帰宅
俺たちは起きて、シャワーを一緒に浴びた。
栞が、丁寧に俺を洗ってくれる。
服を着て、リヴィングへ行った。
栞が食事を作ってくれる。
温かな、和食の数々が並んだ。
「身欠きにしんですか!」
「石神くんが壊した実家から送ってきてくれたの」
「アハハハ!」
身欠きにしんは美味しかった。
「ところでね、前から言いたかったんだけど」
「なんですか?」
「あの、名前ね。「はなおかバスター」って、どうなのかなって」
二人で笑った。
「でも、もう外で大々的に公表しちゃいましたからねぇ」
「うーん、でも」
双子の命名だった。
以前は花岡の「虚震花」のことをそう呼んでいたのだが、自分たちが開発した新しい技に、それを流用した。
「開発者が決めたことですから」
「でも、最初は亜紀ちゃんじゃない」
「ええ。でも理論的に組み上げたのはルーとハーですからね」
「恐ろしいことよね」
「そうですねぇ」
まさに天才だった。
亜紀ちゃんはそれを上回る超天才だが、双子は理論的に構築する才能を持っていた。
特に、素数に関するセンスが抜群だった。
そういう理論の基盤は、栞にも誰にも話していない。
俺と双子だけの機密だ。
使えるのは、亜紀ちゃん、俺、双子、栞の五人だけだ。
出来た順番がそれだが、威力は別の順番になる。
俺が購入した丹沢の山地は、地形が変わっている。
理論的に構築されたため、「教える」ことができる。
もちろん、特殊な才能が必要だが。
俺は、ようやく家に帰った。
長時間の走行で、ドゥカティは汚れていたが、洗車する余裕はなかった。
便利屋に頼みたいのだが、なぜか怖がってやってくれない。
「おっかねぇ。このバイク、人を殺してますよ」
「新車だよ!」
「じゃあ、旦那、ついに」
「殺してねぇ!」
「でも、何百人も殺してますって」
「お前の頭の方が怖ぇよ!」
ダメだった。
仕方がない。
週末までに時間を作るか。
「お帰りなさい」
亜紀ちゃんが出迎えてくれた。
何も話してはいないが、俺の雰囲気で何かを感じていたのだろう。
「お疲れですね」
「ああ、疲れたよ。食事は済ませたから、風呂に入ってすぐに寝るからな」
「はい」
亜紀ちゃんが風呂の用意をしている間、俺はライダースーツを着替えた。
ネルで丁寧に埃を拭う。
「沸きましたよー!」
亜紀ちゃんが呼んでいる。
俺は浴室に向かった。
ドアの前で亜紀ちゃんが待っていた。
中に入り、鍵をかける。
「はーなーおーかーバスター!」
「おい! よせ!」
ガチャリ。
「ん?」
亜紀ちゃんが入ってきた。
「エヘヘ、合鍵作っちゃいましたー!」
「お前!」
亜紀ちゃんは、無視して服を脱いでいく。
「やめろって!」
「やめません」
「おい、皇紀や双子が」
「平気です」
「俺が平気じゃねぇ!」
「今日だけです」
「なに!」
「今日だけ、背中を洗わせてください」
「なぜ!」
「タカさん、また私たちのために、何かしたんですよね」
「……」
「私も、タカさんのために、何かさせてください」
「……」
俺は無言で浴室に入った。
シャワーを浴びる。
「おい!」
「はい!」
「早く洗ってくれ。全身だぞ!」
「は、はい!」
「オチンチンもだぞ!」
「そこはイヤです!」
俺たちは笑い、亜紀ちゃんは背中を洗ってくれた。
座って、髪も洗ってもらう。
「ああ、いい気持だ」
「タカさんって、ハゲるんですか?」
「不吉なことを言うな! 洗いながら「ガンバレ」と言ってやれ」
亜紀ちゃんはクスクスと笑いながら、「ガンバレ」と言い続けてくれた。
「じゃあ、はい! 私の番です」
「かんべんしろー!」
亜紀ちゃんは笑って軽くシャワーを浴び、浴槽に入って来る。
「洗うだけじゃねぇのかよ」
「うん!」
楽しそうだ。
俺は響子のために用意しているアヒルを持ってきた。
そうでもしないと、間違いが起こりかねない。
「カワイイですね!」
良かった。
「なあ、亜紀ちゃん」
「はい」
「単価の話なんだけどなぁ」
「え? あ、ああ、はい!」
「花岡さんの単価が一番だから。追い越さないでやってくれ」
「アハハハ!」
「じゃあ、「愛してるよ、亜紀」って言って下さい」
「それはちょっとなぁ」
「えぇー! こないだは言ってくれたじゃないですか!」
「言葉に出してはいけない」
「ずるいですよー」
二人で笑った。
湯が、気持ちよかった。
♪亜紀ちゃんは~ ちょっと大食いだけど、愛してるぜ~♪
亜紀ちゃんが歌い出した。
「エヘヘ、覚えちゃいました!」
俺たちは、一緒に歌った。




