ラムジェットエンジン「皇紀DX初号機」
ゴールデンウィークのイベントが増えた。
皇紀はその最終仕上げのために、作業小屋に泊まり込んでいた。
「皇紀ちゃん、スゴイんだよー!」
ルーが俺に説明する。
散歩の途中だ。
「どうスゴイんだよ?」
「それはまあ、ソフトクリームでも食べながら」
ハーが言う。
まあ、結局喰いたいんだろう。
機械好きな皇紀に、俺はドゥカティのスペックや構造を細かに説明してやった。
皇紀は興味深げに聞き、メモを取る。
「僕は、もっと速くてパワーのあるものを作りますよ!」
「おう! 期待してるぞ」
皇紀がロケットに失敗したのは去年の話だ。
まあ、俺が手伝ったとはいえ、小学生が立派にロケットを作ったのだから、かなり優秀だ。
しかし皇紀は今、ラムジェットエンジンを作ろうとしている。
実際に、一つ作った。
ベンチテストをした。
燃料のバルブを開き、アルミの筒の後部にバーナーで火を入れる。
爆発した……
俺は皇紀の頭を殴り、設計からやり直せと言った。
どうも、ネットの動画を見て真似していたらしい。
ラムジェットエンジンの構造自体は単純だ。
筒の前方にショックコーンという構造体を固定するのだ。
先端が尖っていて、後部が膨らんでいればいい。
前方から入った空気は、膨らんだ後部で圧縮され、燃料を噴射することで、高圧の混合ガスができる。
それをスパイクにぶつけることで、衝撃波が生まれ、燃焼する。
前方に高圧があるため、爆発燃焼して体積が瞬時に膨らんだガスは、後方に噴出する。
推進する、という過程だ。
皇紀がやったのは、最初に強制的に後部で燃焼させ、後ろから噴射することで前方から空気を取り入れよう、というものだった。
冗談じゃない。
高圧になった筒の中で、前方にも膨らんだガスが、何もかも吹っ飛ばしただけだ。
俺が基本的な設計と、燃焼と流体圧力の計算の数式を示した。
数式は、双子が手直ししていく。
前方に着脱式のプロペラエンジンを付け、初期の流体を作る。
燃料噴射は電子制御にし、コントローラーが付いた。
着火は点火プラグにする。
これも、バッテリーを着脱式にする。
ラムジェットエンジン「皇紀Ⅱ号機」。
作業小屋でベンチテストをする。
「あ、赤くなってきたよ!」
「あ、後ろから火が出てるよ!」
双子の解説を聞くまでもない。
アルミの煙突パイプは高温で溶け始め、凄まじい火炎を吹いた。
「皇紀! 燃料を止めろ!」
火炎放射器は止まった。
ラムジェットエンジン「皇紀Ⅲ号機」。
作業小屋でベンチテストをする。
今回は消火器を使い、頑丈に作られている。
「あ」
ドーン、という爆発音の後で、ショックコーンが吹っ飛んできた。
鋼鉄のドアにぶつかり、ドアがへこんだ。
作業小屋には、様々な機械が増えていく。
グラインダーや溶接機、プラズマカッター。
高電圧を使うため、あらたに高圧を引き込んだ。
300万円くらいかかった。
双子が支援した。
皇紀は夢中で作業にとりかかり、双子が時々遊びに行っている。
皇紀の進捗を俺に報告し、俺のアドバイスを皇紀に伝えるのも双子だ。
また、双子自身が皇紀のために計算したり、必要な機材や材料を購入していった。
双子の資産は2億円を超えていた。
チョコとバニラのソフトクリームを食べながら、双子が教えてくれた。
「今回は期待できるかも」
「皇紀ちゃん、溶接が上手くなったもんねぇ」
今回は、チタンを使っているらしい。
加工が難しいが、業者に設計図を送り、基本的な構造を作らせた。
「強度は問題ないかな」
「うん、計算でも大丈夫そう」
今は最後の仕上げで、流体をスムーズに流すために研磨しているそうだ。
ラムジェットエンジン「皇紀DX初号機」。
作業小屋でベンチテストをする。
燃料噴射の電子制御の回路が大型化している。
初期動作用のエンジンも大型化し、前回と比較にならない回転数を叩き出している。
筒に幾つかの小さな筐体が付けられ、コードが燃料噴射の基盤に伸びている。
「あれはね、熱センサー。構造体が耐えきれない高温になったら、燃料を止めるの」
俺が聞くと、ルーが教えてくれた。
基本的な仕組みを把握しているらしい。
ツナギに白衣を着た皇紀が初期エンジンを始動。
白衣は俺のお古だ。
大分でかい。
なんか欲しがったのでやった。
風速計で測り、燃料噴射を開始。
スパークプラグが火花を飛ばした。
轟音と共に、後部から炎の噴射。
それはすぐに短くなり、激しい振動が始まる。
皇紀は初期エンジンを止めて脱着させた。
自律運転している。
しばらく見守って、俺たちは大騒ぎした。
皇紀が泣いている。
双子も涙を流した。
後ろで見ていた亜紀ちゃんは、呆れていた。
「一杯お金を使って、徹夜して、ゴーゴーいってるだけ」
小学校の校庭で、試運転することになった。
俺は栞、六花、響子、鷹を誘った。
一江や部下たちも誘ったが、なぜか断られた。
「すいません! 興味ないっす!」
斎藤が、そう言った。
おかしな連中だ。
後輪が二つ付いている自転車。
後ろの荷台に「皇紀DX初号機」を乗せ、燃料タンクや制御基板などを取り付けた。
皇紀が操縦するのかと思ったが、俺にやってくれと言う。
「タカさんのために作ったんです」
泣きそうになった。
俺は皇紀を抱きしめ、双子も呼んで三人を抱きしめた。
ちょっと泣いた。
「じゃあ、行くぞ!」
皇紀が初動エンジンを動かし、風量を測定し、ついに燃料噴射のスイッチを入れる。
轟音が響き始め、ブレーキが重くなっていく。
「タカさん! 行って下さい!」
「おう!」
最初はゆっくりとだったが、段々とスピードが上がっていく。
気持ちいい。
時速が20キロくらいになった。
ハンドルがききにくい。
「おーい! これどうやって止めるんだぁ!」
「すいません! そこ、考えてませんでしたぁ!」
時速は40キロくらいになった。
塀が近い。
俺は「虚震花」でエンジンを破壊した。
惰性で進んだ自転車は、小学校の塀にぶつかった。
前輪がひしゃげ、俺は一回転して両足で塀にダイブした。
両膝をクッションにして、ショックを逃がした。
俺くらいしかできないぞー。
普通は死んでる。
皇紀と双子が駆け寄って来る。
栞と亜紀ちゃん、鷹は藤棚の椅子でお喋りしている。
響子と六花は、広い校庭をセグウェイで楽しく遊んでいた。
俺は皇紀の頭にチョップを入れた。
「帰るぞ」
「「「はい」」」




