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星の家族:シャルダンによるΩ点―あるいは親友の子を引き取ったら大事件の連続で、困惑する外科医の愉快な日々ー  作者: 青夜


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美少女は世界を回す 一部を除く

晴れて二人の仲を認められた俺と響子は、以前にも増して熱愛の真っ最中だった。


 「ねぇ、タカトラ」

 恋人な響子ちゃんは、俺をそう呼ぶようになった。


 「あんだよ」

 「タカトラの家に遊びに行きたい」

 「あっ?」


 響子は俺の膝の上に乗って、食堂の人が特別に作ってくれたお子様ランチを食べている。

 そして俺に振り返って抱き締めてきた。

 「おねがいー」


 食堂にいたみんなが俺を見ている。

 特別なサービスということで、こんなことをしていた俺も、さすがに怒った。


 「やめろ、響子! もう膝から降ろすぞ」

 「いやいや」


 響子はおとなしく向き直り、食事を続ける。

 さて、どうしたものか。

 俺も考えてはいたのだ。

 ロックハート参事官は、東京を連れ回して欲しいというようなことを言っていた。

 だが響子の体調を考えると、出歩くのは無理だろう。


 俺は「正確」な響子の病状を知っていた。

 アビゲイル参事官の許可が下り、俺に院長から特別の開示があった。

 だから、俺の家に招待するのはどうかと思っていたのだ。

 子どもたちなら、響子を問題なく受け入れるだろう。

 双子は年回りも同じだ。




 響子は、スキルス性のガンだった。

 肺に浸潤したガン細胞は、幸いにして全摘できた。

 だが子どもの小さな身体では相当な負担だったはずで、その後の抗がん剤の使用も細心の注意で投薬している。

 しかし、最近の経過は本当に順調以上だ。

 めきめきと体力を取り戻していく響子は、その分俺に会いに来る頻度を増していく。

 俺も院長命令の下、また響子はカワイイから、なるべく時間をとってやる。

 でも時々、夜中に起きた響子が俺に会いたいと泣き騒ぐと、夜間シフトのナースたちから聞いていた。




 俺が悩んでいると、アメリカ大使館から呼び出された。

 もちろんロックハート参事官だ。

 歩いて大使館へ向かう。

 本当に近いのだ。

 アメリカ大使館の前には、大勢の警官が常に警備している。

 鉄骨のバリケードや監視塔まである。

 世界で最も敵の多いアメリカらしい。

 日本の中にも様々な敵対組織も多い。

 ものものしい警備の中、俺は参事官に呼ばれたことを告げ、確認されている間、念入りなボディチェックを受ける。


 建物の中から大使館員と思しき若い男性が迎えに来てくれ、ロックハート参事官の部屋まで案内された。


 「今日は呼び出して申し訳ない」


 参事官はそう言い、俺に座るようソファを進めた。

 すぐにコーヒーが運ばれ、俺たちの前に置かれる。


 「君のことは少し調べさせてもらったよ」

 「……」

 「驚いたけど、記録が見つかった。君はわが国のために働いてくれたことがあるんだね。ええと、十八歳か」

 俺は大変に気分を害していた。


 「ミスター・マザー・ファッカー。そのお話は大変に不快です、しっと」

 俺の言葉に、ロックハート参事官は苦笑いをする。

 「どうしてかね。私は立派なものだと思うが」

 「前提が違います。俺は貴国のためではなく、母親のために働いただけです、ふぁっくしっと」

 「分かった、もうこの話はしない」

 「他にその話がもれたら、私とあなたの関係はすべて終わりです、たいにー・なっつ」

 参事官は気にすることなく、話を続けた。


 「キョウコのことなんがだ」

 それ以外だったら驚く。

 「君の家に行きたいとせがんでいるんだ」

 「ああ、そのお話ですか。最初からそう言えばいいんですよ、じゃっく・おふ」

 「ま、まあ、私が悪かった」

 困ったように、俺を見る。


 「ああ、それは俺もせがまれてるんで、考えています」

 「そ、そうか! 仕度はもちろんこちらでするし、必要なら警備の人間も用意する」

 マリーンならちょっと会いたい。

 「海兵隊ですか!」

 「いや、ちがうけど」

 なんだ。

 「じゃあ、うちも子どもたちに聞いてからになりますが、決まったらお知らせします」

 「そうか、本当にありがとう」


 その後しばらく、響子の褒め称え合戦になり、どちらがより響子の可愛さを表現できるかを競った。





 最後の方で大使がやってきた。

 「この男が私のことをマザーファッカーと罵った奴です」

 「おお!」

 俺はロックハート参事官の肩を抱き、大使に微笑んだ。

 

 俺は大使と握手を交わし、早々に大使館を出た。

 大使からは、今度一緒に食事をしようなどと言われた。




 「ということでな」

 「まだ何にも聞いてませんけど」

 亜紀ちゃんが言った。

 俺は子どもたちに、ロックハート響子ちゃんという、8歳の女の子が家に遊びに来ると告げた。

 簡単に経緯も説明する。

 「ハーフの子なんだけど、日本語は大丈夫だ。ちょっと髪が茶色だったり、目が青かったり、しっぽがあったりするけどな」

 「ええ、しっぽがあるの?」

 瑠璃が喜んだ。

 「あるわけないでしょ、タカさんのいつもの冗談だから」

 亜紀ちゃんが訂正する。

 「なーんだ」

 「ということでな、今度の日曜日にここへ来る。みんな、仲良くしてやってくれ」

 「「「「はーい!」」」」


 どうしようか。

 緑子でも呼んでおくか。

 それとも花岡さんか。




 「花岡さん、日曜日の予定は空いてますか?」

 「え、ええと、はい! 全然! 空いてます! もう空き空きです!!!」」

 俺は響子が家に来るので、来てもらえないかという話をした。

 「ああ、そういえば日曜日は全部予定が埋まってました。夜中まで身動きできませんでした。申し訳ありません、そして死ね」

 そう言い放ち、肩を俺にぶつけて去っていった。


 緑子に電話してもゲネプロだと言われた。

 次の公演が一段落したら、また遊びに来てくれるそうだ。

 一江にも大森にも断られた。


 仕方ない、なんとかしよう。

読んでくださって、ありがとうございます。

面白かったら、どうか評価をお願いします。

それを力にして、頑張っていきます。

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