)



 「あー、乗りたいなー」(る)


 ハマーのシートとはまったく違う、戦闘的なデザインが欲望を掻き立てた。


 「そうだ!」(は)

 「なになに?」(る)


 「今なら二人で座れるじゃん!」(は)

 「それだ!」(る)


 「ダメだよ、勝手に乗っちゃ」(こ)


 「大丈夫だよ。エンジンを動かさなきゃ」(は)


 「でも、タカさんのことだから、ちゃんとロックされてるよ」(こ)


 「さっきも言ったじゃない! 無理だと思ったら無理なの!」(は)


 「ハゥッ!」




 ハーはドアを引いた。

 ロックされていた。


 次の瞬間、大きな警報音が鳴る。



 「「「!」」」


 

 近所中に聞こえる音量。


 鳴りやまない。



 「どうしよう! どうしよう! どうしよう! どうしよう!」(は)


 「皇紀ちゃん、なんとかしてぇ!」(る)


 「無理いわないでよ!」(こ)


 鳴りやまない。




 音量が更に大きくなった。


 「不味いよ、これ」(る)


 「ドアを開けよう!」(は)


 「でもロックされて」(こ)


 ハーが右手をドアのサイドガラスに当てた。

 粉砕される。


 ドアを開けた。


 「皇紀ちゃん、早く!」


 皇紀が蹴とばされて車内に入った。


 「分かんないよー!」


 皇紀は車内のメーターや機器を一応は見たが、何が警報を鳴らしているのかは当然分からない。





 「どいて!」(る)


 ルーが皇紀を引っ張り出し、自分で入った。


 「「震花」!」(る)



 ステアリングの下が吹っ飛ぶ。


 「「震花」!」(ハ)


 ハーも右側のダッシュボードの辺りを破壊する。


 鳴りやまない。




 二人は焦って、次々と目ぼしい辺りに「震花」を放った。


 車内からエンジンルームが見えるようになって、ようやく警報は止んだ。




 「あんたたちー! どうしたの!」


 亜紀ちゃんが玄関から駆け寄ってきた。


 両脇をすり抜けようとする双子を、どのようにしたのか同時に捕え、地面に投げ捨てた。

 皇紀の目には、一瞬すぎて何が起きたのか分からなかった。

 亜紀ちゃんの悪魔のような顔を見て、皇紀は気絶した。





 

 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■

 



 六花と一緒に中華料理を堪能した。


 中華の良さは、美味いことに加え、圧倒的なボリュームだ。

 俺の大好きなタピオカミルクが、また絶品だった。


 今度は子どもたちを連れて行こう。


 10人前も頼めば、あいつらも多分満足するだろう。

 するんじゃないかな。

 そうだといいな。



 とにかく上機嫌で家に帰った。



 門が開いており、皇紀と双子が正座している。

 亜紀ちゃんが、それぞれの首にかけたザイルを後ろで握っている。


 

 「なんだよ、何かあったのか?」


 「「「「申し訳ございません!」」」」


 「おい、ご近所にヘンだと思われるだろう! 何があったんだ」


 「こちらへいらしてください」

 亜紀ちゃんが暗い顔でそう言った。


 三人は手足も縛られているようで、そのまま亜紀ちゃんに引きずられて行った。

 ひきずられているのは首だ。




 ガレージの前。

 リングシャッターが開いている。


 今日借りたフェラーリ・スーパーファストが停まっている。


 車高が低いので、フロントウィンドウから車内が見える。

 おかしい。


 ステアリングがねぇ。



 「おい」


 俺は近づいて、横に回った。


 血の気が引いた。

 何もねぇ。

 赤いエンジンが丸見えになっていた。




 俺は転がってる三人に向かった。

 亜紀ちゃんが後ろから抱き留める。

 スゴイ力だった。

 「花岡」の「仁王花」を使っている。

 強靭な力を引き出す技だ。



 「すみません! 命だけはどうか!」



 俺は亜紀ちゃんの両腕を引き剥がし、後ろ蹴りで吹っ飛ばした。

 5メートルも飛んで、地面に二度跳ね返った。


 

 「「「ヒィッ!!」」」



 「「金剛花」を使え!」


 双子をそれぞれ蹴り上げる。

 10メートル上空へ上がり、放物線を描いて二人は塀にぶつかった。


 皇紀は「花岡」がまだ使えない。

 髪を掴んで頭を持ち上げ、両頬に強烈なビンタを浴びせる。

 吹っ飛んだ。




 気絶した四人を抱え、俺はリヴィングへ上がった。



 亜紀ちゃんの頬を張って目を覚まさせ、皇紀と双子も同じように起こす。


 何があったのかを説明させ、イモビライザーを発動させた三人が、それを止めるためにやったことが分かった。


 「四人で病院へ行って来い」


 「「「「はい!」」」」


 「そして二度と戻って来るな!」


 「「「「!!!!」」」」


 


 亜紀ちゃんと他の三人が死にそうな顔で謝るので、俺は憮然としながら許した。







 「あの、代車のことなんだけどさ」


 「ああ、石神先生! 如何でしたか?」


 「とても気に入ったので、アレ、売ってくれよ」


 「ありがとうございます! じゃあすぐに手配しますね!」


 「ありがとう。それじゃこのままいただくから」


 「いえいえ! ちゃんと新車を納品いたしますよ」


 「いや、そうじゃなく、あのスーパーファストが気に入ったんだ」


 「そうですか! でもあいにくあれはあくまで試乗用のものですので、お譲りするわけには」


 遣り取りをしたが、どうにもならなかった。

 正直に話した。




 「え、破損したんですか。それは結構ですよ。石神先生のことですから、こちらで修理いたします」

 「そういうわけにもいかなくてな。もう、廃車にするしか」

 

 「何か事故でも!」

 「そうじゃないんだけど」



 ディーラーの担当者が見に来た。


 「……」


 「面目ない」









 4000万円がとんだ。 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ