《オペレーション・ゴルディアス》 XⅦ : 決戦の地へ
ここに残ったのは俺と聖、虎白さんたち剣聖50名、斬、そして亜紀ちゃん。
このメンバーで最終決戦に挑む。
「業」の《位相反射》の対策はある程度出来た。
「トラ、なんで「業」の野郎は来ねぇのかな?」
聖が俺に聞いて来た。
確かにそうだ。
あのルイーサすら斃した《位相反射》を使えば、俺たちもアラスカも蹂躙出来ると考えるだろう。
別に待つ必要は無いのだ。
「多分な、余裕を見せてんだろうよ」
「あぁ?」
「もう勝った気でいやがんだよ。俺たちに《位相反射》は防げないってな」
「あんだとぉ!」
聖が怒った。
俺は笑って言った。
「もう勝利は決まったから、俺たちにも興味はねぇんだろう」
「おい、ぶっ込もうぜ!」
「そうだな」
「業」は俺たちが行けば迎え撃つだろう。
絶対に勝てると思っているから動かずにいるのかもしれないのは本当にそうだ。
だが俺は密かに別な理由がある可能性も考えていた。
《位相反射》は相当に特殊な技だ。
「業」の能力は途轍もないが、それにしてもあり得ない程に超絶の能力だ。
もしかしたら、何か制限があるのかもしれない。
それが、「業」が移動しない理由になっていることも考えられる。
しかしそれは甘い考察かもしれない。
それに依頼するのは危険だ。
もちろん、俺たちは行く。
居場所は多分、ルイーサがやられた地点だろう。
そこに「業」は悠々と待ち構えている。
仮に《位相反射》に制限があったとしても、既に勝利を確信しているのも確かだ。
「まあ、待て。ちょっとは試してから行こうや」
「おい、トラ!」
「焦るこたぁねぇよ。あいつが余裕綽々でいやがる顔をぶっ飛ばしてやろうぜ」
「おう、そりゃいいな!」
「な!」
逸る聖を落ち着かせは下が、まだ確実な戦略は無い。
《位相反射》に対しては「業」に気付かれない攻撃を充てるということは分かっているのだが、どのようにしてそれを実現するのかはまだ確立してはいないのだ。
だが、もちろん俺には考えはある。
俺と聖は戦場の猛者だ。
数多くの戦場に出て、築き上げた積み上げがある。
しかし「業」は戦場に出ていたのは若い時期の短い間だけだ。
フランス外人部隊にいたが、その経歴を徹底的に洗い出して、あいつがそれほど活躍していなかったことが分かっている。
戦闘力はあるが、指揮系統からはみ出す奴で、上官や仲間からは毛嫌いされていた。
フランス外人部隊は規律が厳しいことで有名だったが、「業」の「花岡」は規律に従わせないほど強かった。
まあ、銃器の通用しない程度には「花岡」を練り上げていた。
だが、そういうこともあって、「業」はそれほど戦場には出ていない。
しかも、「危険の感覚」を養う間も機会も無かったに違いない。
俺と聖が命の危険に晒されながら戦場を渡り歩いたのとは違う。
「戦場の勘」は、命がけの中で養われる特殊感覚だ。
俺も聖も銃弾をかわせるし、未知の妖魔の攻撃すら気配を感じて回避することが出来る。
戦場の流れを読んで敵の動きや強さも感じられる。
そこに付け入る隙がある、と俺は考えた。
まずはルーとハーが突破口を開いてくれた。
まあ、俺と聖はそれほどやることに違いはない。
俺が突っ込んで聖が後方支援で砲撃する。
どちらかが「無意識」にぶち込めばそれでいい。
俺にはその自信があったし、聖もそうだ。
「業」は完全に勝ったつもりでいるのだろうが、正確には分からない。
あいつは人間の思考をしていない可能性もある。
余りにも巨大な妖魔、そして莫大な数の妖魔と合体したため、精神に変調を来しているかもしれない。
ただ、「ボルーチ・バロータ」の証言では、人間的な反応もあるようだ。
直接「業」と接していた人間もいるが、「業」は異様な存在ではあったが人間として認識されていたようだ。
姿は黒い霧を噴出している他は、俺の知っている姿でいるようだ。
それは先ほどルイーサと対峙した時の映像で俺も確認している。
「業」は「業」のままでいる。
俺にはそれが不思議なこととも思えなかった。
俺自身が以前とは比べようも無い力を得ているが、まだ俺のままだからだ。
「業」も同じではないかということは、俺の中にいる別な意識がそう悟らせている。
そして同時にその向こう側にある、余りにも壮大な物語に引き込まれそうになる。
俺と「業」がこの世界だけに存在しているのではないという認識があるのだ。
「石神様、《オペレーション・オロチ》が発動されました」
「そうか、分かった」
聖が俺に言った。
「やっぱそうなったかよ」
「ああ、話してた通りだな。あいつ、もう勝ったつもりだぜ」
「案外チョロいな」
「アハハハハ、そうだな」
俺たちは「業」が同時多発的に《ニルヴァーナ》のパンデミックを狙うことを確信していた。
最初の時に何故それをしなかったのかが不思議なくらいだ。
ポルトガルの他、大都市で幾つもやられていたら、俺たちには対応出来なかったに違いない。
その後に「Ωワクチン」を開発できたのも、奇跡だ。
《エイル》の助けがあったからこそで、本来であればまだまだ数年単位で時間が掛かってもおかしくはなかった。
反対に、「業」は確実に俺たちに甚大な被害を及ぼせたのだ。
後からの推察だが、まだ《ニルヴァーナ》の量が少なかった段階で実戦に投入されたのだろうということが考えられた。
それが事実であれば、「業」は量産が出来てから使うべきだった。
だが、それも俺は「タイニー・タイド」の進言だったのだろうと思う。
「予言」という枠に嵌めて、「業」に不利な動きを採らせたのだ。
「聖、行くぞ」
「おう!」
俺たちは「業」のいる場所へ向かった。




